永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1138)

2012年07月27日 | Weblog
2012. 7/27    1138

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その46

 「『のちは知らなど、ただ今はかく思し離れぬさまにのたまふにつけても、ただ御しるべをなむ思ひ出できこゆる。宮の上の、かたじけなくあはれに思したりしも、つつましきことなどの、おのづから侍りしかば、中空にところせき御身なり、と、思ひ歎きはべりて』といふ」
――(母君が)「後のちのことは存じませんが、ただ今はこのようにお見棄てなく、深いお志のお言葉を頂くにつけましても、ほんとうに貴女さまのお取り持ちのお陰と、うれしく思っております。中の君が勿体なくもこの娘を可愛くお思いくださいましたにも、実は少々不都合なことが起こりましたので、そのままお預りねがうことができませんで、寄るべのないお身の上になられたと嘆いておりまして」といいます――

「尼君うち笑ひて、『この宮の、いとさわがしきまで、色におはしますなれば、心ばせあらむ若き人、さぶらひにくげなむ。おほかたは、いとめでたき御ありさまなれど、さる筋のことにて、上のなめしと思さむなむわりなき、と大輔が女の語り侍りし』と言ふにも、さりや、まして、と君は聞き臥し給へり」
――尼君はほほえんで、「あの匂宮は、うるさいほどの色好みでおいでだそうですから、気の利いた若い女房はお仕えしにくいようです。その他のことでは、まことにご立派なお方なのですけれども、この方面のことで、宮の上(中の君)が、ご機嫌を悪くなさっても困ると、大輔(たいふ)の娘が申しています」と言っています。浮舟は、なるほど女房でさえそうなのだから、まして自分は…と聞きながら、またうち伏してしまわれました――

「『あなむくつけや。帝の御女をもちたてまつり給へる人なれど、よそよそにて、あしくもよくも、あらむは、いかがはせむ、と、おほけなく思ひなし侍る。よからぬことを引き出で給へらましかば、すべて、身には悲しくいみじと思ひきこゆとも、また見たてまつらざらまし』など、言ひかはすことどもに、いとど心ぎももつぶれぬ」
――(母君が)「まあ、なんて気味が悪い。薫の君は帝の内親王を北の方にいただいておいでになりますが、でもまあ、それは血の繋がった仲のお方とは違っていますし、良くも悪くも、(日蔭者として)とにかく成り行きに任せるより仕方がないと、お畏れおおくも考えています。でももしも、あちらの宮様との間に、とんでもないことを起されでもしましたら、もう私は自分がどんなに悲しくおもうにせよ、ニ度とふたたび浮舟の顔は身ますまい」などと話し合っているのを、浮舟はお聞きになって、いっそう肝もつぶれるように思われます――

「なほわが身をうしなひてばや、つひに聞きにくきことは出で来なむ、と思ひ続くるに、この水の音のおそろしげに響きて行くを、『かからぬ流れもありかし。世に似ず荒ましき所に、年月を過ぐし給ふを、あはれと思しぬべきわざになむ』など、母君したり顔に言ひ居たり」
――(浮舟は)やはりこの身を亡きものにしてしまおう、きっと外聞の悪い事が起こるにちがいない、と考えつづけておりますと、宇治川の水音がすさまじい響きを立てて流れていきますので、母君が「同じ川でもこんなに荒々しくない流れもありましょうに。このような世にも荒々しい所に、長い間暮らしておいでですもの、可哀そうだと薫大将がお思いになりますのも、ご無理もないことでしょう」などと、したり顔で言っています――

では7/29に。

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