おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

瞼の母

2020-04-16 10:19:16 | 映画
「瞼の母」 1962年 日本


監督 加藤泰
出演 中村錦之助 松方弘樹 大川恵子
   中原ひとみ 木暮実千代 山形勲
   原健策 夏川静江 浪花千栄子
   沢村貞子 阿部九州男 三沢あけみ

ストーリー
番場の忠太郎(中村錦之助)は五歳の時に母親と生き別れになり、それから二十年、母恋いしさに旅から旅への渡り鳥で、風の便りに母が江戸にいるらしいと知ったが、親しい半次郎(松方弘樹)の身が気がかりで、武州金町へ向った。
親分笹川繁蔵の仇、飯岡助五郎(瀬川路三郎)に手傷を負わせた半次郎は、飯岡一家の喜八(徳大寺伸)らに追われる身で、生家のある金町には半次郎の母おむら(夏川静江)と妹おぬい(中原ひとみ)がいる。
わが子を想う母の愛に心うたれた忠太郎は、喜八らを叩き斬って半次郎を常陸へ逃がした。
その年の暮れ、母を尋ねる忠太郎は母への百両を懐中に、江戸を歩きまわった。
一方、飯岡一家の七五郎(阿部九州男)らは忠太郎を追って、これも江戸へ出た。
仙台屋(明石潮)という貸元に助勢を断られた七五郎らに遊び人の金五郎(原健策)が加勢を申し出た。
金五郎は、チンピラ時代からの知り合いで、今は料亭「水熊」の女主人におさまっているおはま(木暮実千代)を訪ねたが、おはまの娘お登世(大川恵子)は木綿問屋の若旦那長二郎(河原崎長一郎)と近く祝言をあげることになっているので、おはまは昔の古傷にふれるような金五郎にいい顔をしない。
おはまの昔馴染で夜鷹姿のおとら(沢村貞子)も来た。
おとらから、おはまが江州にいたことがあると聞いて、忠太郎は胸おどらせながら「水熊」に入った。
忠太郎の身の上話を聞き、おはまは顔色をかえたが、娘を頼りの今の倖せな暮らしに、水をさして貰いたくないから、「私の忠太郎は九つのとき流行病で死んだ」と冷たく突き放した。
カッとなって飛び出した暗い気持の忠太郎を、金五郎一味が取り囲んだ。
「てめえら親はあるか。ねえんだったら容赦しねえぜ」と、忠太郎は一人残らず斬り伏せた。
一方、お登世と長二郎に諌められたおはまは、忠太郎の名を呼びながら探した。
「兇状もちの兄貴がいては、妹のためになりません。このままお別れします。おッ母さんに逢いたくなったら瞼をとじ合わせ、じっと眼をつぶります」といいながら、男泣きの忠太郎は風のように去っていった。


寸評
「上の瞼と下の瞼をぴったり閉じりゃ・・・」と母親を思い浮かべる典型的な母恋ものである。
幼い頃に生き別れた母親を探す話だが、なぜそんなにも母親を恋しがっているのかの説明はない。
母親のおはまは再婚しているが亭主は死亡していて、どのような経緯で夫婦になったのか、どのような夫であったのかも描かれていない。
母親のおはまは中居をして苦労したようだが今は立派な料理屋を営み成功しているが、その経緯も描かれていないので、金五郎やおとらとのかつての関係も想像するしかない。
文字が掛けない忠太郎が半次郎の母親に紙切れに字を書くのを手伝ってもらうシーンは見せ場の一つだが、それなら母親に代筆してもらえばいいじゃないかと思ったりする余地を含んだ、戯曲が原作らしい作品である。
突っ込みどころでいえば、飯岡から金を得るつもりで金五郎と共に忠太郎に挑んだ浪人(山形勲)が、飯岡一味が全滅しているにもかかわらず忠太郎と対決しているのも変だ。
金をもらう相手が全滅していたら戦う意味がないじゃないかと茶々を入れたくなる。
もっとも、そんなあら捜しをするのは野暮と言える作品でもある。

一番の見せ場はやはり忠太郎と母親のおはまとの対面シーンだ。
これを加藤泰はカメラをローアングルに構えた長回しでとらえ続ける。
カットが代わっても再び長回しとなる。
まるで舞台劇を見ているような大芝居が続く。
おはまは忠太郎を認めてやりたいが、お登世の祝言が近く、ヤクザの兄がいては婚礼に差しさわりがあると思い追い返してしまう。
忠太郎が出ていったあと、彼が座っていたところに手が行き、母親のおはまは忠太郎の体温を感じる。
中村錦之助もいいが、この時の木暮実千代は上手いなあと思わせる。

忠太郎が金五郎と浪人と対峙するのが跳ね橋につながる川沿いの道である。
ここで跳ね橋がバタンと倒れ飯岡一味が現れる。
この橋がすごく良い雰囲気を出していて、美術デザイナー稲野実さんの労作だと思う。
連中を斬り倒したあと、追いかけて来た母と妹を見て、忠太郎は木陰に身を潜める。
ここから、エンドマークが出るまでの約5分間が最後の見どころとなる。
お登世の結婚相手が「忠太郎さん!」と呼び、お登世も「兄さん!兄さん!」と叫ぶ。
ついにおはまも「忠太郎!忠太郎!」と呼びかける。
そう呼ぶのを聞いて、忠太郎は感極まり、合羽で顔を覆い、「おっかさん……、妹……」とつぶやき、涙を流すがこれは嬉し涙である。
忠太郎は飛び出していきたい気持ちを抑え、また涙を流すがこれは悔しさと悲しみの涙である。
忠太郎の特大アップは彼の万感胸に迫る思いを表わして、見る者を引っ張り込む。
最後にロングショットで橋を渡って行く忠太郎の姿をシルエットで映しエンドマークがでる。
オーソドックスな股旅ものだが、ヤクザな男の心の内はこの後に撮られた「沓掛時次郎 遊侠一匹」に凝縮されていく。


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