「凶悪」 2013年 日本
監督 白石和彌
出演 山田孝之 ピエール瀧 池脇千鶴 小林且弥
斉藤悠 米村亮太朗 松岡依都美 村岡希美
白川和子 吉村実子 リリー・フランキー
ストーリー
藤井(山田孝之)はスクープ雑誌「明潮24」で働く記者だが、スクープばかり追う仕事に疑問を感じていた。
そんなとき会社に、東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤(ピエール瀧)から手紙が届く。
編集長・芝川(村岡希美)から話を聞いてこいと命ぜられた藤井が須藤から聞かされたのは、白日のもとにさらされていない3件の殺人事件についてと、その首謀者である「先生」と呼ばれる男・木村(リリー・フランキー)の存在だった。
須藤は首謀者の木村が娑婆でのうのうと生きていることが許せず、雑誌で取り上げて追い詰めてほしいというのだった。
藤井は早速編集長である芝川に話すが、芝川は根拠もないことは記事にできないとボツを言い渡す。
しかしあきらめきれない藤井は、職場を放棄してまで須藤の話をもとに裏付けを取っていく。
調べて行くうちに徐々にその信憑性が増していき、事件の取材に憑かれたように徐々にのめりこんでいく。
3件の殺人事件は、いずれも須藤と先生・木村が共謀して殺害実行・証拠隠匿を謀ったものだった。
木村が殺した男を焼却炉で焼く事件(1つめ)、土地持ちの老人を生き埋めにする事件(2つめ)、借金を抱える電気店の老父を殺し、その保険金で借金を帳消しにさせる事件(3つめ)…。
そのうち3つめの事件は、電気店の家族の協力もあり、裏付けも充分に取れた。
藤井は取材をまとめて記事にして芝川に提出すると、芝川もGOサインを出し記事がとうとう雑誌に載る。
このスクープ記事は世間を騒然とさせ、警察も動き始め木村は逮捕される。
裁判が始まり、藤井は証人として法廷に上がったが、そこで須藤の本当の理由を知ることになる。
真相を知って愕然とする藤井に、須藤は不敵に微笑む・・・。
寸評
「凶悪」というタイトルの通り、とんでもない悪人が登場する。
一人は死刑囚の須藤で、もうひとりは人の弱みにつけ込んで平気で人殺しを指揮する木村という男。
このふたりは誰が見ても極悪人なのだが、実は市井の中にもそれに似た感情を有している人間が居ることを合わせて描いているところがこの映画のすごいところだ。
冒頭から須藤の極悪非道ぶりが容赦なく描かれる。
ヤクザの中にはこんな残虐な奴がいるのかと思わされるくらいひどいことをやる。
須藤は自分を裏切るやつが許せない。
彼の許せないとは、すなわちその対象者を殺してしまうことである。
彼らがなぜ殺されることになったのかは後半で明らかになるが、須藤は人を殺すことを何とも思っていない。
先生と呼ばれている木村は金になる相手を見つけ出しては、須藤に殺人を持ちかけて始末していく。
彼は一見優しそうで親切そうな男に見えるが、この男が一番のワルだ。
殺人を楽しんでいるようなところが有り、その優しそうな物腰から発せられたとは思われないような恐ろしい言葉を、通常会話のように言うのだ。
人をいたぶる時には「やらせて、やらせて」と興味本位の行動を取る。
焼却されていく様を眺めながら、「なんかいい匂いするね」とのたまうのだ。
聞いた須藤が返す言葉が、「焼肉、食いたくなっちゃった」だから、悪人を通り過ごして、もはや狂人だ。
彼らふたりは借金苦の一家のために、生命保険詐欺でじいちゃんを酒を飲ませ続けて始末しようとする。
じいちゃんは死ぬのが嫌になり、家に帰りたいと言い出す。
そこで木村は、じいちゃんの家に電話して家に帰していいかどうかを聞く。
息子は「今は迎えに行けない」とやんわり拒否する。
ばあちゃんに、このまま酒をのまし続けていいかどうかを聞くと、ばあちゃんは「飲ませてください」と返答する。
木村は脅かしているわけではないが、しかし、一家が保険金でしか立ち直れないことを知っている。
一家もそうするしか自分たちの生きる道はないと思っている。
じいちゃんが作った借金の後片付けとは言え、命と引き換えにする選択をしてしまうこの一家にも悪の心が住み着いてしまっている。
藤井の妻は認知症の義母に暴力を振るい、「死んでしまえばいい」と願ったことを告白するが、死んでくれるのが一番いいと思う気持ちは案外と誰にでもある思いのような気がする。
病気に苦しむ家族の姿を見たとき、看病に疲れきったとき、認知症が進んで徘徊を繰り返す親を持ったときなどに、そんな気持ちが湧いてくることは想像に難くない。
だからと言って、本当に殺してしまう人は滅多にいるものではないのだが。
最後に須藤は裏切ってはいなかった五十嵐を木村の策動によって殺してしまう。
そして自分が一番嫌った裏切りを木村に対して行うのだが、その行為は自分が生きるためという身勝手なものだ。
人の命を奪っておきながら、自分は生きていたいという、実に身勝手な人間で憎悪を覚える。
木村が「俺を殺したいと思っているのは被害者でもなく、須藤でもない」と面会者の藤井を指差すが、指さした相手は我々観客でもあった。
そんな悪人を演じたピエール瀧とリリー・フランキーの怪演はこの映画の見所。
役者はスゴイ!
