おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

乱れ雲

2021-12-05 07:36:02 | 映画
「乱れ雲」 1967年 日本


監督 成瀬巳喜男
出演 加山雄三 司葉子 草笛光子 森光子
   浜美枝 加東大介 土屋嘉男 藤木悠
   中丸忠雄 中村伸郎 村上冬樹
   清水元 十朱久雄 浦辺粂子

ストーリー
江田宏と由美子は幸福の絶頂にいた。
江田は通産省に勤めていて米国派遣の辞令を受け、妻の由美子は妊娠していることを知ったばかりだったが、江田が交通事故で死んだのは二人が祝杯をあげてから間もなくのことだった。
告別式の日、江田を轢いた三島史郎が現われ、由美子は史郎に激しい憎悪を感じた。
史郎の起した交通事故は不可抗力で、彼は無罪になったのだが、彼は勤め先の貿易会社の死命を制する通産省の役人を殺したため青森へとばされ、常務の娘との婚約も破棄された。
史郎は毎月一万五千円を十年間由美子に支払うと約束したが、史郎にとって少しも義務のないこの契約は、由美子の姉文子が行なった。
毎月決って送られてくるその金は、由美子にはつらい思いにつながって暗い気持ちにさせられた。
彼女は夫の両親から籍を抜かれ、その上、胎内の子も捨てねばならなかったのだ。
やがて、勤めに出た彼女は、身を寄せていた文子の家で、彼女の美貌に義兄の目が光るのを感じると、義姉の勝子がとりしきっている十和田湖畔の実家に帰った。
青森で史郎を訪れた由美子は文子がとり決めた契約を破棄した。
彼女は事件のすべてを忘れようと思ってのことだが二人は何度か顔を合わせた。
いつか二人はお互いに愛を覚えるようになったが、由美子は史郎に自分の前から去ってくれと頼んだ。
ある日、史郎が西パキスタンへ転勤を命ぜられ、二人は別れの一日を湖畔で過ごした。
由美子は幾度か史郎の激情に押し流されそうになった。


寸評
交通事故を起こした加害者と、死亡した被害者の妻とのラブロマンスとなればメロドラマとしては絶好の設定で、この後も何度かドラマ化されたのは山田信夫のオリジナル脚本がいいからだろう。
司葉子はともかくとして、さして演技力があるとは思えない加山雄三が精一杯頑張っているのが評価の第一。
表現力にはいささか問題もあると思うが、それでも精一杯頑張っているのは感じ取れる。

三島は常務の娘・淳子と恋愛関係にあったようだが、事故が原因で淳子は去っていく。
父に言われたわけではないと言うが、やはり前途に暗雲が漂い始めた三島を見限ったのだろうか?
その辺りはもっと冷酷に描いても良かったのかもしれない。
淳子との関係は色添えの設定であり、あれ以上詳しく描く必要がなかったのかもしれないが、別れが少しばかり唐突すぎるように思えた。
僕には違和感がもう一箇所所あって、喫茶店で由美子と再会した時の三島のなれなれしく思える態度がそうだった。ちょっと罪悪感が少なすぎないか?
由美子の出産シーンは堕胎していたんだけど、その悲しみの様なものがちょっと描き切れていなかった。

三島は裁判で無罪となるが、法律とは別に罪の償いとして慰謝料を送り続ける。
未亡人となった由美子は、その行為を通じて事故の件がいつまでも忘れられないことに苦悩する。
どちらも事故が引き起こした過去に苦しんでいるのだが、どうも加害者側の苦しみが伝わってこなかったなあ。
根は本当にいい奴で、正義感と責任感に富んだ三島は、加山雄三のもっている天性の性格と一致するので適役だとは思うのだが、いかんせん加山のそのアッケラカンとした雰囲気は、事故の結果に苦悩し苦しみ続けている三島の姿より勝ってしまっているような気がする。
もっとも、由美子はそういった三島の明るい姿に引かれていったのかもしれないのだが。

何か欠点ばかりを指摘することになってしまったが、成瀬巳喜男の演出は細やかではあった。
由美子の義姉・勝子(森光子)を登場させ、由美子と正反対のモラルを演じさせている。同じく未亡人の勝子は不倫していて、妻子ある男を積極的に受け入れている女だ。
あるいは不倫ぽい泊り客を一瞬登場させたりして、由美子の心の動きを補完していたように思う。
十和田湖での心中事件は、一途な愛の象徴としての出来事で、由美子を後押しする描き方としてはストレートすぎずにいい演出だったと思う。
もう少しドラマチックに描けたとは思うが、交通事故を目撃し、瀕死の被害者にすがる妻の姿を見るにあたって、二人が過去の出来事を思い出して別れざるを得なくなるのは、別れる原因としては抜群の描き方だ。
でも救急車に乗せられる被害者はなぜ旅館から出てきたのかなあ?
それともあの事故現場と、運び出された頭を包帯で巻かれた男性は関係なかったのに、二人は結びつけて見つめたのだろうか? ちょっと疑問。

結局これが名匠と言われた成瀬巳喜男の遺作となるのだが、何と言っても成瀬には「浮雲」という大傑作があって、どうしてもそれと比較してしまい値引き感を持ってしまう。
大傑作を撮ってしまった監督の宿命だね。