おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ポエトリー アグネスの詩

2024-07-15 07:37:08 | 映画
「ポエトリー アグネスの詩」 2010年 韓国   

                               
監督 イ・チャンドン                                            
出演 ユン・ジョンヒ イ・デヴィッド キム・ヒラ カン
   アン・ネサン パク・ミョンシン

ストーリー
66歳のミジャは、釜山で働く娘に代わって面倒を見ている中学3年生の孫ジョンウクと2人暮らし。
介護ヘルパーとして働く彼女は、ある日、偶然目にした広告がきっかけで詩作教室に通い始めるが、まもなく初期のアルツハイマーと診断される。
ミジャは、“見ることがいちばん大事”という作詩教室の講師の言葉に従い、見たものについて感じたことを手帳に記していく。
そんなとき、ジョンウクの友人ギボムの父親から連絡を受け、孫の仲間6人の保護者の集まりに呼ばれ、ジョンウクと友人たちが、自殺した同級生の少女ヒジンに性的暴行をしていたことを知らされる。
ミジャは、アグネスという洗礼名を持つヒジンの慰霊ミサに行く。
そこで、入り口にあったアグネスの写真を持ち去ったミジャは、次第に彼女に心を寄せるようになり、アグネスの足跡をたどっていく…。


寸評
派手さはないし、テーマも重たいけれどけっして重苦しい映画ではなく、深い余韻に浸れる映画だ。
緩やかなカメラワークで、ミジャは孫のジョンウクを詰問するような所はなく、引き起こしたことの重要さを想う時でもそのタッチは変わらない。
あまりの静けさと、ジョンウクの悪びれた様子の無さに反感すら覚えるくらいである。
しかしそれは繊細な感情表現であることが徐々に感じ取れるようになってくる。

ミジャは詩という新しい世界に足を踏み入れた喜びを見せ、アルツハイマーを宣告された戸惑いを見せる。
孫が起こしたおぞましい出来事を知った悲しみ、嘆き、怒りといった主人公の内面をストレートに表現するのではなく、行動や表情の微妙な変化によってあぶりだしていく。
ミジャはなかなか思うような作詩が出来ないので苦労するが、それが生活苦や、孫の起こした事件や、その事件をもみ消すための金策、あるいはその行為そのものといった人生の苦悩とリンクしていく。

孫の事件が大きな展開を見せ、ミジャはついに完成した詩を通じて死んだ少女ヒジンと同化していく。
哲学的ともいえる不思議な魅力にあふれていて、この数分間は圧巻のシーンとなっている。
警察に通報し事の裁きを待ち、作詩仲間の刑事とバトミントンをするミジャの姿は感動的ですらある。
教室の終了時の宿題として老女だけが作成した詩は少女の詩となり、少女の声となり変わっていく。
少女は微笑んでいるのだが、恐らく老女も川の流れにゆったりと身を任せ静かに流れていったのだろうと思わせる余韻の映像も最後まで静かだった。

本当に静かな映画だったなあ…。