ふろむ播州山麓

京都山麓から、ブログ名を播州山麓に変更しました。本文はほとんど更新もせず、タイトルだけをたびたび変えていますが……

字「幸福」の誕生(6) 楽天とユニクロ

2012-10-03 | Weblog
英語がブームです。個人の域をこえて、会社全体が英語公用語化に向かっています。なかでも楽天など、日本人だけの会議もすべて英語。社内での日常会話も原則英語だし、社員食堂のメニューまで横文字だそうです。三木谷社長が日本語で話すのをみたことのない若手社員も多いといいます。
 日本人社員の胸の名札にも「トミー」とかのニックネームが輝いています。ジョンやラッシ―やリンチンはないでしょうか。
 世界での競争に打ち勝つため「グーグルやアマゾン、アップルと競うために、世界中から優秀な人材を集める。そのためには社員全員の英語力向上は必須である」というのがポリシーです。それにしても、徹底するのがすごい。

 ユニクロも負けず劣らず本社会議は英語オンリー。2・3年後には海外売上比率を50%超とする目標を掲げる同社では、グローバル化のために英語力は当然のこととしています。
 ソニーもオリンパスも前の社長CEOは外国人でした。日産のカルロス・ゴーン社長はブラジル人だが、アラビア語、英仏語、スペイン語、ポルトガル語に精通し、日本では社員向けスピーチは日本語で行う。
 確かに海外に進出する日本企業の変身は著しい。近ごろの英語ブームはこれまでとはだいぶ異なるようです。いつか日本人が海外資本の会社から「CEOについてください」とハンティングされる時代が来れば、グローバリゼーションも本物でしょうね。

 いまから67年前、1945年9月15日に『日米会話手帳』が発売され、その年の暮れまでに360万部の大ベストセラーになりました。つい一カ月前まで、鬼畜米英と叫んで竹ヤリで敵を倒す訓練ばかりしていた日本人がですよ。機を見るに敏、手のひらの反し方は実に見事です。米軍GHQにすり寄るのが最善の進路だと、多くの国民が確信したのです。
 ところが出版社はこの本の印刷を中止してしまいました。別に検閲ではねられたのではなく、いくら刷っても利益が出ないどころか、赤字がふくらむばかりだったといいます。おそらく紙不足で、用紙代が高騰したためではないかと思います。値上げしなかった版元の姿勢には感服します。

 日本史上最初の英語ブームは、文化5年8月15日(1908)に起きます。旧暦ですが、これもお盆の8月15日です。きっかけはイギリス軍艦フェートン号の長崎港への不法侵入事件でした。また英国はやり方がずるいのです。最初はオランダ国旗を掲げて油断させ、奉行所役人と通詞、オランダ商館員2名とが船に乗り移ると、オランダ国旗を降ろしユニオンジャックの英国旗にかえました。商館員両名は武装英兵に拉致され、厳重抗議する長崎奉行所に対し、彼らを人質に食糧・飲料水を強要しました。商館長のヘンドリック・ドゥーフは提供することを奉行にすすめ、結局2名は供給物と交換に戻されました。この狼藉に対し奉行所も港守備隊もなすすべもなく、イギリス船は17日に去ります。日本の反撃は一切ありませんでした。
 鎖国の国法を守れなかった責任をとって、長崎奉行松平康英は艦が去った日の夜に切腹しました。佐賀藩はこの年の長崎警備の当番だったのですが、配置すべき定員1000人のところわずか100余名しか置いていなかった。職務怠慢のため、佐賀藩家老ほか責任者数名が同じく自刃して果てました。藩主鍋島斉直も100日間の逼塞処分を受けています。

 幕府の受けた衝撃はおおきかった。この事件は、文政8年(1825)の異国船内払令の契機になります。また佐賀鍋島藩は藩の一大事を機に、海外の技術や文明に蘭学から開眼し、後の維新で活躍することになります。薩長土肥の肥は、肥前の佐賀鍋島藩です。
 そしてフェートン号事件を機に、幕府は長崎オランダ通詞たち約50人全員に英国語の習得を命じます。驚くべきことに、それまで鎖国日本で英語を理解できる日本人は皆無だったのです。日本人はだれも、英語のいろはエービーシーも知らなかったのです。
 このときの英語熱は限られたひとのみで、またお上からの厳命だったわけですが、楽天やユニクロと同じで下からのブームではないわけです。いずれもトップの決定です。しかし敗戦直後は、民衆から自発的に起こった学習熱でした。だがどれも外圧が契機のようです。
 次回はオランダ通詞たちが、この事件の後で苦心してつくった英語日本語対訳本をみてみようと思っています。当然、訳語に「幸福」が出るかどうかです。実は、さいわいなことに幸福があらわれます。わたしは、しあわせな気分でいっぱいです。
<2012年10月3日 南浦邦仁>
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1 コメント

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行方 (読者A)
2012-10-05 16:14:38
日本人が幸福と言う言葉を使い出して、まだわずか200年ほどの歴史しかないのですね。幸福の行方が楽しみです。
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