おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

亡国のイージス

2023-03-12 07:21:32 | 映画
「ほ」ですが間口を広げてみます。
前回の紹介作品です。
2020/3/24の「望郷」から「冒険者たち」「暴力脱獄」「ボーン・アイデンティティー」「ぼくたちの家族」「北北西に進路を取れ」「ぼくらの七日間戦争」「ぼくんち」「ポセイドン・アドベンチャー」「火垂るの墓」「鉄道員(ぽっぽや)」「ほとりの朔子」「炎のランナー」と、
2021/11/15の「砲艦サンパブロ」から「ボウリング・フォー・コロンバイン」「ほえる犬は噛まない」「ボー・ジェスト」「北陸代理戦争」「慕情」「ボルベール <帰郷>」「ホワイトハンター ブラックハート」「ぼんち」でした。

「亡国のイージス」 2005年 日本


監督 阪本順治
出演 真田広之 寺尾聰 佐藤浩市 中井貴一 勝地涼 チェ・ミンソ
   吉田栄作 谷原章介 豊原功補 光石研 天田俊明 鹿内孝
   平泉成 岸部一徳 原田美枝子 原田芳雄

ストーリー
海上訓練中の海上自衛隊護衛艦“いそかぜ”が、FTG(海上訓練指導隊)の溝口3佐を騙り乗り込んだ某国のテロリスト、ヨンファと副艦長・宮津の共謀によって乗っ取られた。
すでに艦長は殺害され、乗務員たちも強制的に退艦させられる中、諜報機関DAISの調査官・如月と共に艦内に残った先任伍長の仙石は、彼らの謀略を阻止すべく反撃を開始する。
しかし、ヨンファたちは対水上訓練の予定されていた“うらかぜ”を対艦ミサイル“ハープーン”で撃沈させ、さらに宮津は政府に対し、全ミサイルの照準を東京・首都圏内に合わせたことを宣言するのだった。
この前代未聞の事態に急遽召集された梶本総理以下、国家安全保障会議の面々に、宣戦布告とも取れる通告をする。
それは、米軍が極秘裡に開発した、僅か1リットルで東京中の生物を死滅させる威力を持つ“GUSOH”なる特殊兵器の存在を明らかにしなければ、その特殊兵器で東京を攻撃すると言うもので、既にそれはヨンファたちの手に落ちていた。
やむを得ず、核爆発に匹敵する熱量を生み出すGUSOHの解毒剤とも言える爆薬“テルミット・プラス”の使用を決定する政府。
だが、多くの犠牲者を出したものの、仙石たちの活躍でヨンファの計画は壊滅し、GUSOH奪還にも成功。
東京湾内を暴走する“いそかぜ”も、過ちに気づいた宮津によって爆沈し、日本は戦争の危機を免れるのであった


寸評
上映時間を2時間程度(2時間7分)にするためにカットしたシーンが相当あるのかな?原作を読んでいたら理解できるのだろうが説明不足のところが時々見受けられた。
宮津副艦長と如月の関係もよく解らなくて、挿入される如月の浜辺の回想シーンなどは原作を読んだ者から聞いて初めて理解することができた。
ジョンヒが首の傷のために言葉が発せられなくなっていることも解説書で知った。解説書と言えば、その中で如月とジョンヒの心の交流が述べられていたけれど本編ではそれはなかったから、これもカットされた部分なんだろうか。有った方がドラマの奥行きが出たかもしれない。

宮津副艦長役の寺尾聡は気のいいおじさんのようで、皆を引き付けるカリスマ性が感じられなかった。どうやら反乱軍は宮津学校の出身者らしいのだが、その結びつきの強さがよく理解できなかった。亡国のテロリストと行動を共にしている動機付けも弱かったと思う。日本側の反乱軍メンバーは全体的にひ弱で、国家に反逆している精神の高まりのようなものを感じなかった。2.26事件の青年将校たちはこんなではなかった筈だ。
しかしそれらの政治性を除いた分、サスペンスアクションとしては単純に楽しめる出来に仕上がっていたと思う。これぐらいの水準の映画を連発すれば邦画の水準上昇も夢ではない。
出演者としては如月行役の勝地涼とヨンファ役の中井貴一が光っていた。特に勝地涼はその鋭い目つきでもって、何が何でも任務を遂行しようとするキャラクターが滲み出ていたと思う。

総理が「なんで俺の時なんだ」とつぶやいて対策本部に乗り込むくだりは、事なかれ主義に慣れきった政府首脳と官僚を皮肉っていて笑いが漏れた。政府首脳といえども事実を知るのはごく一部者だけのこともあることが描かれ、事実が総理だけに知らされるシーンも有るから、果たして現実のものとなったときの対応はどうなるものやらと危惧もした。
最後にイージス艦は海の藻屑となって沈んでいくが、まるで守るべきものがない為に無用の長物を葬り去ったが如き印象を持った。葬り去ると言えば、自身の監督作品「KT」のラストで佐藤浩市を爆殺させたように、新型爆弾グソーの存在を知った真田広之演じる仙石を、その秘密維持のために抹殺した方が非情感が出たと思う。そんな政治ドラマ性を極力排除して、サスペンスアクションとしてまとめ上げたのは中途半端にならずに、かえって良かったのかもしれないけれど・・・。
専門的にはどうだか知らないけれど、VLSから発射されるミサイルや、F2戦闘機の離陸シーンや飛行シーンも臨場感が出ていて、同じ自衛隊協力映画と言っても「戦国自衛隊1549」とは格段の差がある。
専守防衛と言ってはいるけれど、実際の戦闘になれば先制攻撃がいかに有効かも描かれていて、どうも平和ボケしているハト派的平和主義者への警鐘とも受け取れる。 ただ、「それでいいのか日本人。わかったか日本人」と何回か呟くヨンファの日本人に対する想いとは何だったのだろう。彼の国連軍を利用した祖国救済革命の手段としての行動は現実としての可能性は別として、ドラマ仕立てとしては理解できるだけに、逆にその部分がよくわからなかった。
断片的に挿入される回想シーンや語られなかった関係を暗示するシーンも、作品にアクセントをつけていて、ミステリー性を高めていたと思う。
一人で、いや二人で反乱軍に立ち向かっていく様は日本版「ダイハード」だった。