2010.2/25 658回
四十帖 【御法(みのり)の巻】 その(1)
源氏(六条院) 51歳 3月~秋まで
紫の上(この巻で逝去) 43歳
夕霧(大将の君) 30歳
明石中宮(今上帝の中宮) 23歳
明石の御方 42歳
秋好中宮(冷泉院の后) 42歳
薫(女三の宮と柏木の子) 4歳
匂宮(明石中宮の三の宮) 5歳
「紫の上いたうわづらひ給ひし御心地の後、いとあつしくなり給ひて、そこはかとなくなやみ渡り給ふこと久しくなりぬ。(……)院の思ほし歎くこと限りなし」
――紫の上は、あの大患いの後、ひどくご病気がちになられて、何となしにあのままご気分が悪いまま年月がたっておりました。(大病というわけではありませんが、この年頃、ますます弱々しくなってこられましたので)源氏は歎き悲しんでおられます――
紫の上に少しでも死に後れるようなことがあれば、どんなに不幸かと源氏は思っていらっしゃる。紫の上ご自身は、
「この世に飽かぬことなく、うしろめたきほだしだに交じらぬ御身なれば、あながちにかけとどめまほしき、御命とも思されぬを、年頃の御契りかけ離れ、思ひ歎かせ奉らむ事のみぞ、人知れぬ御心の中にも、ものあはれに思されける」
――この世の栄華を見尽くして、もう何も不足なことはなく、生い先が心配な子供もいらっしゃらないお身体ですので、強いて生き延びたいお命とも思われませんが、源氏との長年のご縁が絶えて、お嘆きをおかけすることだけが内心の気がかりで、夫婦の別れをしみじみとお感じになるのでした――
「後の世の為にと、尊き事どもを多くせさせ給ひつつ、いかでなほ本意あるさまになりて、しばしもかかづらはむ命の程は、行いを紛れなく」
――来世の菩提のためにと、仏事や供養をたくさん営まれては、やはり何とかして希望とおり出家して、しばらくでもこの世に命のある間は、念仏三昧に送りたいものです――
と、源氏に一途に申し上げますが、全くお聞き入れになりません。
◆あつしく=篤し(あつし)。病気が重い、病気がち。
◆うしろめたきほだし=後ろめたし(心配な、不安な)。ほだし(絆)=束縛するもの、妨げになるもの
◆尊き事ども=仏事、供養など
ではまた。
四十帖 【御法(みのり)の巻】 その(1)
源氏(六条院) 51歳 3月~秋まで
紫の上(この巻で逝去) 43歳
夕霧(大将の君) 30歳
明石中宮(今上帝の中宮) 23歳
明石の御方 42歳
秋好中宮(冷泉院の后) 42歳
薫(女三の宮と柏木の子) 4歳
匂宮(明石中宮の三の宮) 5歳
「紫の上いたうわづらひ給ひし御心地の後、いとあつしくなり給ひて、そこはかとなくなやみ渡り給ふこと久しくなりぬ。(……)院の思ほし歎くこと限りなし」
――紫の上は、あの大患いの後、ひどくご病気がちになられて、何となしにあのままご気分が悪いまま年月がたっておりました。(大病というわけではありませんが、この年頃、ますます弱々しくなってこられましたので)源氏は歎き悲しんでおられます――
紫の上に少しでも死に後れるようなことがあれば、どんなに不幸かと源氏は思っていらっしゃる。紫の上ご自身は、
「この世に飽かぬことなく、うしろめたきほだしだに交じらぬ御身なれば、あながちにかけとどめまほしき、御命とも思されぬを、年頃の御契りかけ離れ、思ひ歎かせ奉らむ事のみぞ、人知れぬ御心の中にも、ものあはれに思されける」
――この世の栄華を見尽くして、もう何も不足なことはなく、生い先が心配な子供もいらっしゃらないお身体ですので、強いて生き延びたいお命とも思われませんが、源氏との長年のご縁が絶えて、お嘆きをおかけすることだけが内心の気がかりで、夫婦の別れをしみじみとお感じになるのでした――
「後の世の為にと、尊き事どもを多くせさせ給ひつつ、いかでなほ本意あるさまになりて、しばしもかかづらはむ命の程は、行いを紛れなく」
――来世の菩提のためにと、仏事や供養をたくさん営まれては、やはり何とかして希望とおり出家して、しばらくでもこの世に命のある間は、念仏三昧に送りたいものです――
と、源氏に一途に申し上げますが、全くお聞き入れになりません。
◆あつしく=篤し(あつし)。病気が重い、病気がち。
◆うしろめたきほだし=後ろめたし(心配な、不安な)。ほだし(絆)=束縛するもの、妨げになるもの
◆尊き事ども=仏事、供養など
ではまた。