おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

グロリア

2021-01-28 10:52:06 | 映画
「グロリア」 1980年 アメリカ


監督 ジョン・カサヴェテス
出演 ジーナ・ローランズ
   ジョン・アダムス
   バック・ヘンリー
   ジュリー・カーメン
   トム・ヌーナン
   ゲイリー・ハワード・クラー

ストーリー
サウス・ブロンクスのあるアパートに、数人のライフルを持った男たちが、取り囲んでいた。
彼らが狙うのは、そのアパートに住むジャックを主人とするプエルトリコの一家だった。
実はジャックはある組織の会計係を担当しており、その組織の大金のありかをFBIに洩らしたことから、彼らに命を狙われるはめになったのだった。
6歳のフィルら一家が恐怖に襲われている時、同じフロアに住むグロリアという女性がドアをノックした。
彼女は、コーヒーを借りにジャックの家を訪ねて来たのだが、その異様な空気を敏感に感じ取り、ジャックのフィルを預かってくれという突然の願いを聞き入れた。
そしてさらにジャックは詳細の秘密を記したノートをフィルに託した。
子供嫌いのグロリアが、いやがるフィルをつれて部屋に戻った瞬間、ジャックの部屋では大爆発が起き、グロリアは一家が惨殺されたことを知った。
翌日の新聞では、グロリアが一家を殺し、フィルを誘拐したと報じた。
やがて、アパートを脱出した2人は、組織から追われる身になった。
グロリアと名のるこの女は、実は、例の組織のボス、トニー・タンジーニの情婦だった女なのである。
思わぬことから昔の仲間を敵にまわすはめになった彼女は、しかし、この6歳の少年を守ることに全てを賭ける気持ちになっていた。


寸評
ひょんなことから子供を守って戦うと言う映画は趣を変えて色々撮られているのだが、本作の主人公が女性でしかも若い美人でアクションに優れている女性ではない普通のオバサンぽい女性であるのがいい。
マフィアの一員であり、かなり歳を取っているグロリアと言う女性をジーナ・ローランズがカッコよく演じている。
グロリアとフィルの逃亡劇だが、その様子を写し撮った雑多な街の様子が雰囲気を醸し出し、 ビル・コンティのスコアがかぶさることで哀愁を帯びたものになって画面に飲み込まれていく。
アクション映画の様に派手な立ち回りがあるわけではないが、とっさの判断を見せる動き、タフな姿の裏で見せる表情と少年に対する情愛、どれもリアリティがあってグロリアのジーナ・ローランズが生き生きとした存在として輝きを見せてこの映画を独り占めしている。
一瞬みせる不安とか厄介な少年を背負い込んだ泣きたい気持がちらっと表現される。
しかしそこから何度もくぐってきた修羅場から得たしたたかな強さをみせるギャップに引き付けられる。
単身、ボスの家に乗りこんだ彼女の見せる凄みのある笑顔などはシビレてしまう。
愛人でもあったボスのトニーと差しで話をする時の彼女の表情は見事としか言いようがない。

行く先々に現れる追手たちによってピンチに襲われるグロリアたちだが、単純なストーリーの中に守ってくれる男たちをそれとなく登場させるのが面白い脚本となっている。
拳銃をかざして逃げてくるグロリアを助けるタクシーの運転手などは、そんな運転手などいるのかと思わせるが、タクシーから降りた時の行動がそれを納得させてしまう。
また電車の中でマフィアに取り囲まれるが、乗客たちが追手の男たちを取り押さえて彼女を助ける。
女性を守ると言う意識が強い国ならではのことで、これも違和感なく納得させられるシーンとなっている。
どちらもご都合主義的な場面なのだが、妙なリアリティを感じさせるシーンで面白く処理されている。

一方の軸は逃亡劇なのだが、もう一方の軸はグロリアと少年フィルの交流である。
グロリアがもともと子供は嫌いで、特に友達のジェリにたいして「特にあんたの子供は嫌いだ」と言っているのは考えられる設定で、当然フィルも最初はグロリアになついていない。
フィルが言うのには「ママはもっと美人だった」というもので、実際そうだったのだから笑ってしまう理由である。
この子供がそれだけではなく、グロリアが「あんたの子供は嫌いだ」と言うのもわかる生意気なことを言うのも、この手の物語には付き物だが、それでも上手くハマっている。
グロリアとフィルが言い合いとなって別れ、向かいのバーでビールを飲んでいるグロリアがバーテンにフィルがやって来るかどうかを尋ねるシーンなどは、グロリアの勝気な性格が出ていて面白シーンとなっている。
家族をすべて亡くしたフィルに、家族への思いを断ち切らせるために連れていく墓地のシーンもいい。
他人の墓を家族の墓とみ立てて別れを告げさせるが、その時グロリアは背中を見せながらたたずんでいる。
しんみりとさせるシーンで、このシーンは重要なのだが扱い方は上手いと思う。

