永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(452)

2009年07月21日 | Weblog
09.7/21   452回

三十五帖【若菜下(わかな下)の巻】 その(6)

 蛍兵部卿の宮は、亡くなられた北の方の事を今でも恋しく思われておられ、

「ただ昔の御有様に似奉りたらむ人を見むと思しけるに、あしくはあらねど、さまかはりてぞものし給ひにける、と思すに、口惜しくやありけむ、通ひ給ふさまいともの憂げなり」
――ただただ、昔の妻に良く似ている人をと思っておられたところ、真木柱は醜くはないけれど、似てはいらっしゃらないと分かりますと、お気に入られなかったものか、お通いになるのも、もの憂そうにお見えです――

 父宮の式部卿の宮は、まことに心外なことよと歎かれ、母君も正気にかえられる時には、やはり口惜しく、ますます辛い世と歎いておられます。実の父君の髭黒の大将も、このことをお聞きになって、

「さればよ、いたく色めき給へる親王を」
――さもあろう、だから言わない事ではない。たいそう浮気な親王なのだから――

 初めから納得のいかない御縁組でしたので、まったく面白くないと髭黒の大将は思っていらっしゃる。
玉鬘も蛍兵部卿の宮の頼りないご態度を耳にされるにつけ、もしも自分があの方と結婚していたならばどうなっていただろうと、しみじみと昔を思い出しておられます。あの頃、蛍兵部卿の宮から、深い思いで求婚されたのでしたが、そのことが真木柱の耳にでも入ったなら、などと、こちらも気になっていらっしゃる。

 蛍兵部卿の宮にしましても、勢いよく求婚なさりながら、今さらに外聞も悪く、真木柱を棄てるお気持ちはないのですが、あの気の変な意地悪者の母君が、大そう立腹されて、

「親王達は、のどかに二心なくて見給はむをだにこそ、はなやかならぬなぐさめには思ふべけれ」
――宮様という立場の方は、せめて気楽にして、浮気もせずに愛してくださればこそ、華やかな宮仕えに出ないで質素を慰めとして、我慢もできるのに――

 と、文句を散々言い散らしておいでなのを、蛍兵部卿の宮がお聞きになって、「これは異なこと。昔は愛していた妻が居ても、ちょっとした浮気は絶えなかったが、こんな小言は聞かなかったものなのに、気に食わないことを言うものだ」と、ますます気に入らないのですが、こんな有様で、仕方なく、絶え絶えに真木柱の邸に通うこと二年ほどになっておられます。

「はかなく年月もかさなりて、内裏の帝、御位に即かせ給ひて十八年にならせ給ひぬ」
――まあ、こんなふうに、何という事もなく年月が重なって(源氏の年齢から数えて四年を経て)、冷泉帝の御在位も十八年になりました――

ではまた。