おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ボヘミアン・ラプソディ

2023-03-22 13:27:40 | 映画
「ボヘミアン・ラプソディ」 2018年 イギリス / アメリカ


監督 ブライアン・シンガー
出演 ラミ・マレック ルーシー・ボーイントン グウィリム・リー
   ベン・ハーディ ジョー・マッゼロ エイダン・ギレン
   トム・ホランダー アレン・リーチ マイク・マイヤーズ

ストーリー
1985年7月。波打つほどの大観衆を前に呼吸を整えステージに向かうフレディ・マーキュリーの姿があった。
時はさかのぼり1970年のロンドンでフレディ・マーキュリーと名乗る以前の青年ファルーク・バルサラは空港で荷物の積み下ろしをする退屈な仕事をこなす一方で、時間があれば曲を書き続けていた。
ファルークは厳しい父親が「世の中のために善意を尽くしなさい」と言うのを無視してライヴハウスへ行った。
ライヴハウスで観たバンド“スマイル”に魅了され、演奏が終わった直後の彼らを探すファルークは、そこですれ違った女性に惹かれたのだが、それは、のちに婚約者となるメアリーだった。
スマイルのヴォーカル兼ベースのティム・スタッフェルが脱退したことを知り、ファルークは自らをヴォーカルとして売り込んだ。
こうしてメンバーに出会い、結成されたバンド名を“クイーン”とし、フレッドは名前をフレディに変更した。
その1年後、ベーシストのジョン・ディーコンが加入し、伝説のバンド・クイーンが誕生した。
メアリーが働くブティックで再会したフレディは深い仲となっていく。
始動したクイーンは斬新なアイデアでさまざまな演奏方法を試みていた。
まるで子供が遊んでいるかのように演奏している様子を見ていたのが大物マネージャーのジョン・リードだった。
ジョンは彼らのマネージャーを志願し、さらに弁護士のジム・ビーチ、リードの知人ポール・プレンターらが加わり、クイーンの活動が本格的に展開していく。
次第に多忙を極めていく中でもフレディはメアリーへの気持ちを忘れていなかった。
一夜を共にしたある日の翌朝、フレディは指輪を渡してメアリーにプロポーズして永遠の愛を誓った。
全米ツアーを果たし、次々とヒット曲を飛ばすクイーンは次なるアルバムのために、1曲で6分以上の大作「ボヘミアン・ラプソディ」を制作したが、レコード会社EMIの重鎮レイ・フォスターから一蹴されEMIとの契約を破棄した。


寸評
僕は”クイーン”のファンでもないし、どんなバンドだったのかも知らなかったのだが、この映画はそんな僕でも楽しめるものとなっている。
バンドが栄光をつかむまでの経緯が、様々なエピソードとともに描かれていくのだが、ドラマ自体は物足りなく感じるものである。
脚本の欠点を音楽が埋めているという印象である。
それが音楽と一体化することで奥深い世界が広がっていき、フレディの苦悩が一層リアルに伝わってくる。
次々流れ出てくる音楽もあって、何とも言えない迫力を生み出していき2時間があっというまだ。
是非とも音響効果の良い劇場で見たい作品である。

フレディにおける最大のポイントは、彼が同性愛者だということだ。
最初はメアリーと恋人同士として過ごしていたフレディだが、やがて男性への関心に目覚めていく。
フレディはメアリーに、自分はバイセクシャルで女性も男性も愛せるというが、メアリーは「あなたは男しか愛せないゲイだ」と断言する。
そうなれば、普通はメアリーと別れるものだが、彼はそうはせずに隣の家に住まわせ頻繁に連絡を取る。
メアリーがフレディと距離を取り始める姿が切なく映るが、この描写はなかなかいい。
大ヒット曲を集めた制作秘話ものでありながら、LGBTものとしてのテーマ性も併せ持っている。
メアリーは新しい恋人との間に子供を設けるが、フレディの理解者として彼が亡くなるまで友人だった。
フレディのステージを見守る彼女の姿は美しい。
どこかの国の国会議員に見せたい。
フレディを演じたマレックの演技は目を見張るものがあり、音楽と共に彼の存在がこの映画を支えている。

僕が学生だった頃には「ウッドストック」があったけれど、ライブ・エイドは1980年代のウッドストックだ。
その熱気は画面を通じても伝わってくる。
フレディの苦しみ、孤独は、映画の前半からじわじわと積み重なり、重苦しい空気を作ってゆくがそのすべてを蹴散らすクライマックスである。
同性愛者であり、エイズを発症し余命いくばくもないと思われる姿に感動する。
楽曲は基本的にクイーンの原曲を使っているとのことだが、歌声と演奏に不自然さはまったくない。
ドラッグやセックス関連の描写を極力抑えて、フレディの生きざまを描いている点が評価できる。
日本映画にこの手の作品が生まれてこないのは、クイーン程のアーティストがいないことによるのか、それとも音楽映画にチャレンジする監督がいないせいなのか・・・。
しかし、ライブ・エイドってすごいアーティストたちが参加していたんだなあ。

ラストでは、実際のフレディおよびクイーンの映像とともに、1991年にフレディの死と、彼の生涯の最期までハットンが添い遂げ、メアリーが友人として支え続けたこと、フレディの名を冠したエイズ患者支援基金『マーキュリー・フェニックス・トラスト』が設立されたことが語られる。