おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

居酒屋兆治

2023-08-04 07:06:52 | 映画
「居酒屋兆治」 1983年 日本


監督 降旗康男
出演 高倉健 大原麗子 加藤登紀子 田中邦衛 伊丹十三 平田満
   左とん平 小松政夫 ちあきなおみ 石野真子 大滝秀治 佐藤慶
   小林稔侍 あき竹城 武田鉄矢 池部良 山口瞳 山藤章二
   東野英治郎 三谷昇 伊佐山ひろ子

ストーリー
兆治(高倉健)は函館の街はずれで、女房の茂子(加藤登紀子)と「兆治」という名の居酒屋を営んでいた。
兆治は勤めていた造船所でオイルショックの時、出世と引き換えに同僚社員の首切り役を命じられたことに反発して会社を辞めていた。
寡黙で実直ながら気持ちが曲げられず無器用な兆治であったが、店は繁盛しており、兆治の同級生でバッテリーを組んだ無二の親友岩下(田中邦衛)をはじめ、元の会社の同僚有田(山谷初男)、近所の一年先輩で酒癖の悪いタクシー会社経営者河原(伊丹十三)たちが毎晩のように足を運んで賑わっていた。
兆治は野球をあきらめた頃、地元青年会で知り合った年下の恋人さよ(大原麗子)との苦い思い出があった。
器量良しのさよに持ち上がった、旧家の牧場主神谷久太郎(左とん平)との縁談に、若く貧しかった兆治はさよの幸せを願って黙って身を引いたのであった。
しかしさよは、今でも兆治を想いつづけ、思い余って若い男と駆け落ちをしたこともある。
そんなある夜、さよの不注意から神谷牧場が火事に見舞われ、さよは街から姿を消していった。
そんな事件も落ち着いた頃、仕込みにかかる兆治の背後にさよが現われ、「あんたが悪いのよ」と言い残して去っていった。
そんな中、常連客の秋本(小松政夫)の妻が死んで、その顛末などで悪口を言う河原に我慢できずに殴った兆治は警察に留置されるが、なぜか調べはさよとの関係に集中している。
警察は兆治とさよの関係から放火事件を疑っていたのだ。
釈放されてひさびさに店に戻った兆治を茂子と岩下が笑顔で迎えた。
店の再開を聞きつけてやって来た峰子(ちあきなおみ)からさよをすすき野で見た人が居るとの話を聞く。
昔のさよの写真を引き伸ばし、すすき野の繁華街を訪ね回る兆治は造船所時代の後輩で店の客の越智(平田満)と偶然にであったところ・・・。


寸評
元高校野球の藤野英治はロッテの剛速球ピッチャー村田兆治に憧れて「兆治」という名前の居酒屋を営んでいるのだが、映画ではその事には触れていない。
その店に集まる人々との交流を描いているのだが、中心になるのはかつての恋人さよの英治に寄せる狂おしいまでの心残りと、幼馴染の親友岩下との心の触れ合いである。
店に集まる個性豊かな連中が脇を固めて話を紡いでいくのだが、所々のエピソードが尻切れトンボの様で僕は消化不良を起こしてしまった。
大滝秀治の校長先生などはなぜ登場したのかわからない。
英治が突然先生宅を訪問する話が挿入される。
お互いに競馬場に出入りしていることが分かり、先生は「どうも君と僕とは違う競馬をしているようだなあ」というのだが、それがどうしたというのだという感じ。
クラス会の後に「兆治」を訪れるが、若い妻をもらうのも大変だの話ぐらいで、なくてもいいような話だ。
店の常連客の一人である池辺良などは、なにか思わせぶりな様子で登場するが、その他大勢組の一人であるにすぎない。
昭和残侠伝シリーズで、高倉健との名コンビを見てきた僕には寂しいばかりの立ち位置だった。

脇役たちは中々いい演技を見せているのだが、ヒロインである大原麗子の演技力のなさは如何ともしがたい。
かつての恋人を思い切れないで、精神異常とも思えるほど彼への慕情を募らせる。
お互いに貧しくて、どちらかでも幸せになれればと思い、さよの神谷牧場への縁談で英治が身を引いた関係だ。
しかし、その後英治は結婚し、お互いに子供も出来て、それぞれ幸せと思える生活を営んでいたはずだが、さよの英治への思いは消えることはなかったのだ。
かつて愛した人を秘かに思い続ける気持ちは分からぬでもないし、むしろよくわかる感情なのだが、その感情の吐露としてはいささか狂人じみているだけで、心の内に潜む切ない情感を感じさせるまでには至っていなかったように思う。
脇役では英治の先輩である河原の伊丹十三や、親友である岩下の田中邦衛などが存在感を示していたが、英治の妻である歌手の加藤登紀子が、知っていながら知らないそぶりで夫と共に歩く平凡な主婦として、なかなかいい演技を見せていた。
それに比べても大原麗子の演技は寂しいものが有る。
ところが、彼女の晩年、あるいは亡くなり方を思い浮かべると、このさよ役は彼女の遺書のような気がしてくる。
それを思うと、彼女の姿に一抹の感傷を感じてしまう。
そして、彼女の晩年の姿と本作の役柄とが重なって、本作はやはり彼女の代表作になっていると思う。

羨ましいのは英治と岩下の関係だ。
彼らの様な友情に結ばれた関係にあこがれを抱いてしまう。
二人で魚釣りに行くシーンなどは、歳とってもあんな友人がいればいいなと思ってしまう。
友人はいないわけではないが、二人の様な関係の友人はいないなあ…。
最後に流れる主題歌はいいわあ~!