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おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

CURE キュア

2019-04-12 09:19:01 | 映画
「CURE キュア」 1997年 日本


監督 黒沢清
出演 役所広司 萩原聖人 うじきつよし 中川安奈
   螢雪次朗 洞口依子 でんでん 大杉漣
   戸田昌宏 大鷹明良 河東燈士 田中哲司

ストーリー
ひとりの娼婦が惨殺された。
現場に駆けつけその死体を見た刑事の高部(役所広司)は、被害者の胸をX字型に切り裂くという殺人事件が、秘かに連続していることをいぶかしがる。
犯人もその殺意も明確な個々の事件で、まったく無関係な複数の犯人が、なぜ特異な手口を共通して使い、なぜ犯人たちはそれを認識していないのか。
高部の友人である心理学者・佐久間(うじきつよし)が犯人の精神分析を施しても、この謎を解く手掛かりは何も見つからない。
そのころ、東京近郊の海岸をひとりの若い男(萩原聖人)がさまよっていた。
記憶傷害を持つ彼は小学校の教師(戸田昌宏)に助けられるが、教師は男の不思議な話術に引きずり込まれ、魔がさしたように妻(春木みさよ)をXの字に切り裂いて殺してしまう。
その後、男は警官(でんでん)に保護され、そして病院に収容されて同様の話術を警官や女医(洞口依子)と繰り返した。
警官と女医は、それぞれに殺人を犯し、被害者の胸を切り裂いてしまう。
催眠暗示の可能性に思い至った高部は、事件の捜査線上に浮かび上がったこの男・間宮を容疑者として調べ始めた・・・。


寸評
間宮は話術によって猟奇殺人を起こさせる一種の洗脳技術を持つ人物のようでもあるが、記憶障害を持ちつい先ほどのことも覚えていない薄気味の悪い、そして見ているうちに嫌悪感を抱いてしまう男で、その間宮を萩原聖人がけだるそうに演じていてこの映画をホラー化することに成功させている。
高部の深層心理を描く場面は強烈だ。
高部は妻の世話をしながら忙しい刑事でありストレスが溜まっている。
そこに間宮が入ってくることによって、妻に対する憎悪が爆発してしまうのではないかという恐怖だ。
妻が首吊り自殺をしている幻想を見たのは、正に妻に対する殺意の現れである。
煩わしい妻を殺害したいという衝動に駆られるのは何も映画に限ったことではなく現実社会でもある。
現にそのような事件も起きているが、大抵の場合その行為を押しとどめているのは人が持つ理性だ。
劇中で心理学者の佐久間も「殺人は悪いことだと思っている人に催眠術によって人を殺させることは出来ない」と
高部に告げている。

間宮は殺人教唆の容疑をかけられているのだが、映画の中では間宮が直接殺人をそそのかす場面は描かれていないので、僕は間宮は殺人を教唆したのではなく、催眠術行為によって殺人を犯してはいけないという理性を取り除いたのではないかと思っている。
もちろん教唆があったのかもしれないが、間宮と会話を交わした者は心の内を見透かされ殺人を行ってしまう。
催眠、あるいは洗脳に影響を与えるのが、ある時は光であり、ある時は水である。
ライターの火、コップの水は直接的であるが、チカチカと点滅している電灯、遠方に見える煙突の光の点滅、踏切の赤信号のアップなどは観客に催眠の体験をさせるという明らかな意図がみてとれる。
場面のことなるシーンを交互に挿し込むという黒沢演出は、観客を混乱させ不安にさせることに成功している。

殺人を犯すのは教師、警官、医者といういわゆる聖職者たちだ。
殺人は犯さないが変調をきたしてしまうのが佐久間だ。
高部が佐久間の家に行ったとき、書斎の電気がついて壁に大きなX印が描かれていることに気付き「それはなんだ?」と聞くと、佐久間は壁を引っ掻き、取り乱しながら「おれにもよくわからない!」と返答する。
一番まともな男であった佐久間がおかしくなってしまったことに気付いたとき、観客の不安は最高潮に達する。
そして「いいかげんにしてくれよ」とつぶやいていた高部はついに最終手段に出てしまう。
「CURE キュア」という哲学めいたタイトルながら、一連の展開はエンタメ性を強く感じる優れた演出だ。
見終ってからあれこれ想像させるのが衝撃を感じさせるラストシーンだ。
高部はレストランで食事しているが、同じ場面が前にも登場していて、その時は出されたメニューのほとんどを残していたのにラストシーンではそれらを間食していて満足そうにコーヒーを飲み干す。
ウエイトレスの行為は何を表しているのか?
僕は高部が間宮化したのではないかと思っている。
高部はウエイトレスに暗示をかけたのだと思うし、高部の妻・文江が猟奇殺人の餌食になったのも、おそらく高部が看護師に命じたのではないかと納得できるのだ。
心理ホラー作品としては実によくできた作品で、恐しさよりも怖さを感じさせる黒沢清渾身の一作だ。

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