おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

よこがお

2021-12-24 11:49:11 | 映画
「よこがお」 2019年 日本


監督 深田晃司
出演 筒井真理子 市川実日子 池松壮亮
川隅奈保子 小川未祐 須藤蓮
大方斐紗子 吹越満

ストーリー
リサと名乗る女(筒井真理子)が初めて訪れた美容院で、米田(池松壮亮)という美容師を指名する。
数日後、米田は出勤途中に自宅近くでリサに再び出会う。
リサはご近所に知り合いがいるのは心強いと、米田の連絡先を教わる。
だが、リサが住んでいるのは、米田に示したマンションではなく、窓の向こうに米田の部屋が見える殺風景なアパートだった。
リサの本当の名前は白川市子と言い、この町で訪問看護師をしていた。
訪問先の大石塔子(大方斐紗子)の孫の姉妹、姉で介護福祉士をめざす基子(市川実日子)、妹のサキ(小川未祐)に慕われ、二人の勉強につきあうことがしばしばあった。
その日も、喫茶店で二人の勉強につきあい、塾に行くためにサキが先に店を出た。
そこに市子の甥の鈴木辰男(須藤蓮)が市子に頼まれていた本を持ってきた。
その晩からサキがいなくなる。
数日後、サキは無事に保護されるが、彼女を誘拐した犯人として大石家のテレビに映し出されたのは辰男に他ならなかった。
犯人の親戚であることを姉妹の母に市子は言おうとするが、基子がそれを止める。
秘密を共有した基子と市子は親しくし続ける。
二人で動物園へ行った後、医師の戸塚(吹越満)が、先妻の息子を乗せた自動車で市子を迎えに来る。
二人は結婚式場の下見に行くと言うことで、基子は市子と戸塚の婚約を知り、ショックを受ける。
やがて、市子が甥の辰男の誘拐を手引きしたのでは、ということが週刊誌に書かれ、それを読んだサキと基子の母は仕事に来ていた市子を、怒って追い出してしまうが、基子はそれでも市子と親しくし続ける。


寸評
人は正直そうでいても何処かしらにウソで固めた虚構を作り上げていたりする。
その場しのぎのウソをつくことだってある。
心優しく親しみやすい市子だが、彼女にも人には見せない一面がある。
タイトルは意味深である。
僕たちが見ているのはその人の一面、言い換えれば横顔の片側だけで反対側には見えないその人のもう一方の顔があるということだろう。
登場人物たちはそれぞれが表の顔と裏の顔を持っている。
どっちが表でどっちが裏なのかは分からないが、それぞれが秘めたものを持ちながら何もないふりをして付き合っているのである。
市子と基子の関係の描かれ方は実に生々しい。
介護士として素晴らしい人格を見せる市子だが、基子が訪れる美容師の米田のマンションを向かい側のアパートから眺めている。
米田に好意を抱いている市子は医師との結婚を決意しているにも関わらず基子に対する嫉妬が渦巻いている。
そして基子は恋人である米田よりも市子のことが好きで、市子を誰にも取られたくない気持ちを持っている。
それぞれの人生が狂っていく様が、映画と言う虚像の世界で描かれながらもありそうなこととして感じられる。

そもそもの発端が、甥の辰男が市子に本を届けに来た時にサキと出会ったことにある。
僕たちが生きている日常が本当にふとしたはずみで壊れていく恐さが描かれていく。
辰男の仕出かした事件で市子が巻き添えを喰らってしまうのは大いにあることで理解の範疇だ。
このドラマがドラマとして成り立っているのは、事実を知った市子が被害者宅に出入りしていて、犯人と市子の関係を家族に打ち明けようとした所、基子に口止めされてそれに従ってしまうことにある。
市子には世間や基子を除く大石家の人々に犯人の伯母と言う事実を知られたくないという引け目がある。
基子にはその事で市子と離れることを恐れる気持ちが湧く。
二人の屈折した感情を表すのが動物園のシーンだろう。
基子は自分よりも戸塚を選んだ市子に対して思いがけない行動に出る。
嫉妬からくる狂気じみた行動であるが、それに対して市子も復讐に燃える。
この時の市子はリサに戻っているのかもしれない。
市子は基子の恋人である米田をターゲットにするが、笑うしかない結末である。
辰男との関係を暴露された市子はマスコミに追いかけまわされる。
小さなミスが思わぬところで拡散され、情報の洪水が起きてしまうのが現代社会だ。
ネット社会もそんな世の中を後押ししていて、決して美しい世の中ではない。
この映画はそんな現代の社会に対するアンチテーゼにもなっている。
逆光のスポットによって表情が読み取れない市子のアップや、公園での基子との幻想に倒れる市子の姿、明るく振舞いながらも一瞬の内に暗い表情を浮かべるサキなど、印象深いシーンが随所にあって、その映像によっても感性をくすぐられる作品だ。
市川実日子も良かったが、筒井真理子が抜群の存在感を見せている。