永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(442)

2009年07月11日 | Weblog
09.7/11   442回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(51)

 女三宮の、このご様子に気づいた夕霧が、咳払いなどでお知らせ申しましたので、宮はそっと引き下がられたのですが、実は夕霧にとってもひどく物足りない思いなのでした。

 ましてや、あれ程女三宮に心奪われています柏木は、

「理なき心地のなぐさめに、猫を招きよせて、かき抱きたれば、いとかうばしくて、らうたげにうち啼くも、なつかしく思ひよそへらるるぞ、すきずきしきや」
――やるせない心の慰めに、例の唐猫を招きよせて抱きしめますと、宮の移り香らしい芳ばしい香で、愛らしげに鳴くのを、まるで宮の御有様のように思われるのは、好色めいてただ事ではない――

 源氏がこちらをご覧になって、

「上達部の座、いと軽々しや。こなたにこそ」
――公卿がそのような端近に居ては軽々しい。さあこちらへ来られよ――

 と、東の対の南廂にお入りになり、皆もそちらへ参上します。

「簀子に園座召して、わざとなく、椿餅、梨、柑子やうのものども、さまざまに、箱の蓋どもに取り混ぜつつあるを、若き人々そぼれとり食ふ。さるべき干物ばかりして、御土器まゐる。」
――簀子(すのこ)に園座(わろうだ)を敷かせて、何げないふうに、椿餅(つばいもちい)や、梨、柑子(こうじ)のようなものを幾種類も箱の蓋にとりまぜて盛ってあるのを、若い人たちは、戯れながら取ってお食べになる。適当な干物(からもの)ばかりを肴に、お酒を召し上がっていらっしゃる――

「衛門の督は、いといたく思ひしめりて、ややもすれば、花の木に目をつけてながめやる」
――柏木はひどく沈みがちに、ややもすれば桜の枝に目をやって、ぼんやり眺めてばかりいます――

 夕霧は、事情が分かっていますだけに、さては、柏木は御簾を透かして仄かに拝した女三宮にすっかり心を奪われてしまったのだ見透かしておいでです。夕霧は心の内で、

「いと端近なりつる有様を、かつは軽々しと思ふらむかし、いでやこなたの御有様の、さはあるまじかめるものを、(……)なほ内外の用意多からず、いはけなきは、らうたきやうなれど、うしろめたきやうなりや」
――(女三宮が)あのように端近にいらしたことを、柏木も一方では軽率な、と思うであろう。それにしてもこちらの紫の上には、決しておありになるようなことではない。(なるほど、こういう風でいらっしゃるから、宮は世間で思われていらっしゃるほどには源氏の御寵愛が深くないのだ)やはり、ご自分にも他人にも御注意が足りず、幼稚でいらっしゃるのは、可愛いばかりで危なっかしい――

と、女三宮を軽んじる気持ちが湧いてくるのでした。――

◆写真:簀子での蹴鞠の後宴。
  奥の右が源氏。その左が蛍兵部卿の宮。

ではまた。



源氏物語を読んできて(和菓子・椿餅)

2009年07月11日 | Weblog
椿餅(つばいもちひ)

 日本最古の餅菓子で、「河海抄」によれば、餅の粉を甘葛(あまずら)でこねてツバキの葉で包んだものとされています。
平安時代のお菓子と言えば、あめや油を使うもの、特に油で焼いたり揚げたりする唐菓子と呼ばれるものが主流だったそうで、この椿餅と「枕草子」に出てくるあおざしというお菓子だけが 唐菓子ではない例外なのだそうです。

 平安時代には宮廷で正月に作られた卯杖(うづえ)や卯槌(うづち)にもツバキが用いられていましたから、ツバキには邪気ばらいの意があったのかもしれません。とにかく、この椿餅というお菓子は、蹴鞠の折に出すものとされていたようです。

◆写真と参考:椿餅手前左  風俗博物館