おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

水の声を聞く

2020-04-27 08:37:14 | 映画
「水の声を聞く」 2014年 日本


監督 山本政志
出演 玄里 趣里 中村夏子 鎌滝秋浩
   小田敬 萩原利久 薬袋いづみ
   松崎颯 富士たくや 高木悠衣
   かわはらゆな 牛丸亮 村上淳

ストーリー
東京、新宿のコリアンタウン。
在日韓国人のミンジョンは、親友の美奈の誘いに乗り、軽くひと稼ぎしてから頃合いを見てやめるつもりでシンバン=巫女を始めた。
ところが、彼女に救いを求める人の数はどんどん増え、やがて彼女を教祖とする宗教団体“真教・神の水”が設立されると、後戻りできない状況になってゆく。
するとそこへ、金の臭いを嗅ぎつけたか、借金取りに追われる父親、それを追う狂気の追跡者、教団を操ろうとする広告代理店の男、教団に夢を託す女、救済を求める信者たちが現われる。
もはや自分ではどうすることも出来ないほど様々な人々の思惑が絡まり合い、がんじがらめになってしまったミンジョンは思い余って行方をくらましてしまう。
教祖がいなくなった“真教・神の水”では教団の沖田紗枝を代役に立てることで信者をつなぎとめようとする。
その頃、ミンジョンは在日韓国人が集う場所で彼等の祈りの現場を体験していた。
ミンジョンは聖と俗の狭間で苦悩し、偽物だった宗教に心が入ってくる。
やがて、大いなる祈りを捧げ始めるミンジョン。
不安定な現代に“祈り”を捧げ、“祈り”によって世界を救済しようとする。
いったい何が“本物”で、何が“偽物”なのか? 大いなる祈りは、世界に届くのか?


寸評
前半部分では擬似宗教的サークルが大きくなっていく様子が描かれ、そこでは主人公のミンジョンが教祖としてふるまう様子が面白いが、それ以上に面白い存在が村上純が演じる赤尾という広告代理店の男である。
新興宗教を描いた作品では大抵がいかがわしい強欲な男である事が多いのだが、この赤尾という男は全くの悪人という風ではなく、どこか軽薄さを感じさせる存在である。
宗教をビジネスととらえていて、“真教・神の水”とは違うコンセプトで別の宗教イベントをとりしきったりしている。
純粋な救済を求めながら、その一方で組織を大きくしていかねばならない矛盾を描くことは難しいところだろうが、赤尾という男が一人登場することでさらりと宗教のビジネス的側面を描いているのはなかなかの脚本だ。
ミンジョンは霊能力があるわけでもなく、教祖をアルバイト気分で務めている普通の女の子である。
カリスマ性があるかどうかは問題ではなく、カリスマ性があると思わせることが大事なのだと諭されている。
悩みを打ち明ける信者に対するミンジョンの言葉は教えられたとおりの抽象的なものである。
教祖的振る舞いを見せたかと思うと、それは仮の姿なのだと思わせる普段の姿との対比がリアルである。
新興宗教が信者を増やしていく過程を垣間見たような気がする。
肩が凝りそうな内容をストーリー的に面白くしているのが、ミンジョンの父親の存在と、その父親を負っているヤクザの男の存在である。
同時進行的に描かれるヤクザとその取り巻き連中のリアルで唐突な暴力描写、そして父親を追い詰めるシーンでゲリラ的に敢行されたロケなどがエンタメ性を加味している。
大人を翻弄する少年シンジや、教団に救われたことで人生の歯車を狂わせてしまう青年の登場などもエンタメ性を増幅させている。

映画の後半部分で大きな説得力を発揮するのが済州島四・三事件である。
済州島四・三事件とは1948年4月3日に済州島でおこった朝鮮半島分裂に反対する島民の蜂起に対して韓国軍と警察が、朝鮮戦争終結までの期間に引き起こした一連の島民虐殺事件で、数万人が虐殺された。
ミンジョンは済州島の巫女であった祖母の血を受け継いでいるのである。
彼女は在日韓国人の集う祈りの場所で、済州島の歴史を知ることになる。
生野を中心にして在日韓国人が大阪に多い理由が語られ、僕自身も彼等の歴史を初めて知った。
映画では新大久保のコリアンタウンが舞台となっているが、大阪在住の僕にとっても身近に感じることが出来た。
ミンジョンのもとには悩み苦しむ人々が救いを求めに来ていたが、祖母も母もミンジョンに自分たちが経験した苦難の過去を話すことはなかった。
苦しみや悲しみをじっとこらえ耐え忍んでいる人間は、悩みや苦しみを打ち明ける人以上に数多くいるのだ。
ミンジョンを演じた玄里(=ヒョンリ)の、特に後半部分の救済に覚醒してからの存在感は圧倒的だ。
美奈役の趣里(シュリ)は教団の実利を求めつつも、実利に走りすぎる流れに戸惑いも感じる微妙な立ち位置のキャラクターを丁寧に演じていて、こちらも魅力的である。
ミンジョンが受けた仕打ちは神が冒涜されたようなものだが、そのことを通じて脈々と続く血のつながりに祈りを捧げるミンジョンの姿に僕は打たれた。
最近は、我が家の、あるいは縁者の墓参りをするとなぜか清々しい気持ちになるのだ。
エンドロールで流れる美空ひばりの歌う「愛燦々」がこの作品にマッチしていいわ・・・。


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