永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(436)

2009年07月05日 | Weblog
09.7/5   436回

三十四帖【若菜上(わかな上)の巻】 その(45)

 源氏も、入道のお手紙をご覧になって、涙ぐまれ、

「かの先祖の大臣は、いと賢くあり難き志をつくして、おほやけに仕うまつり給ひける程に、ものの違目ありて、その末は無きなり、など人いふめりしを、女子の方につけたれど、かくていと継なしといふべきにはあらぬも、そこらの行ひのしるしにこそはあらめ」
――入道の先祖の大臣は、たいそう賢く世に稀な真心で朝廷に仕えておられたが、その頃何か失態があって、その罰で、こう子孫が絶えるのだなどと人は言いふらしたりしたのですが、女の系統であっても決して後継者が無いとは言えないのも、入道の多年の勤行の効果でしょう――

 明石の姫君にも、源氏はおっしゃいます。

「これはまた具して奉るべきもの侍り。今また聞こえ知らせ侍らむ」
――これには一緒に差し上げるべきものがあります。そのうちお話しましょう――

 それから、明石の御方に向いて、「姫君はこうして昔の事も大体お分かりになった訳ですが、紫の上のご恩はおろそかにお思いなさいますな。あなたが姫君に親しんでおられるのを見ながら、最初と同じ気持ちであなたに好意をよせているのですからね。……継母のことを世間ではあれこれ邪推するようですが、あの方は心から可愛がって養育されました。紫の上こそ穏やかな人と言うべきでしょう。」

さらに、

「そこにこそすこし物の心得てものし給ふめるを、いとよし、睦び交して、この御後見をも、同じ心にてものし給へ」
――あなたは幾らか物分かりが良いようですから、大丈夫、紫の上と親しくして姫君のお世話も、心を合わせておやりなさい――

と、側近くに寄られて密やかにおっしゃる。

ではまた。