永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(448)

2009年07月17日 | Weblog
09.7/17   448回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(2)

 「自らも、大臣を見奉るに、気恐ろしく眩く、かかる心はあるべきものか、斜ならむにてだに、けしからず、人に点つかるべきふるまひはせじ、と思ふものを、ましておほけなき事」
――(柏木は)自分自身も、源氏を拝しますと何となく恐ろしく、気恥ずかしく、このような料簡を持って良いか、ちょっとしたことでも決して人に非難されるような行動は取るまいと思っていますのに、ましてこんな大それた事を――

と、思い悩まれたその果てに、

「かのありし猫をだに得てしがな、思ふこと語らふべくはあらねど、傍ら寂しきなぐさめにもなつけむ」
――あの時の唐猫でもせめて手に入れたいものだ。猫に心の思いを話しても仕方がないが、独り寝のなぐさめに懐に抱いてなつけたい――

 と、思い始めますと、もの狂おしいまでに猫が恋しくなって、どうして盗みだそうかと考えますが、それこそ難事だと思うのでした。

 ある日、柏木が参内しました折、宮中の飼い猫が子猫をたくさん産んで、あちこちに分かれていて、東宮のところにも可愛い猫が一匹来ております。柏木はあの日を思い出し、

「六条の院の姫君の御方に侍ふ猫こそ、いと見えぬやうなる顔して、をかしうはべしか。わづかにてなむ見給へし」
――六条院の女三宮の御殿にいます猫こそ実に稀に見る良い顔で可愛らしゅうございました。ちょっと見ただけでしたが――

 東宮は特に猫を愛されるご性分ですので、詳しくお聞きになります。

「唐猫の、ここのに違へるさましてなむ侍りし。(……)」
――唐猫で、こちらのとは違って可愛い様子をしていました。(猫はどちらも同じように見えますが、性質がよくて、人に馴れているのは稀なほどで、心に惹かれるものです)――

 と、東宮があの唐猫にご興味を持たれますように、柏木は上手に申し上げるのでした。

ではまた。


源氏物語を読んできて(年中行事・賭弓)

2009年07月17日 | Weblog
年中行事・賭弓(のりゆみ)

 賭弓(のりゆみ)は、859年頃から宮中で正月十八日に催す、賞を賭ける弓の競技。稽古として七日には左右 近衛府の荒手結(あらてつがい)、十一日には 兵衛府の荒手結、十三日には真手結という予行演習をを行う。

 当日天皇が 射場殿に出御し、競技は 近衛府・ 兵衛府の射手が各一人ずつ分かれて射る。

 近衛十人・ 兵衛七人・左右 近衛より各二人ずつ出て射る。
三、四射つのを原則とし、その合計点で勝ちをきめる。
勝方には賭物を賜り、勝方が負方に罰酒を行う。勝方の大将は自分側の射手を自邸に招き饗宴を行う。これを賭弓(のりゆみ)後の還饗(かえりあるじ)という。