おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

2021-01-18 07:37:01 | 映画
「首」 1968年 日本


監督 森谷司郎
出演 小林桂樹 古山桂治 鈴木良俊 南風洋子
   下川辰平 宇留木康二 鈴木治夫
   小川安三 加藤茂雄 佐々木孝丸
   三津田健 大久保正信 清水将夫

ストーリー
戦時下の昭和18年の冬、一人の鉱夫が警察で死んだ。
死因は脳溢血ということだったが、鉱夫の遺族はそれを不満とし、正木に調査を依頼してきた。
正木は死亡診断書に脳溢血とあるのを怪しんだが、警察や検事は死体を見せようともしなかった。
正木は、そこに拷問死のにおいをかぎ、いかに戦時下とはいえ、官憲の横暴、残虐さに激しい怒りを覚え、この事件を徹底的に調査しようと決心したのである。
調査するうちに、脳溢血という診断が、明らかに偽証であることがはっきりした。
しかし、死体はすでに埋葬され、いかに弁護士とはいえ、警察の許可なくしてそれを掘り返すことは出来なかったし、警察が自らの不正を暴露するようなことを許すはずもなかった。
正木は東大教授福畑に相談すると、福畑はただ一言、遺体はいらない、死因を調べるには首だけあれば十分だと言う。
一瞬、驚いた正木だったが、首切り作業の適任者として紹介された中原とともに、死体が埋葬されている茨城県蒼竜寺に向った。
極秘裏に死体から首を切り離し、それを医学部教授の福畑に見せて死因を調べて貰おうというのだ。
粉雪の舞う墓地で中原は首を切り落し、正木はその首を隠し持って東京行きの列車に乗り込んだ。
しかし、正木たちの動きを察していた警察は正木と中原のあとをつけ、列車内で所持品検査をやったのだが、中原の機転のお蔭で危険を脱することが出来た。
やがて、研究室に持ち込まれた首は福畑によって綿密に調べられ、死因が脳溢血ではなく、激しい殴打によるものと断定されたのだった。
昭和19年2月から、30年末まで、前後12年間にわたって裁判を重ねた「首なし事件」の最終的なきめては、正木弁護士が持ち帰った首の診断書だったのである。


寸評
冤罪事件は多く存在してきたが、ここで描かれたことは冤罪よりもひどい、警察が自らのミスを覆い隠すために死因をでっちあげて事件を闇に葬ろうとしたものである。
警察、検察といった国家権力がその気になればなんだってできてしまう恐ろしさだ。
「首」では正木弁護士が国家権力に対抗して孤軍奮闘しているが、彼の行動エネルギーは一体どこから生まれていたのだろうと不思議にさえ思う。
田代検事に対する挑戦だったのだろうか。
正樹弁護士の申し出に対して、田代検事は当初から非協力的だった。
そもそも田代検事は一体何を守ろうとしていたのだろう。
この事件に関する警察と検事の関係が描かれていても良かったような気がする。
正木は戦争がこのような犯罪を生んだのだと言っているが、時間がたつにつれて正木はまるで狂人の様に「首」に執着を見せ始める。
被害者側の人間に対しても、極めて高圧的である。
正義感にあふれた人物なのだが、僕には嫌悪感めいたものも感じさせる人物に思えた。
小林桂樹の正木弁護士の狂気が、首切り役を担う医学部の使用人・中原によって強調され、中原という人物の登場は作品のアクセントとなっている。
事をなした後で黙々と料理を食べる姿とか車の中の態度とか、なかなか面白い存在であった。

いざとなれば女は強い。
南風洋子の静江は鉱山を捨てても良いと腹をくくり、正樹に対して「先生が焦ってはいけません」と諭すようになっているのである。
滝田静江が自分の経営する鉱山を捨てても良いと思うに至る動機も想像するしかない。
ライバル会社の乗っ取り工作への怒りだったのか、警察による自社の鉱夫に対するむごい仕打ちに対する憤りだったのだろうか、鉱夫達に比べればはるかに凛としている静江なのである。
ライバル会社が警察と結託して静江の鉱山をつぶしにかかっていることが描かれていないが、描いていた方が国家権力の腐敗がもっと表に出せたのではないかと思う。

再検死によって警察の不正が判明するが、正木が法を犯して入手した「首」は証拠品たりえたのだろうか。
実話に基づいているというから、多分ここで描かれた通りなのだろうが、現在の法律ではどうなんだろう。
日本は軍部の暴走によって誤った戦争に突入していったが、しかし戦争中でもこのような弁護士が存在していて、再審によって警察犯罪が明らかにされる正義は存在していたことになる。
一人の権力者の意のままになる独裁国家ではなく、日本では少なくとも戦時中においても社会の秩序は維持されていたのだろう。
戦後生まれの僕には当時の状況を想像するしかないのだが、この作品を見るとテーマとは別次元で日本人の誇りのようなものを感じた。
正木弁護士は戦後も以前と変わらず弁護活動を続けているようだが、変わらなかったのは正木弁護士だけでなく冤罪事件が戦中と同様に発生し続けている事実である。


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3 コメント

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正木氏は (FUMIO SASHIDA)
2021-02-14 19:57:22
正木氏は、最後は帝銀事件で故意に偽証を作らせたとのことで、弁護士の資格を失ったと思う。
ともかくすごい人だったことは間違いないでしょう。そういう人じゃなければ、こんな事件は起こせませんね。

列車で首を持ってくるところが傑作ですね。臭いでばれそうになり、尋問されて
「首です」というところが最高です。
助手の大久保さんは、東宝の脇役で出ていますが、一度見たら忘れない顔ですね。最近は、こういうすごい役者がいなくなりましたね、みんな美男、美女ばかりで。
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すごい脇役 (館長)
2021-02-15 05:53:42
大久保さんは存在感がありましたねえ。
少ししか登場しないのにインパクトがありました。
正木弁護士は帝銀事件にも関係していたんですね。
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これは間違いでした (FUMIO SASHIDA)
2021-02-16 08:41:08
正木氏は、帝銀事件とは関係ありませんでした。
訂正します。
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