おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

イングロリアス・バスターズ

2023-08-12 08:07:30 | 映画
「イングロリアス・バスターズ」 2009年 アメリカ


監督 クエンティン・タランティーノ
出演 ブラッド・ピット メラニー・ロラン クリストフ・ヴァルツ
   ミヒャエル・ファスベンダー イーライ・ロス
   ダイアン・クルーガー ダニエル・ブリュール
   ティル・シュヴァイガー B・J・ノヴァク

ストーリー
1941年、フランスの農村地帯はすでにナチスの手に落ちてしまったので、多くのナチスの将兵がいた。
ある農家に来た大佐は、行方不明になっている家族を探していると農夫に告げた。
大佐は巧みに英語を使い農夫を脅していき、そして英語がわからないと知るとフランス語で話をした。
そして部下に床下を銃撃させると床下から一人の少女が逃げていった。
大佐は少女に銃口を向けたが発泡はしなかった。
アメリカ軍の中尉であるアルドは、ユダヤ人を8人集め、彼らに徹底的にナチス狩りの仕方を教えた。
ナチスを殺したあとは頭の皮を剥いだりするなど徹底的に行うものだった。
彼らはバスターズと言われ、その情報はナチスのリーダー、ヒトラーにも伝わった。
1944年のパリ、あのころ農村でナチスの銃撃から逃れた少女は成長し、映画館の支配人として暮らしていた。
そんなとき彼女はドイツ兵の男と知り合うが、ナチスの悪行を知っているため深入りはしなかった。
ある日、彼女は男に呼び出され、映画館でナチス軍を高揚する映画を上映させてほしいと頼まれる。
その上映の日には多くのナチス高官が来るとのことだった。
そこにかつて自分に銃口をむけた大佐がやってきたので彼女は動揺したが平静を装った。
彼女は映画館の従業員に彼女の家族を殺したナチスへの復讐のために映画館もろとも放火すると告げた。
そのころバスターズはチャーチル首相が出席するなかで映画館放火計画を知らせた。
そしてドイツ人女優と一緒に行動をするバスターズはある酒屋に行ったところ、そこに現れたゲシュタポの人間は彼らのドイツ語アクセントからドイツ人でないことを見破り、銃撃戦が始まった。
そして数人のバスターズが死亡してしまう。


寸評
5章に分けて語られる物語の中心となるのは、ドイツ指導者の暗殺を企てる二人の主人公の活躍である。
一人はナチス親衛隊の大佐に家族を皆殺しにされたユダヤ系フランス人の女性であり、今一人はユダヤ系アメリカ人からなる秘密部隊を率いるアメリカ陸軍中尉である。
二人の闘いが史実を無視してクライマックスに突き進んでいくスピード感がたまらない。
ブラッド・ピットが主演なのだろうが存在感が光るのはむしろ敵役であるハンス・ランダ親衛隊大佐を演じたクリストフ・ヴァルツの方である。
物語の発端となるユダヤ人狩りで農家に来たハンスが長々と話すシーンから彼の存在が輝いている。
人が同じ種類でありながらリスを嫌わないのにネズミを嫌う事を述べたりする脚本にも感心した。
しかし過激な暴力描写もあり、頭の皮をはぐなど少しグロがきつい描写もあるのは日本人受けしないと思う。
欧米の人には日本人には乏しい反ナチの感情があるのだろう。
その為にナチに対する残酷な描写が素直に受け入れられる土壌があるのだと思う。

第1章『その昔…ナチ占領下のフランスで』では重要人物となるハンスと家族を殺された少女のショシャナが登場し、ショシャナが逃げ延びる迄が描かれる。
第2章の『名誉なき野郎ども』では第2章のタイトルとなっている通りのイングロリアス・バスターズの登場である。
第3章の『パリにおけるドイツの宵』からいよいよ本題に入っていくという感じが出てくる。
ハンスは成人してエマニュエルと名前を代えているショシャナの生い立ちや劇場について尋問するシーンは静かだが緊張を生み出している。
ショシャナは家族を殺された復讐に、上映会に集うナチス高官をフィルムを使って劇場もろとも焼き尽くすことを思いつくのだが、きわめて可燃性が高かった当時の映画フィルムの特徴を使っているのは納得させる。
第4章の『映画館作戦』では地下の居酒屋で繰り広げられるゲシュタポのヘルシュトローム少佐とドイツ語と映画史に堪能な英国のヒコックス中尉の対決が面白い。
ドイツの有名女優となっているブリジット・フォン・ハマーシュマルクがドイツ軍兵士から息子の誕生祝いにとサインをせがまれてハンカチに施したサインの使い方も小気味よい。
ここでもハンスの冷静な判断を上手く描いている。
そして最終章となるのが第5章の『巨大な顔の逆襲』である。
史実を無視した奇想天外なストーリー展開で描かれるが違和感を感じさせない小気味よさがある。
フレデリックとショシャナの最後も予想を覆すものだ。
更に圧巻なのは、ハンスがバスターズを突き止め逮捕しながらナチス高官の暗殺を許す代わりに、ハンスの恩給を認めた上で訴追せずに米国へと亡命させることを呑ませるくだりだ。
ヒトラー、ゲッペルスなどの命運をハンスが握っており、戦争を終わらせる鍵もハンスが持っていると言う展開はフレデリックとショシャナの展開以上の衝撃である。

アルドが最後のとる行為はナチスに対する恨みの表現であり、僕は戦後20年近くも追い続けて死刑を与えたアドルフ・アイヒマンのことを思った。
ナチスに対する憎しみは永遠に消え去ることはないのだと認識する。