ピエール瀧が薬物使用で逮捕されたのは残念だし惜しい。
監督 白石和彌
出演 山田孝之 ピエール瀧 池脇千鶴 小林且弥
斉藤悠 米村亮太朗 松岡依都美 村岡希美
白川和子 吉村実子 リリー・フランキー
ストーリー
藤井(山田孝之)はスクープ雑誌「明潮24」で働く記者だが、スクープばかり追う仕事に疑問を感じていた。
そんなとき会社に、東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤(ピエール瀧)から手紙が届く。
編集長・芝川(村岡希美)から話を聞いてこいと命ぜられた藤井が須藤から聞かされたのは、白日のもとにさらされていない3件の殺人事件についてと、その首謀者である「先生」と呼ばれる男・木村(リリー・フランキー)の存在だった。
須藤は首謀者の木村が娑婆でのうのうと生きていることが許せず、雑誌で取り上げて追い詰めてほしいというのだった。
藤井は早速編集長である芝川に話すが、芝川は根拠もないことは記事にできないとボツを言い渡す。
しかしあきらめきれない藤井は、職場を放棄してまで須藤の話をもとに裏付けを取っていく。
調べて行くうちに徐々にその信憑性が増していき、事件の取材に憑かれたように徐々にのめりこんでいく。
3件の殺人事件は、いずれも須藤と先生・木村が共謀して殺害実行・証拠隠匿を謀ったものだった。
木村が殺した男を焼却炉で焼く事件(1つめ)、土地持ちの老人を生き埋めにする事件(2つめ)、借金を抱える電気店の老父を殺し、その保険金で借金を帳消しにさせる事件(3つめ)…。
そのうち3つめの事件は、電気店の家族の協力もあり、裏付けも充分に取れた。
藤井は取材をまとめて記事にして芝川に提出すると、芝川もGOサインを出し記事がとうとう雑誌に載る。
このスクープ記事は世間を騒然とさせ、警察も動き始め木村は逮捕される。
裁判が始まり、藤井は証人として法廷に上がったが、そこで須藤の本当の理由を知ることになる。
真相を知って愕然とする藤井に、須藤は不敵に微笑む・・・。
寸評
「凶悪」というタイトルの通り、とんでもない悪人が登場する。
一人は死刑囚の須藤で、もうひとりは人の弱みにつけ込んで平気で人殺しを指揮する木村という男。
このふたりは誰が見ても極悪人なのだが、実は市井の中にもそれに似た感情を有している人間が居ることを合わせて描いているところがこの映画のすごいところだ。
冒頭から須藤の極悪非道ぶりが容赦なく描かれる。
ヤクザの中にはこんな残虐な奴がいるのかと思わされるくらいひどいことをやる。
須藤は自分を裏切るやつが許せない。
彼の許せないとは、すなわちその対象者を殺してしまうことである。
彼らがなぜ殺されることになったのかは後半で明らかになるが、須藤は人を殺すことを何とも思っていない。
先生と呼ばれている木村は金になる相手を見つけ出しては、須藤に殺人を持ちかけて始末していく。
彼は一見優しそうで親切そうな男に見えるが、この男が一番のワルだ。
殺人を楽しんでいるようなところが有り、その優しそうな物腰から発せられたとは思われないような恐ろしい言葉を、通常会話のように言うのだ。
人をいたぶる時には「やらせて、やらせて」と興味本位の行動を取る。
焼却されていく様を眺めながら、「なんかいい匂いするね」とのたまうのだ。
聞いた須藤が返す言葉が、「焼肉、食いたくなっちゃった」だから、悪人を通り過ごして、もはや狂人だ。
彼らふたりは借金苦の一家のために、生命保険詐欺でじいちゃんを酒を飲ませ続けて始末しようとする。
じいちゃんは死ぬのが嫌になり、家に帰りたいと言い出す。
そこで木村は、じいちゃんの家に電話して家に帰していいかどうかを聞く。
息子は「今は迎えに行けない」とやんわり拒否する。
ばあちゃんに、このまま酒をのまし続けていいかどうかを聞くと、ばあちゃんは「飲ませてください」と返答する。
木村は脅かしているわけではないが、しかし、一家が保険金でしか立ち直れないことを知っている。
一家もそうするしか自分たちの生きる道はないと思っている。
じいちゃんが作った借金の後片付けとは言え、命と引き換えにする選択をしてしまうこの一家にも悪の心が住み着いてしまっている。
藤井の妻は認知症の義母に暴力を振るい、「死んでしまえばいい」と願ったことを告白するが、死んでくれるのが一番いいと思う気持ちは案外と誰にでもある思いのような気がする。
病気に苦しむ家族の姿を見たとき、看病に疲れきったとき、認知症が進んで徘徊を繰り返す親を持ったときなどに、そんな気持ちが湧いてくることは想像に難くない。
だからと言って、本当に殺してしまう人は滅多にいるものではないのだが。
最後に須藤は裏切ってはいなかった五十嵐を木村の策動によって殺してしまう。
そして自分が一番嫌った裏切りを木村に対して行うのだが、その行為は自分が生きるためという身勝手なものだ。
人の命を奪っておきながら、自分は生きていたいという、実に身勝手な人間で憎悪を覚える。
木村が「俺を殺したいと思っているのは被害者でもなく、須藤でもない」と面会者の藤井を指差すが、指さした相手は我々観客でもあった。
そんな悪人を演じたピエール瀧とリリー・フランキーの怪演はこの映画の見所。
役者はスゴイ!
ピエール瀧が薬物使用で逮捕されたのは残念だし惜しい。