09.7/27 458回
三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(12)
何の理由もなく、そおっと朱雀院へ参上は出来ぬと、源氏は、
「このたび足り給はむ年、若菜など調じてや」
――(朱雀院は)来年、ちょうど五十歳になられる筈ですから、お祝いに若菜などを調えて差し上げよう――
と、さまざまの席における院の御僧服や、精進料理のご準備、お道具立てなど、何かにつけて俗人のそれとは様子が違いますので、人々のご意見も取り入れて、万端そつのないようにとお考えになります。
「いにしへも遊びの方に、御心とどめさせ給へりしかば、舞人楽人などを、心ことに定め、すぐれたる限りを整へさせ給ふ」
――(朱雀院は)昔から音楽の方面にご熱心でしたので、舞人楽人を特に念入りに優れた者だけを選び出してお揃えになりました――
黒髭の大将の子 二人
夕霧の子 (籐典侍腹の次郎も)三人
その他七歳以上の御子は皆、 童殿上として、
良家の子息たちの容貌の優れた者を選び出して、たくさんの舞の準備をおさせになる。
女三宮は、七弦の琴を以前からたしなまれておりましたが、御幼少で院とお別れになって以来ですので、朱雀院は是非聞きたく思われていらっしゃるようで、
「参り給はむついでに、かの御琴の音なむ聞かまほしき。さりとも琴ばかりは引き取り給ひつらむ」
――こちら(朱雀院)へ来られるついでに、女三宮の琴を聞きたいものだ。いくらなんでも、源氏の仕込みで上手になっているだろう――
と、蔭で仰せられましたのを、帝もお聞きになって、
「げにさりともけはひ異ならむかし。院の御前にて、手つくし給はむついでに、参りきて聞かばや」
――おっしゃる通りきっと人とは違う上達振りでしょう。院の御前でのご披露の折に、私も参上して拝聴したいものです――
などとおっしゃっておいでだと、源氏は人づてに聞かれて、さて、とお思いになります。
ではまた。
三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(12)
何の理由もなく、そおっと朱雀院へ参上は出来ぬと、源氏は、
「このたび足り給はむ年、若菜など調じてや」
――(朱雀院は)来年、ちょうど五十歳になられる筈ですから、お祝いに若菜などを調えて差し上げよう――
と、さまざまの席における院の御僧服や、精進料理のご準備、お道具立てなど、何かにつけて俗人のそれとは様子が違いますので、人々のご意見も取り入れて、万端そつのないようにとお考えになります。
「いにしへも遊びの方に、御心とどめさせ給へりしかば、舞人楽人などを、心ことに定め、すぐれたる限りを整へさせ給ふ」
――(朱雀院は)昔から音楽の方面にご熱心でしたので、舞人楽人を特に念入りに優れた者だけを選び出してお揃えになりました――
黒髭の大将の子 二人
夕霧の子 (籐典侍腹の次郎も)三人
その他七歳以上の御子は皆、 童殿上として、
良家の子息たちの容貌の優れた者を選び出して、たくさんの舞の準備をおさせになる。
女三宮は、七弦の琴を以前からたしなまれておりましたが、御幼少で院とお別れになって以来ですので、朱雀院は是非聞きたく思われていらっしゃるようで、
「参り給はむついでに、かの御琴の音なむ聞かまほしき。さりとも琴ばかりは引き取り給ひつらむ」
――こちら(朱雀院)へ来られるついでに、女三宮の琴を聞きたいものだ。いくらなんでも、源氏の仕込みで上手になっているだろう――
と、蔭で仰せられましたのを、帝もお聞きになって、
「げにさりともけはひ異ならむかし。院の御前にて、手つくし給はむついでに、参りきて聞かばや」
――おっしゃる通りきっと人とは違う上達振りでしょう。院の御前でのご披露の折に、私も参上して拝聴したいものです――
などとおっしゃっておいでだと、源氏は人づてに聞かれて、さて、とお思いになります。
ではまた。