ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 富永茂樹著 「トクヴィルー現代へのまなざし」 岩波新書

2011年09月18日 | 書評
フランス革命時の民主思想の憂鬱とは 第1回

 トクヴィルという名前はどこかで聞いたことがあると思って調べてみると、この読書ノートにおいて佐々木毅著 「政治の精神」(岩波新書 2009年6月)がトクヴィルについて述べていた。その本の第3章 政治に関与する精神 において、丸山真男氏「政治的判断」(1958年)、ウオルター・リップマン「幻の公衆」(1923年)、シュンベータ-「古典的民主主義批判」、ハーシュマン「失望と参画の現象学」らと並んでトクヴィルの「アメリカのデモクラシー」(1835年)が引用されていた。
その論点は「トルヴィルはアメリカのデモクラシーにおいて、境遇の平等化がもたらした弊害と大衆社会を指摘した。自由は特定の社会状態を定義できるものではないが、平等は間違いなく民主的な社会と不可分の関係にある。自由がもたらす社会的混乱は明確に意識されるが、平等がもたらす災いは意外と気がつかないものだ。平等化は自らの判断のみを唯一の基準と考えるが、自らの興味とは財産と富と安逸な生活に尽きる。そこで個人主義という利己主義に埋没する。民主化は人間関係を普遍化・抽象化すると同時に希薄化させる。そして人は民主と平等の行き着く先で孤独に苛まれるのである。平等が徹底されるにつれて一人の個人は小さくなり、社会は大きくみえる。政治的に言えば、個人は弱体化し中央権力が肥大化するということになる。中央権力も平等を望み奨励するが、それは平等が画一的な支配を容易にするからである。ここに新しい専制の可能性が生まれる。小さな個人にたいして巨大な後見人(政府)が聳え、個人の意識をより小さな空間に閉じ込め、しだいに個人の行動の意欲さえ奪い取ってしまう。アメリカの民主制は個人主義を克服する手立てとして、公共事業への参加によって個人の世界から出てくる機会を与えた」というものである。民主主義は平等を徹底させて、矮小化した民衆を画一的な個人主義に埋没させ、その管理しやすい民衆を支配する政府という中央集権制官僚主義の専制を招くというもので、実に憂鬱な厄介な見方を19世紀前半に予見した。
(つづく)

環境書評 西岡秀三著 「低炭素社会のデザインーゼロ排出は可能か」 岩波新書

2011年09月18日 | 書評
日本低炭素社会 脱石油・脱原発のシナリオ 第5回

1)目標から逆算した低炭素社会シナリオ (4)

 2000年のエネルギー供給量は約5.1億トン(石油換算)、構成は石油・石炭25% 、天然ガス35%、原子力30%、水力10% の順であり、それ以外の自然エネルギー利用は1%以下であった。本書はそもそも原発を低炭素化の切り札にはならないとの前提をとる。その理由は廃棄物処理不能と出力調節不能からきている。その上でのエネルギーシフトを考える。「2050年日本低炭素社会シナリオ」において、需要量の削減に応じてその供給構成もシフトする。シナリオ1「活力社会」では基本的に原子力と天然ガスに依存し、石油・石炭依存を著しく弱めるという策である。シナリオ2「ゆとり社会」では風力太陽光利用を進め石油・石炭依存から急速に脱却する点ではシナリオ1と同じであるが、シナリオ2では原発依存を少なくしバイオマスに切り替えるとしている。つぎにエネルギー需要の対策であるが、首相の約束やできるかどうかは別にして、本書の目標は40-50%以上の削減とし、その削減目標の各分野別の努力を検討する。電熱配分後の部門ごとの排出シェアー(需要構成)は、産業部門37%、旅客貨物輸送部門21%、業務部門20.5%、家庭部門15%、エネルギー転換部門で7%であった。これまであまり対策が浸透していないし、合計が36%を占める業務部門と家庭部門の削減がひとつのターゲットになる。シナリオではエネルギー効率の改善と使用料の削減で家庭部門における需要の減少を図る。業務部門の削減シナリオも家庭部門と同じくエネルギー効率の向上と使用削減である。ビルエネルギー管理システムで効率的省エネをはかり、コンパクトシティで自家用車を廃して地下鉄利用を進める。貨物輸送部門ではモーダルシフトと自動車燃費向上が鍵である。そして最大の需要部門である産業部門ではエネルギー効率改善は限界に来ているので、産業構造変化が決め手である。そしてこのシナリオには追加投資はドレくらい必要かというと、年間10兆円、GDPの1%程度である。国民一人10万円の負担である。買い替えを差し引くと低炭素社会にするために上乗せされる費用は年間1-2兆円でGDPの0.1-0.2%である。これらをグリーン投資というが費用を負担する目的で、炭素税、排出量取引といった仕組みが考えられる。ドイツでは炭素税を福祉社会補償予算に回している。
(つづく)

読書ノート 竹内 啓著 「偶然とは何かーその積極的意味」 岩波新書

2011年09月18日 | 書評
生物進化や人間の歴史における偶然の積極的意味とは 第5回

3)偶然の積極的意味 (1)

 人間が偶然にどう向き合うかを語る。宇宙は百数十億年という有限の歴史を持ち、地球は約50億年,生命は約40億年の歴史を持つ。これを支配する基本物理法則は不変としても、宇宙と生命は変化(進化)を繰り返すのである。ニュートン力学の機械的決定論では手に負えない世界であり、この進化のメカニズムを偶然と捉えると、40億年あっても人類誕生の謎に説明は付かない。スチュアート・カウフマン著「自己組織化と進化の論理」(ちくま学芸文庫 2008)では、ダーインの進化論とは別に自己組織化のメカニズムを想定している。本書は進化の源をダーウインの変異の原理に求めている。(なお参考のため、ダーウイン自らは進化という言葉は使用していない。ダーウインの「種の起源」の思想は変異と自然淘汰である。)そしてダーウインは神を追放し、人を動物と同じく扱ったところに社会革命をもたらしたのである。またダーウインは遺伝子という概念に到達していない。遺伝子の概念を掴んだはダーウイン晩年の時代になるメンデルである。メンデルも遺伝子の実体には言及していない。それが染色体であり、さらにDNAというポリ核酸である事が判明するのは20世紀になってからである。したがってダーウインニズムがダーウインを過大評価するのは誤りであろう。ダーウインはそこまで見通していたわけではなかった。生物の進化の中で「偶然」が本質的な役割を果たすということを本書は主張する。しかしすこし補正を加えると、生物進化には偶然と選択そして自己組織化の原理が必要であったというべきである。遺伝子変異にはターゲット理論から来る単一塩基の破壊や変異だけでなく、遺伝子の組み替えで染色体の対構造が重要な役割を担う。男女という性の分化についてはダーウインは変異の重要な契機であると述べている。生物は性の文化によって、一挙に遺伝子変化を起こす可能性を獲得したのだ。偶然的変異だけでは性の分化は説明できない。遺伝子組み換えにおける偶然のエラーも変異の重要な契機であると云うのが、ただしい言い方であろう。
(つづく)


筑波子 月次絶句集 「老農夫」

2011年09月18日 | 漢詩・自由詩
梧桐葉落影成斑     梧桐葉落ちて 影斑を成し
 
少雨枯桑稼嗇艱     少雨枯桑 稼嗇の艱

叢菊両開秋裡老     叢菊両開 秋裡に老い
 
一盃晩酌自怡顔     一盃の晩酌 自ら顔を怡ばす


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(韻:十五刪 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)