転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



【ソチ五輪】真央、万感の思い!! 6種類の3回転すべて成功、こぼれる涙…(産経新聞)
『史上初めて6種類の3回転ジャンプをすべて成功させた浅田。「やりきった」との思いが込み上げたのか、演技を終えた瞬間、泣き顔に。リンク上で手で顔を覆い、涙がこぼれ落ちた。』『前日のショートプログラム(SP)では予定していたコンビネーションジャンプが飛べないなど予想もしない失敗が続き、55.51点という低得点に終わった浅田。この日のフリーでは6種類の3回転ジャンプを完璧に飛び、最後の3回転ループを決めた瞬間、力強く「よしっ」とうなずいたようにみえた。』『フリーの得点は142.71点。昨年11月のNHK杯で挙げた136.33点を上回る自己ベスト。得点が出た直後、満足そうに小さくうなずき、カメラに向け手を振りながら笑顔を振りまいた。』『前日のSP直後には「自分でも終わってみてまだ何も分からない」と放心状態だった浅田。だが、この日は「私が目指すフリーの演技ができた」と胸を張った。』

こういうときの選手の内面は想像するほかないが、
今回の浅田選手の場合、前日のSPの絶望的な失敗があればこそ、
逆に解き放たれた状態でFSに臨めたのではないかという気がする。
仮にSPで3位以内につけていたりしたら、メダル獲得への重圧がかかり、
FSでの挑戦には大きな足かせになったのではないだろうか。

私は専門家でないし、特に見る目もないと思うので、
各選手の演技の出来映えや審判の判断について
どうこう言えるような人間ではないのだが、
私にとっては、この浅田選手の「挑戦する」姿勢が、
以前からずっと、アスリートとして大変好ましいものだった。
現在の競技会では、数は少なくとも得意技を磨いて精度を上げ、
加点勝負で得点を争うのが女子フィギュアの趨勢であるようなのだが、
それを承知の上で、敢えて高難度かつ多彩なジャンプやステップを
シーズンのたびに新たに組み込んだ浅田選手は、
頑固で無謀だったかもしれないが、同時に、比類なく勇敢だったと思う。

現行の採点方式だと、基礎点で難度の高い技を盛り込んで来る選手には
結果として高い評価は与えられないように思われる。
もっと以前、6種類の3回転ジャンプが跳べる中野友加里選手を、
私なりに気に入って応援していたのだが(衣装の趣味は除く・逃!)、
彼女の場合も加点が少なく、ジャンプの回転不足を取られる機会も多く、
総合ではなかなか高い点数にならなかった。
僅かなスキがあればどんどん減点されるような採点なので、
大抵の選手は、取りこぼしをしないように練習するだけでも大変で、
多種多様な技に挑戦するほどのゆとりは無いのだろう。
そういう意味では、今回のオリンピックにしても、
浅田選手のメダル獲得は最初から相当厳しい賭けだっただろうと思う。

自分を最も確実に表現できる技だけを厳選し、
それらを極限まで鍛え上げて完璧な演技をする、
という方向性も、私は決して否定はしない
(例えば、演奏家としてのポゴレリチは、まさにこのタイプだと思う。
彼は、限られた曲目で構成されたプログラムを、
執拗に長期間に渡り追求し続け、弾き続けるピアニストだ)。
私自身、そういうものの良さを知らないわけではないし、
現在の女子フィギュアの競技会では、そうしたスケーターが高い得点を得、
メダルを獲得していると感じられるので、
それが賢明な「傾向と対策」なのだろうとも思う。

しかし私は、そのフィギュア界の、しかもかなり高い位置の一画に、
浅田選手のような競技者がいてくれて良かったと心から思っている。
失敗のリスクがあっても、容易に評価に繋がらなくても、
諦めずに挑戦し続けた彼女の姿勢は、現在の競技会の流れに
一石を投じるものになったと思うからだ。
レギュレーションを正確に把握して、減点されない・加点される演技をする、
という部分に専心する選手とは趣の異なるものが、浅田選手には常にあった。

伊藤みどりの出現から既に四半世紀が経過しているというのに、
未だに女子でトリプルアクセルのできる選手が、
浅田選手以外に数えるほどしか出ていないのは、
つまりそれだけ、挑戦する人が少ないということだろう。
男子ではとっくに4回転が当然になっているのに、
この点に関する限り、女子のジャンプ技術の向上は頭打ちだ。
女子フィギュアの審査内容とその結果が、女子選手やその指導者たちに、
「トリプルアクセルなど苦労して練習する甲斐がないから」
と思わせているとしたら、私は大変残念だという気がする。
フィギュアスケートはジャンプだけで競うものではないが、
同時に、スポーツである以上、表現力や完成度で点数が稼げれば良い、
というものでもなく、やはり技術の向上は絶えず追求されるべきだ。

アスリートとして挑戦する姿勢を明確に貫きつつ、
なおかつ今季、世界ランキング2位まで上っていた浅田選手は、
まさに希有な存在だった。
今回のオリンピックでも、彼女は頑ななまでに自己を曲げず、
それがためにSPでは挫折したかに見えたが、
なんと土壇場になって、自分の理想としていたプログラムを実現させた。
FS演技は事前に彼女が言っていた通り『集大成』となったのだ。
彼女の輝かしい挑戦と成果に、私は心からの拍手を送りたいと思う。

浅田選手、入賞おめでとうございます!
そして、本当にお疲れ様でした。
オリンピックでのラストダンスに至るまで、
色褪せることなく、数え切れないほどの名演技を見せて頂きました。
ありがとう~~~!!

(……と、何か「完結した」かのようなことを言うのは、
まだ若い彼女に対しては、ちょっと早いか??)

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