永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(459)

2009年07月28日 | Weblog
09.7/28   459回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(13)

 女三宮の琴について源氏は、「何かの折りごとにはお教えしたものの、まだまだお聴きいただく程の奥深さはない」と、朱雀院の御前でのご披露が、さ程でない結果では可哀そうに思われて、この頃になって一生懸命に教えていらっしゃる。

「取り立てて教へ聞こえ給ふに、心もとなくおはするやうなれど、やうやう心得給ふままに、いとよくなり給ふ」
――(女三宮に)特別熱心にお教えになりますと、初めは心もとなく頼りないようでしたが、次第に覚えていかれて、大そう上手になりました――

 奏法の極意も会得おさせしようと、紫の上にもお許しを得て、女三宮の所で朝に夕に教えていらっしゃいます。

 明石の女御にも、紫の上にも源氏は琴(きん)はお教えになりませんでしたので、この機会に源氏がお弾きになるのを伺いたいと、ことに明石の女御は内裏からお暇をいただいて六条院に退出なさっておいでです。折しも御懐妊の五か月に入られ、十一月は宮中で神事が多く、穢れが憚られますのも口実となさってのご退出なのでした。

「冬の夜の月は、人に違ひてめで給ふ御心なれば、面白き夜の雪の光に、折りに合いたる手どもひき給ひつつ、侍ふ人々も、すこしこの方にほのめきたるに、御琴どもとりどりに弾かせて、遊びなどし給ふ」
――(源氏の君は)冬の夜の月は、普通は喜ばないとされているようですが、世の人々と違ってお好みなので、月の光に一段と趣深い雪の景色を愛でながら、この季節に合った曲などをお弾きになります。またお側に控えている女房たちで、この方面にたしなみのある者に、筝、和琴、琵琶などを弾かせて、合奏を楽しんでいらっしゃる――

 年も暮れにせまってきて、紫の上は忙しく、

「こなたかなたの御営みに、自づからご覧じ入るる事どもあれば、『春のうららかならむ夕べなどに、いかでこの御琴の音聞かむ』と宣ひわたるに、年返りぬ。」
――あの方、この方の新年の晴れ着のご衣裳について、染め織り、裁ち縫いなどに紫の上ご自身もお指図なさることも多く、「春のうららかな夕暮れにでも、何とかしてでも女三宮の御琴の音を、お聞かせ願いたいものですこと」と、おっしゃっている内に、年が代わりました――

ではまた。