おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

敬愛なるベートーヴェン

2021-01-29 08:03:57 | 映画
「け」の第1弾は2019年5月14日から19日までの6作品でした。
追加で拾い上げた第2弾は間口を広げて8作品ぐらいになりそうです。


「敬愛なるベートーヴェン」 2006年 イギリス / ハンガリー


監督 アニエスカ・ホランド
出演 エド・ハリス
   ダイアン・クルーガー
   マシュー・グード
   ジョー・アンダーソン
   ビル・スチュワート
   ニコラス・ジョーンズ

ストーリー
1824年のウィーン、『第九』の初演4日前、ベートーヴェンは、まだ合唱パートを完成させていなかった。
途方に暮れていたベートーヴェンの音楽出版社シュレンマーは、音楽学校にベートーヴェンのコピスト(写譜師:作曲家が書いた楽譜を清書する職業)として一番優秀な生徒を依頼していた。
そこに現れたのは作曲家を志す若き女性アンナだった。
期待に反し、女性のコピストが来たことに激怒するベートーヴェンだが、彼女の才能や自分の音楽への深い理解が分かると、仕事を任せることにする。
ついに迎えた”第九”初演の日、劇場へやって来たアンナはシュレンマーに、指揮棒を振るベートーヴェンにテンポの合図を送る役目を代わってほしいと懇願される。
そのアンナが舞台裏で見たのは、耳の不自由さで満足に指揮棒を触れない不安と恐怖に駆られたベートーヴェンの姿だったが、アンナは、そっと手を取って励ます。
こうして二人三脚の指揮による歴史に残る『第九』の演奏が始まった。
第4楽章『歓喜の歌』の演奏終了と共に大歓声があがる。
翌日、署名入りの『第九』の譜面を贈られ、感激するアンナ。
そこで作曲した曲をベートーヴェンに見せるが、彼の無神経な反応に心を傷めアパートを飛び出してしまう。
自分の過ちに気づいたベートーヴェンは、アンナの下宿先を訪ね、この曲を一緒に完成させようと許しを請うた。
それ以来、アンナはベートーヴェンの指導のもとで曲作りに没頭する。
そんな中完成した”大フーガ”の演奏会は、散々な結果に終わってしまう。
そのショックは思いのほか大きく、ベートーヴェンは無人の客席に倒れる。
アンナは彼を献身的に看病し、二人の間には師弟を超えた危うい感情と、互いへの尊敬の思いがあふれるのだった。


寸評
クラシック音楽に造詣の深くない僕の作曲家入門はベートーヴェンだった。
普通の人にとってはもっともポピュラーな作曲家なので当然の選択である。
レコードプレーヤーを持った時期と、クラシック音楽に目覚めた時期が同時期で、僕は交響曲の1番から9番までのレコード収集を目指していたが、残念ながらすべてを買い求めることは叶わなかった。
指揮者はブルーノ・ワルターやレナード・バーンスタインなどだったと思うが、そのレコードは残っていない。
岩波新書から出ていた長谷川千秋氏が著された「ベートーヴェン」という本を150円で買った。
本作は第九交響曲の初演をまじかに控えた頃の写譜師の女性との交流を描いているが、写譜師のアンナは架空の人物で、ベートーヴェンの人物像を浮かび上がらせるために登場している。
聴覚障害は知られたことだが、音楽家にはありそうな相反する激しい性格は描かれた通りだったのかもしれない。
描かれているベートーヴェンは親切で無邪気かと思えば、厳しく冷酷で非道な行動に出るなどの気分屋である。
度が過ぎた冗談を口にしたり無遠慮な振る舞いを見せる自分本位な男として描かれている。
実際のベートーヴェンも当たらずとも遠からずだったのではないかと思う。

ベートーヴェンは音楽的才能を評価し、はっきりとものを言ってくれるアンナを気に入る。
作曲者は初演では自分の曲を指揮したい願望を持つようだが、聴覚障害のあるベートーヴェンはオーケーストラの演奏するテンポを上手く聞き取れないので、テンポの合図を送る役目をアンナが行う。
この場面はなかなか感動的で、第九の音楽に乗せて描かれるアンナとベートーヴェンが指揮するシーンはこの映画の見せ場となっている。
アンナは楽団の中に立ち、ベートヴェンが見える位置にいる。
ベートヴェンは彼女の指揮を見ながら指揮棒を振る。
やがて曲のハイライトである合唱の部分になり、聴衆は皆驚きと感動の表情を見せる。

長谷川千秋氏の「ベートーヴェン」によればオーケストラの前には二人の指揮者が立ったと記されている。
一人はもちろんベートーヴェンであるが、もう一人は平時指揮者のウムラウフであったらしい。
楽団員はほとんどウムラウフを当てにしていたが、ベートーヴェンの指揮は猛烈で激しい身振りで行われた。
各楽章ごとに破れるような喝采が起こったが、特に第二楽章と、合唱の最終楽章の終わった時は、聴衆の熱狂と喝采は、劇場も揺らぐばかりに沸き起こったとのことである。
アルトの独唱をした歌手が歩み寄り、手を取り後ろを向けてやると、ベートーヴェンは聴衆の嵐が分かったとのことであるが、この映画ではアンナがその役を買って出ている。
甥のカールという男が登場するが、これは実在の人物である。
ベートヴェンはカスパールとヨハンという二人の弟の面倒を見てきたが、カスパールを愛しヨハンを嫌った。
カールはそのカスパールの子供であり、描かれた通りベートヴェンはカールを溺愛していたらしい。
カールは自殺未遂を起こし、その後作中でも述べられていたように軍隊に入り本領を発揮しりっぱな下士官になったようで、そのあたりを描けば、もっとベートーヴェンの人となりが分かったかもしれない。
大作曲家を描いた作品として、楽聖・ベートヴェンを描いた本作より、神童・モーツァルトを描いた「アマデウス」の方が大分出来がいい。


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