おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

素晴らしき日曜日

2022-09-28 07:18:40 | 映画
「素晴らしき日曜日」 1947年 日本


監督 黒澤明
出演 沼崎勲 中北千枝子 渡辺篤 中村是好 内海突破
   並木一路 菅井一郎 小林十九二 水谷史朗 日高あぐり
   有山緑 堺左千夫 河崎堅男 森敏

ストーリー
雄造と昌子はある日曜日楽しいランデヴーを計画したが、現実はあまりにもはかなく惨めだった。
たった35円の日曜日、スピードくじも無駄だった。
十万円の住宅見本も彼らにとっては夢の彼方のもので、アパートの借間も行ってみれば手が出ない。
子供の野球に飛び入りすれば、雄造の打ったボールは露店に飛び込み損害賠償を払わせられる。
ふと兵隊の時の戦友がいまキャバレーの社長をしているのを思い出した雄造は、その友人をダンスホールに訪れたが、街の紳士なみに扱われくさって出てくる。
昌子は残った20円でコンサートを聞きに行こうと勧め、二人は公会堂に駆けつけたが切符は売り切れ。
雄造はたまりかねて闇切符売りに食ってかかったが、その仲間に手もなくのされてしまった。
乱れた髪、汚れた服、冷い雨、黙々と歩く雄造の姿を昌子は悲しく追ってとうとう雄造の下宿まで来た。
下宿の一室で気重い沈黙が続いた。
昌子はこんな風にして別れたくないと思い、雄造は惨めな自分がつくづくいやになった。
誰もかれも自分に背中を向けている、残っているのは昌子だけではないか。
彼は急に熱情的に昌子を求めた。
本能的な怖れで室を出た昌子が意を決して再び戻ってきた時の悲痛な顔を見て雄造は強く心打たれた。
二人は雨上りの街へ出た。
二人が舗道に面した焼跡で何年か先の理想の小さな喫茶店の計画を夢中で話し合っているとき、ふと見るとずらりと人だかりがして人々がこちらを見ていた。
二人は月の出た公園へやって来た。
そして森閑と静まり返った音楽堂で二人だけのコンサートが始まる。


寸評
戦後間もない頃の作品で世相を表している。
雄造は復員兵で貧しい生活を送っているが、昌子も破れた靴を履いていて恵まれているとは言い難い。
恋人同士が日曜日に待ち合わせをして、わずかの金を持ってデートに出かけた一日を描いているが、雄造は終始一貫して情けなくて愚痴っぽい男である。
反して昌子の方は明るくてポジティブな女性で、雄造とは対照的だ。
彼らは容姿やスタイルからして何処にでもいるごく普通の一般的なカップルである。
だからこの頃にはこの様な人は珍しくはなく大勢いたのだろう。
彼らはモデルハウスに行くが、目的は結婚後の家探しではなく、お金がかからずに楽しめるからである。
もちろん彼らには手が出る物件ではない。
しかたなくアパートの下見に行くと、それはとんでもない部屋だったが、それでも彼らには高根の花だ。
結婚するためには住む家が必要だが、それはいつになるやらと言う状況が描かれる。
浮浪児に10円でおにぎりを売ってくれと頼まれ、昌子は金を受け取らず与えてやるのだが、浮浪児でさえ持っている10円に事欠いている二人なのだ。

行くところがなくなった雄造は昌子を自分の部屋に誘うが、昌子は男の部屋に行くことをためらう。
この頃の女性の道徳観として若い女性が男の部屋に行くことに罪悪感が生じていたのだろう。
それでも結局昌子は雄造の部屋を訪れるが気まずい雰囲気が流れる。
気まずさを雨漏りの雫を受け止める洗面器の金属音が高める。
そう言えば僕が住んでいた部屋も激しい雨が降ると天窓の隙間から雨漏りがして洗面器を置いたもので、当時は雨漏りのする家がかなりあったと思う。
昌子が部屋から出て行き、雄造一人になったために長い沈黙が続く。
無言の雄造をとらえたシーンが続くが、これが結構長い。
この長さは雄造の心の内を感じさせる。
帰ってきた昌子が泣きじゃくるシーンも長い。
ストーリーを追うだけならもう少し短くても良さそうだが、二人の心情を示すには必要な長さだったのだろう。

重苦しいこの映画の見せ場はやはり音楽堂のシーンだ。
仮想で雄造が未完成交響曲を指揮しようとするのだが、風が吹いてきてその音が気分を害す。
雄造はやる気をなくすこと度々で、何処までも意気地がない雄造だ。
雄造を励ますために昌子が誰もいない客席に向かって「拍手をしてやってください。恵まれない私たちのような恋人を応援してやってください」と呼びかける。
必死の昌子のアップが迫るが、語り掛けているのは我々観客に対してである。
仮想で演奏しているのは未完成交響曲だが、彼らのこれからの人生は完成に向かうだろうと思わせる。
又次の日曜日にと言って別れる二人だが、前途多難であることも想像できる。
でもきっと二人は「ヒヤシンス」という店を開くことができるだろう。
昌子の明るさがそう感じさせた。


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2 コメント

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これは、あまり黒澤的ではありませんね (さすらい日乗)
2022-10-06 15:32:06
脚本の植草圭之助の資質が強く出ていると思います。
最後の、野外公園での指揮のシーンが変ですね。でも、黒澤は、ここが気にいっていて、外国では評価されたと言っています。

「日生のおばちゃん」の中北千枝子さんは、『ゴジラ』の田中友幸さんの奥さんになったので、『世界大戦争』などの円谷映画では、良い役を演じていますね。
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好き嫌い (館長)
2022-10-07 07:11:05
黒澤さんの復活前の作品は面白い作品が多いのですが、この作品を初め「生きものの記録」など主張の強い作品はあまり好きではありません。
女性を描くとあまり上手い監督と思いませんでした。
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