永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(904)

2011年03月01日 | Weblog
2011.3/1  904

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(81)

 大君ご自身も、平癒なさりたいと仏をも祈念なさるならともかく、お心の中では、

「なほかかるついでにいかで亡せなむ、この君のかく添ひ居て、残りなくなりぬるを、今はもて離れむ方なし」
――やはり、こういう時に何とかして死んでしまいたい。薫がこうして付き添ってくださっていて、何もかもすっかり見られてしまったからには、もうこの御方の絆から逃れる術もないほどなのに――

「さりとて、かうおろかならず見ゆめる心ばへの、見劣りして我も人も見えむが、心安からず憂かるべきこと、もし命強ひてとまらば、病にことつけて、かたちをも変へてむ、さてのみこそ、長き心をも、かたみに見果つべきわざなれ」
――といって、今目の前の薫の並々ならぬご愛情にしても、行く先きっとお互いに、こんな筈ではなかったと思う日が来るに違いない。好意が薄らいで見えるようでは、不安でわびしいに違いない。もし命を取り留めたなら、病に事寄せて出家してしまおう。それでこそお互いが変わらぬ心を見届ける道なのだもの――

 と、すっかりお心を決めていらっしゃる。大君は、とにもかくにも、何とかして希望する出家の事を遂げたいと思われるのですが、このような利口ぶったことを薫にはおっしゃれなくて、中の君に、

「心地のいよいよ頼もしげなく覚ゆるを、忌むことなむ、いと験ありて命延ぶること、と聞きしを、さやうに阿闇梨にのたまえへ」
――この容態では快復の見込みなどないように思えます。受戒することこそ、延命に効果があることだと聞いています、そのように阿闇梨にお願いしてください――

 と、おっしゃいます。侍女たちは泣き騒いで、

「いとあるまじき御事なり。かくばかりおぼし惑ふめる中納言殿も、いかがあへなき様に思ひ聞こえ給はむ」
――ご出家などとはとんでもない事でございます。これ程ご病気を心配なさっていらっしゃる薫の君も、どんなに張り合いなくお思い申されるでしょう――

 と、取り合おうともせず、頼みの薫にもお取り次ぎをしませんので、大君は、残念でならないのですが、どうにもなりません。

◆かたちをも変へて=形を変えて=異形(出家して尼姿)になって。

◆忌むこと=仏教の戒律。受戒して出家する。

◆あるまじきこと=出家後は結婚などあり得ないので、とんでもないことだという。

では3/3に。


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