おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ウィスキー

2023-08-15 06:09:16 | 映画
「ウィスキー」 2004年 ウルグアイ / アルゼンチン / ドイツ / スペイン


監督 フアン・パブロ・レベージャ / パブロ・ストール
出演 アンドレス・パソス ミレージャ・パスクアル ホルヘ・ボラーニ
   ダニエル・エンドレール アナ・カッツ アルフォンソ・トール

ストーリー
ウルグアイのとある町でハコボは、父親から譲り受けた小さな靴下工場を細々と経営している。
その工場では、控えめだが忠実な中年女性マルタが彼の片腕として働いている。
二人は長年仕事をしていても、必要な会話を交わす以上の関係になることはなかった。
1年前に亡くなった母親の墓石の建立式に、疎遠になっていたハコボの弟エルマンが来ることになる。
ハコボは弟が滞在する間、マルタに夫婦の振りをして欲しいと頼むと、意外にも彼女はすんなりとその申し出を受け入れる。
そして、エルマンがウルグアイにやってきた。
兄弟はサッカー観戦に行き、その途中立ち寄ったハコボの工場を見たエルマンは、工場の改装を勧め、力になると言う。
エルマンは、お礼にハコボとマルタをピリアポリスに招待すると言い出し、ハコボはしぶしぶ同意する。
滞在の最後の夜、エルマンはハコボに対し、母親の介護を任せきりにしていたことを謝り、お詫びとして札束の入った包みを渡そうとする。
そして夜中、部屋から抜け出したハコボはもらったお金を全てカジノで賭けて、大儲けしてしまう・・・。


寸評
とぼけた味の辛辣なコメディとも言える映画である。
見れば何故これが「ウィスキー」という題名なのかが納得できる。
年に何本も製作されないらしいウルグアイ映画だが、数少ない中にこのような映画が存在していることに驚く。
会話は少ないけれど、見終われば、偽装夫婦、真実を隠しての旅となかなか劇的な設定だったことが分かる。
そして、最後に起こる静かな大事件など、描き方によってはいくらでも劇的に描ける素材を有していながら、それをオフ・ビートな感覚で料理しているところが、かえって物語をドラマチックにしている。
さいごまで声高に叫んでいないところが首尾一貫していて、この映画を味わいある作品に仕立て上げていた。

登場人物は3人といってよく、話としては兄のハコボとその妻を演じることになったマルタの物語と考えていい地味な映画だが実に面白い。
ハコボがやっている小さな工場の中で、単調な日常を飽きることなく毎日繰り返しているふたり。
長年一緒に仕事をしているのに、会話らしい会話はまるでないのだが、しかし互いを同類だと認め合うような気安さと信頼感があるようだ。
その単調さが結構丁寧に描かれるので、その後のマルタの変化が静かな変化なのにインパクトを持ってくる。
これはウルグアイの映画だが、高齢者を取り巻く状況は洋の東西を問わない。
変化することから切り離され、変わりばえのしない時間を生きるようになってしまうのが高齢者だ。
しかしそれでも尊厳を全て失ってしまうわけではない。
まだまだ、世の中に、誰かに、必要とされていることを実感したいと思うようになるのではないかと思うのだ。
ハコボやマルタは擬似夫婦を演じることでそれを感じたのではないかと思う。
面白いのはマルタがエルマンからも必要とされるようになり、輝きを見せ始めることだ。 面白い! 上手い!

ハコボの弟のエルマンがやってくることで、かりそめの夫婦役をやることになるのだが、エルマンがやってくる直前、美容院に行ったりおしゃれをしたり、身ぎれいに装うマルタの姿が描写される。
渋々引き受けた妻役なのだが、どこか今までの平凡な生活と違う何かを期待していることをうかがわせて、なかなかうまい演出だと感じた。
普通だと、ハコボとマルタが夫婦の真似事をするうちに、互いを意識するようになって最後は結ばれるという展開なのだろうが、しかしこの映画はそれとはまったく逆なのがユニーク。
マルタは憂鬱そうな表情を見せるし、ハコボも苛立ちを隠せない。
それはあたかも相手が自分の想像していた人ではなかったという失望の表れのようでもある。
女はいくつになってもしたたかで、あんたの思い通りにはならないのだよと言っているようなラストはくすぐったい。

BRICSと呼ばれる中の一国として経済発展が目覚ましいブラジルだが、ウルグアイから見ればブラジルは本当に裕福な国で、その国力の差がハコボとエルマンの兄弟にものしかかっていることも描いていて社会性を加味している。
そのくせ靴下を巡るエピソードなどには苦笑させられ、決して陰湿でないところが良い。
いい作品て、どこの国にもあるものだなあ。