永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(659)

2010年02月26日 | Weblog
2010.2/26   659回

四十帖 【御法(みのり)の巻】 その(2)

 源氏とても、ご自身でも出家については、かねてよりお考えになっておられたことでもあり、紫の上の熱心な発心に促されて、ご一緒に仏道にお入りになろうともお考えになりますが、死後は一蓮托生を約束されてそれを当てにできる間がらでも、

「ここながらつとめ給はむ程は、同じ山なりとも峰を隔てて、あひ見奉らぬ住処に、かけ離れなむ事をのみ思し設けたるに(……)いと心苦しき御有様を、今はと往き離れむきざみには棄て難く、なかなか山水の住処濁りぬべく、思しとどこほる程に、(……)」
――現世で勤行なさる間は、たとえ同じ山に籠るとしても別々の峰で、決してお逢いできない処に離れてしまうお積りでしたが、(紫の上がこう患って苦しそうにしておいでなのを)いよいよ出家だからという間際になって見棄てることも出来ず、そのようなことでは却って修業の邪魔になるにちがいないと迷っていますうちに、(ただ思いつきで出家を志す人々には、ひどく立ち遅れてしまうだろう)――

 紫の上は、

「御ゆるしなくて、心ひとつに思し立たむも、さまあしく本意なきやうなれば、この事によりてぞ、女君はうらめしく思ひ聞こえ給ひける。わが御身をも、罪軽かるまじきにや、と、うしろめたく思されけり」
――源氏のご承認なしに勝手に出家なさるのも不体裁で、気がお進みになりませんので、このこと一つの為に、源氏を恨めしく思っておられました。またこのように出家できないのは、罪障が深いためなのかと気がかりにも思うのでした――

 紫の上は、この年来ご自分の発願で写経をおさせになって来られ、法華経千部をご供養なさることにして、一番気楽な二条院でなさいます。七僧の法服をはじめ、何から何までご計画が行き届いておられますのを、源氏は心底ご立派だとお思いになって、そのほかのことをご用意なさったのでした。

 楽人、舞人のことなどは夕霧が特にご奉仕なさいます。帝、東宮、中宮をはじめ、六条院の女方からも、御誦経の御布施物や御仏前へのお供物があふれるばかりで、たいそう物々しいものになったのでした。何時の間に紫の上が、これ程のご供養をご用意されたことでしょう。よほど前々から御念願であったろうと察せられるのでした。

ではまた。

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