おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

日本のいちばん長い日

2021-08-17 07:00:50 | 映画
「日本のいちばん長い日」 2015年 日本


監督 原田眞人      
出演 役所広司 本木雅弘 松坂桃李 堤真一
   山崎努 キムラ緑子 神野三鈴 渡辺大
   蓮佛美沙子 戸田恵梨香 松山ケンイチ
       
ストーリー    
1945年4月。戦況が悪化の一途を辿る中、次期首相に任命された77歳の鈴木貫太郎は、組閣の肝となる陸軍大臣に阿南惟幾を指名する。
2人はかつて、侍従長、侍従武官として共に昭和天皇に仕えた関係でもあった。
1945年7月、戦局が厳しさを増す中、日本に無条件降伏を求めるポツダム宣言が発表された。
連日閣議が開かれ議論に議論が重ねられるが、降伏かそれとも本土決戦か結論が出ないまま8月に突入。
広島、そして長崎に原爆が投下され『一億玉砕論』の声も上がる。
陸軍の若手将校たちは本土決戦を訴え、阿南に戦争継続を強く迫る。
阿南はそんな将校たちの暴発を押さえようと対応に苦慮する。
一方、戦争の終結か継続か、議論がまとまらない御前会議では、鈴木首相が天皇に聖断を仰ぐのだった。
降伏に反対する若手将校らは玉音放送を流させまいとクーデターを企て皇居やラジオ局占拠に向け動きはじめる…。


寸評
「日本のいちばん長い日」と聞くと、僕たちの世代はどうしても1967年に岡本喜八監督によって映画化された作品を思い浮かべてしまい、見ていると知らず知らずそちらと比較してしまっていた。
今回の作品では、前作で全くと言っていいほど描かれなかった昭和天皇が正面から描かれている。
昭和天皇を演じた本木雅弘が昭和天皇に風貌も含めて似せようとする演技でなく、静かに昭和天皇を演じていて好感が持てた。
ここまで昭和天皇を描くことができたのは、前作時にはご健在であった昭和天皇が、今は身罷っておられることが一因であるような気がする。
阿南陸相の娘さんの結婚式を気づかわれるシーンなど、人間天皇の一面を表していて本木雅弘は好演であった。
天皇は憲法をわきまえておられて、政治に直接関与されたことはない。
例外的に2.26事件の時と、この終戦の時にだけ意思を表明されたと聞く。
日本は天皇を中心とした国体であったが、君臨すれども統治せずを貫いたなればこそ永続したわけで、当時中枢の人々もその国体だけは維持しようとした気持ちを持っていたことが分かる。
そして、その時の日本はナチスドイツと違って、曲りなりにも立憲主義の議会制民主主義が存在していたのだ。
鈴木貫太郎は軍部に支配されたか弱い総理のイメージがあったが、この映画を見るとなかなかどうしてタヌキおやじ的な側面を見せた気骨のある人だったことがうかがえる。

一方、前作では暴走する若手将校たちの狂気が前面に出ていて、特に畑中少佐を演じた黒沢年男の狂人ぶりが強調されていたが、本作での松坂桃李・畑中に対しては案外と抑えた演出になっている。
青年将校たちの血気にはやる様子は両作とも描かれているが、はたして彼らは本当に本土決戦が可能だと信じていたのだろうか。
国民の犠牲などおかまいなしの参謀本部の意地だけの思考が必要以上の犠牲を生み出したような気がしてならない。
2000の特攻があれば勝てるなどという意見が、本当にあったのだろうかと思うと不思議でならない。
そんな飛行機がどこにあったというのだろう。
海軍、陸軍がこの期に及んで主従の争いをしていたことが信じられない。
建前とメンツばかりの堂々巡りの議論を繰り返す面々の姿を見れば、死んでいった英霊は何と思うのかと悲しくなってしまう。
比べて、天皇の立派さは少し綺麗に描きすぎているような気もするが、戦争遂行者を狂人にしてしまう戦争の愚かさは伝わってくる。
責任を取って割腹自殺を遂げる阿南陸軍大臣は立派だが、当時の軍人の奥さんも立派だったんだなあと思わされた。

いきなり8月15日を描いたのでは経緯が分からないということで数カ月前の鈴木貫太郎首相の就任から話を始めているのだが、その分、日本の一番長い日となった8月14日から8月15日にかけての混乱ぶりの演出が少し弱かったような気がする。
阿南惟幾は三船敏郎の方が貫録があったが、僕は実際の阿南がどのような人であったのかは知らない。
余談ではあるが、前作では大宅壮一が原作者となっていたが、本作では実際の執筆者である半藤一利が原作者となっていた。


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