おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

本気のしるし

2023-03-24 09:25:52 | 映画
「本気のしるし」 2020年 日本


監督 深田晃司
出演 森崎ウィン 土村芳 宇野祥平 石橋けい
   福永朱梨 忍成修吾 北村有起哉

ストーリー
どこか虚無感を抱えながら成り行きまかせの日常を過ごしている会社員・辻一路(森崎ウィン)。
会社は社内恋愛禁止だが、辻に想いを寄せる後輩社員の藤谷美奈子(福永朱梨)と関係を続けている。
一方では先輩社員の細川尚子(石橋けい)とも関係を持っていて自宅に招き入れている。
求められれば断れない辻一路なのだ。
ある夜、踏み切りで立ち往生していた不思議な雰囲気の女・葉山浮世(土村芳)の命を救った辻だったが、その日からふたりの泥沼の関係が始まる。
追い込まれるとその場限りの嘘をつき、お金や人間関係、すべてに無責任な言動をとる浮世。
浮世は踏切事故の事情聴取でも、運転していたのは一路だとでまかせの嘘を警官に告げる。
最後には認めた浮世だが、興奮していて運転は無理と判断した一路はタクシーでの帰宅を勧めたが浮世はお金を持っていなかった。
仕方なく一路はタクシー代を貸してあげる。
後日、浮世が乗っていた車はレンタカーでその料金が払われていないことが判明する。
車内に残されていた名刺を頼りにレンタカー会社から一路に連絡が入る。
一路はレンタカー代も払ってやった。
行方が分からなくなっていた浮世は借金のトラブルでヤクザの脇田真一(北村有起哉)の事務所にとらわれていたので、一路はその借金の120万円も肩代わりしてやる。
浮世との関係で深みにはまっていく一路の前に葉山正(宇野祥平)や峰内大介(忍成修吾)という怪しげな男たちが出現する。
だが辻は、そんな彼女を放っておけず、浮世を追ってさらなる深みに嵌っていくのだった・・・。


寸評
テレビドラマを劇場用に編集したこともあって4時間に及ぶ長編である。
上映時間を覚悟して見始めるが、登場人物の誰もがイライラする性格の男女で、彼らを見ているとヤクザの脇田がまともに見えてしまう。
脇田が何度も、「女と男が地獄に堕ちるのを見るのが好きだ」と語るのだが、それぞれの関係が静かな関係なのに言いようのないほどいい加減で「お前たちはどうしてそうなんだ」と怒鳴りたくなってくる。
葉山浮世という女性はつかみどころがない、いい加減な女で「スミマセン・・・」を連発して男を翻弄させる。
線路で立ち往生し辻一路という男性に助けてもらうのだが、現場検証の警官に犯人として彼を突き出そうとしたり、酔った彼女が言葉巧みに彼の家に行こうとする。
彼の家から逃走する彼女を追いかけたら、急に飛ばしてしまった小さな子供の風船を取るように懇願するなど、実にいい加減な女で、常に良い人であろうとする辻一路をうまく利用しているように見える。
ヤクザから救出された浮世が、ファミレスでビールを飲んだ時に見せる笑顔を見ると殴りたくなる。

それでは辻は真面目一途な青年かと言えばそうでもない。
序盤、辻の働く玩具会社のオフィスで女性社員・細川さんの怒号が飛ぶ。
部長が、後輩社員のみっちゃんにパワハラ発言をしたとして前言撤回を求めているのだが、その様子を辻の同期は嘲笑し、大柄な女性で真面目なことに漬け込んで、「モテない面倒な奴」とレッテルを貼る。
辻はそんな後輩の男性社員をたしなめるので、彼は良識派の立派な先輩社員との印象を持たせる。
しかし、そのあと辻は倉庫でみっちゃんとキスを交わし、辻が家に帰ると細川さんが待っており濃厚なキスを交わすので、なんだ辻も真面目ぶっているが二股をかけている女たらしじゃないかと思えてくる。
この辻と言う男は誰にでもいい顔をする事なかれ主義者だ。
女に言われると拒絶することはなく、キスしたり家に入れたりするが、決して「愛している」とは言わない。
そして、そこまでするかと言いたくなるくらい浮世に肩入れをする。
極端な男ではあるが、誰にでもいい顔をする人物は自分の周りにも居たから、作られた人物像とも思えない。

知らず知らずのうちにダメ人間に入れ込んでしまう作品なのだが、僕は先輩社員の細川さんに気持ちが傾いた。
当初は妻気取りの態度を見せる彼女を嫌悪していたが、彼女は介護や借金といった問題を抱えているのに、外見で男に優しくされないので強くなるしかなかった可哀そうな女性であるとわかり同情した。
社内恋愛がバレると左遷されるのは辻ではなく女性社員の細川さんである。
「私の中で警報がなり続けている。細川さんは強い。浮世には俺が必要なんだ」と辻に言われてしまう。
辻だけが自分をわかってくれると信じていたのにそうではなかったのだ。
それでも辻を責めたりはしない大人の女性だ。
逆に自分を認めてくれていると感じた男なら誰でも身を任せていたのが浮世だ。
浮世は他人任せなのである。
自分にも意思があることに目覚めた浮世が取る行動はまさしく青春映画の様相を帯びてくる。
浮世のとる行動は本気度を表しているのだろう。
踏切で始まった映画は踏切で終わるが、この二人は絶対にうまくいかないのではないかと僕は思ってしまった。