トニーとの対決シーンはなかなか迫力のあるものとなっているが、その後の展開も心得たものでグロリアの運命は生死どちらも考えられる描き方をしていて最後まで観客を引き付ける。
中年女性が主人公にもかかわらず、すごくスタイリッシュな作品で間延びするところがない秀作だ。

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2 コメント

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「グロリア」について (風早真希)
2023-07-25 09:04:54
女ハードボイルドの決定版「グロリア」は、タフで泣かせるラブストーリーの傑作ですね。

監督は、"アメリカン・インディーズの父"と呼ばれ、性格俳優としても知られる映画作家のジョン・カサヴェテス。

ハリウッドのシステムを嫌い、独自のゲリラ的な手法での映画作りの姿勢を貫いてきたカサヴェテス監督は、従来の映画には見られなかった、即興的なカメラワークと演技指導で映画に革命を起こした人ですね。

元ヤクザの情婦グロリア(ジーナ・ローランズ)とスペイン人の少年フィル(ジョン・アダムス)の関係は、母子愛的なものだが、二人が心を通わせていく様子は、大人の恋愛以上に絆の強さを感じさせてくれます。

グロリアは元々、子供とは縁のない世界で生きてきた女だ。
それが、同じアパートに住むギャング組織の会計士一家が惨殺された現場に居合わせたお陰で、その家族の少年を預かる羽目になる。

少年の母親の必死の頼みに、グロリアは最初こう言って断る。
「子どもは嫌いなのよ。特にあんたの子はね。」
実に、ハッキリした物言いの女だ。

孤独を引き受けてタフに生きる女は、優しさの安売りなど決してしない。
だが逆に、孤独を知っているからこそ、本当の優しさを心に隠し持っているのだ。

少年の生死を分ける切羽詰まった状況で、グロリアは少年を見捨てられず、彼をかくまってやることになる。

追って来る組織のチンピラどもに立ち向かうグロリアの凄み、これが非常にシビレるほどカッコいい。
「撃ってごらんよ、このパンク!」、ピストルを構えるその足元はハイヒール。スーツはエマニュエル・ウンガロ。

疲れた顔の中年女が、かつてこれほどクールだった事はなかったと思います。
全く、ジーナ・ローランズには痺れてしまいます----------。

安ホテルを泊まり歩く逃避行の中、グロリアと少年の信頼の度は、しだいに深まっていくのだが、グロリアの態度がこれまたクールなのだ。
少年に対して、可哀想な子供扱いは一切なし。

夜、寝る前に、自分のスーツをバスルームに下げてシワを取るようにと少年に言いつけたりする。
一方、少年の方は母親に言いつけられて、それをやるという感じではなく、何か同志のサポートをしているふうに見えてしまう。

一度、グロリアが少年に朝食を作ってやろうとする場面は、私がこの映画の中で最も好きなシーンだ。
フライパンで卵を焼いてはみたが、コゲついてしまい、グチャグチャになってしまう。
すると、いきなりフライパンごとゴミ箱に投げ捨てるグロリア。結局、朝食はミルクのみ----------。

コワモテの女の優しさが乱暴な形で出るところが、いかにもグロリアらしくて、実にグッとくるのだ。

この映画は、ハードボイルドの衣をまとった「家族の物語」だと言えると思います。
グロリアと少年フィルの関係を通じて、カサヴェテス監督が描こうとしたのは、人種や血縁の壁を超えた、新しい人間関係の可能性と、その温もりだと思います。

彼らの背後には、大都市の"残酷と孤独"が、身も心も引き裂かんと牙をむいて待ち構えている。
そして、その厳しさを描き切ったからこそ、"幻想的なラスト"が、私の心に深い余韻を残したのです。

尚、この作品は、1980年度の第37回ヴェネチア映画祭で、作品賞にあたる金獅子賞を受賞していますね。
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正しく (館長)
2023-07-26 07:16:06
おっしゃっているように、これは正しく女ハードボイルドの決定版と言える秀作です。
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