おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

阪急電車 片道15分の奇跡

2023-01-29 08:46:26 | 映画
「阪急電車 片道15分の奇跡」 2011年 日本


監督 三宅喜重
出演 中谷美紀 宮本信子 芦田愛菜 戸田恵梨香 南果歩
   勝地涼 谷村美月 有村架純 小柳友 玉山鉄二
   相武紗季 鈴木亮平 大杉漣 安めぐみ

ストーリー
宝塚から西宮北口までを約15分でつなぐレトロな雰囲気の阪急今津線。
そこには、様々な事情を抱えた男女が、束の間乗り合わせていた──。
純白のドレスに身を包んだOL翔子。
彼女は、婚約者を後輩に寝取られてしまって別れ話を切り出される。
そんな最悪の状況の中で、翔子は毅然とした態度で、ある条件を出した。
それは二人の結婚式への出席だったのだ・・・。
かわいい孫を連れた老婦人の時江は、息子夫婦との関係に悩む日々…。
曲がったことが何よりも嫌いな老婦人の時江は、息子夫婦の都合で預かることの多い孫の亜美と、いつものように電車に乗っていたところ、純白のドレスに引き出物という、チグハグないでたちの翔子が気になって、自然と声をかけていた・・・。
彼氏のDVに悩む女子大生のミサ。
ふとしたことから車内で口論となり、ブチ切れた彼氏が電車から降りてしまう。
「くだらない男ね」と時江が吐き捨てた言葉で、ミサは別れを決意するのだが・・・。
庶民的な主婦、康江は断ることが出来ない性格で、肌の合わないPTAの奥様グループの誘いに、胃痛を我慢して出かけて来ているが、傍若無人に振舞うグループに「オバチャンて最低」とミサから厳しい言葉を浴びせられて急激に体調が悪化してしまう・・・。
地方出身の大学生の権田原美帆と小坂圭一は、おしゃれな大学に馴染めずにいる。
ある日、偶然にも電車の中で出会うのだが、はたして、二人の距離は近づくのだろうか・・・。
年上の会社員と付き合う女子高生の悦子は大学受験を控え、成績が思うように上がらず…。
色んな人々が片道15分の今津線を通じて交差していく・・・。


寸評
冒頭で婚約者を寝取られた翔子と彼氏を交えた後輩の対決が有るが、この後輩がなかなかしたたかな女であることが暗示される。
妊娠してしまったのは、自分が大丈夫だと言った為だと言い訳をするが、翔子はそれは仕組んでいたのだと罵倒する。
後輩女のしたたかさは結婚式で曝露される。
純白のドレスの翔子に興味を持って近づく新婦の友人は自分達も何故呼ばれたのか分からないと言う。
新婦となったこの女性は、自分の打算によって上手く立ち回っているのだと暗示していた。
そんな女より、ずっと翔子の方が綺麗でいい女なのだが、それでも上手くいかないのが人生だと言いたげだ。
登場するミサや康江や美帆といった女性たちは、どうもどこか優柔不断な所があるのだが、それでも誰かの力を借りながら必死で生き抜いていくようで未来を感じさせる。
反面、康江はセレブ気取りのおばちゃん達の食事会を抜けて嬉々として家に帰る電話をするが、はたして反省のないあのおばちゃん達からの次回の誘いを拒否できるのだろうか?との疑問もわかせたりしてその未来への不安感も残したりしている。
そのあたりのポップさがこの映画の良さなのかもしれない。
それぞれのエピソードをオムニバス風に描きながら、今津線の駅を通じて交差させながら案外とあっさりと描いているが、見終わった後はなんとなくほんのりとさせる作品だった。
時江が再び犬を飼うことになるエピソードは面白い。
この思い出からの展開を含めて、時間の交差をもう少しうまく処理できていれば、内田けんじの「運命じゃない人」の様なもっと面白い作品になっていたのではないかと感じた。

時江が孫の亜美に「泣いてもいいけど、自分の涙は自分の責任で拭ける女になりなさい」と諭すシーンと、翔子がいじめられっ子の同じ名前の少女を勇気づけるシーンはピカイチ。
宮本信子の時江おばあちゃんは、辛辣とも思える言葉を浴びせながらも心温まる激励をする実にわきまえたおばあちゃんである。
そのおばあちゃんをもってすら解決できない嫁と姑の関係がさらりと描かれているのも、後になってみると奥深いものが有る。
度々持参する花器を迷惑がっている嫁と、それを承知で持参している姑と、それを伝える孫との関係が現実的でニヤリとする。
実に淡白に描かれているだけになおさら面白く感じてしまう。

何事もなかったかのような顔をして電車に乗り合わせている普通の人たちは、それぞれに何がしらの悩みや苦しみが有って、そして、それらを消化しながら普通の人として生き抜いているのだ。
辛いことが有っても必ず幸せはあるのだと言っているようでほっとする。
時江の存在はそんな人生にあって凛とした生き様こそ大切なのだと語っているようであった。
どうも凛としたところのない僕などは、時江のそうした姿に感銘を受け憧れを持った映画だった。

宮本信子のおばあさんは、我が家の周りにはいないが宝塚あたりだと居てそうなおばあさんだ。
中谷美紀の翔子は関西女としては少し抵抗があった。
芦田愛菜は女の子のおしゃまさも有るのだろうが中々の芸達者。
永井大、白石美帆主演のスピンオフドラマとして「征志とユキの物語」が有ることを知ったが、原作の冒頭にあるこのエピソードを本篇からなぜ外したのかなあ?
東日本大震災が起きたので、あればまた違った感傷も持てたかもしれない。
とにもかくにも、阪急電車の今津線を舞台とした映画とあっては、大阪在住の僕としてはそれだけで触手を動かされてしまった。


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