おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ミニヴァー夫人

2021-12-11 11:06:07 | 映画
「ミニヴァー夫人」 1942年 アメリカ


監督 ウィリアム・ワイラー
出演 グリア・ガーソン
   ウォルター・ピジョン
   テレサ・ライト
   デイム・メイ・ウィッティ
   レジナルド・オーウェン
   ヘンリー・トラヴァース

ストーリー
ロンドンから程遠くないイングランドの小さい町ベルハムに、ミニヴァー夫妻は幸福な家庭をもっていた。
ナチが始めた戦争にいつ英国も加わらねばならぬか分からないが、ベルハムは平和で、駅長バラードもバラの花を展覧会に出そうと丹精している。
ミニヴァー夫人がロンドンで帽子を買って帰る時、駅長がバラの花に『ミニヴァー夫人』と命名させてくれと頼んだところ、ミニヴァー夫人は快く承諾する。
駅長がバラを出品すると発表したために町は騒ぎ立った。
というのは毎年1等賞は町の名士で資産家の老夫人レイディ・ベルドンが取る習慣だからである。
翌日、老夫人の孫娘キャロルはミニヴァー夫人を訪れ、祖母を失望させないで頂きたいと頼み込む。
大学から帰宅していたミニヴァー家の長男ヴィンは、下層勤労者階級の生活権について大学研究している折でもあり、ベルドン夫人の封建性を避難してキャロルと議論したのであるが、それが縁で2人は心をひかれ合う。
ダンス会のあった翌日、教会では牧師が英国の参戦と国民の覚悟について説教した。
ヴィンは空軍に志願を決意してキャロルにその事を告げ、愛を告白する。
ベルドン老夫人は孫が中流の平民の息子と親しくするのを好まなかったが、戦争は老夫人の心持ちを変えたとみえ、キャロルとヴィンの婚約が発表される。
夫のクレムがダンケルクの危機の報を聞き、町の人々と共にモーター・ボートでテームズ河を下り、英兵救出に力添えをしていた時、不時着して傷ついたナチの飛行士がミニヴァー家の台所に逃げ込んでいた。


寸評
見終ると、これは完全な戦意高揚映画であるとわかるが、中身は上流家庭とは言えないまでも裕福な家庭に起こる出来事をほのぼのと描いた風俗映画だ。
市井の人々の生活描写は味があり、戦争突入直前だというのに彼等はいたってのどかである。
ロンドンの周辺都市と思われるベルハムの平和な人々の暮らしを描きながら、作品を戦意昂揚にもってくのにはムリがあった言わざるを得ない。
描き方として、最初からもっと参戦への不安が盛り込まれていれば、後半の展開から受ける印象も違ったものになっていただろうと思う。
バラをめぐる話で、誰からも好かれる夫人の人柄を表現していた。
町一番の美人の奥さんと言うことだが、性格もおおらかでユーモアもあり賢夫人を絵にかいたような人物で、それをバラの花が象徴していた。
駅長がミニヴァー夫人に掛ける言葉で、彼女の慕われ方がわかる。

ミニヴァー夫妻の滑稽ながらも信頼し合っている様子や、ヴィンとキャロルの恋の進展などはホームドラマの典型と言えるような演出で、イヤミなくホッコリした気分で眺められる。
中流と言うには恵まれた家庭の様子を、平凡な一庶民である僕は半ば羨望を持ちながら鑑賞した。
この地方を収めていた貴族の末裔と思われるベルドン夫人の孫娘キャロルと、庶民であるヴィンの家柄の違いによる恋の展開もさしたる障害なく進んでいくので、みていて重苦しくならない。
封建的なベルドン夫人も結構話せるおばあちゃんなので観客を安心させる。

しかし、キャロルと恋仲になったヴィンの空軍入隊が突然やってくるのは前触れもなく唐突すぎたと思う。
夫の自前ボートでの民間防衛なども降ってわいたようなエピソードだ。
クレムがダンケルクからの撤退作戦に駆り出されるのだが、それが突然すぎる印象で描かれている。
少ない数で出発したボートがやがて数を増し、大小入り乱れて河口を目指すシーンは戦意高揚映画らしい。
一方で撃墜されたドイツのパイロットを捜索している話は前半で語られているが、夫人が逃亡ドイツ兵を捕まえるくだりは急転直下でご都合主義だ。
このように話を無理やり戦意高揚にもっていっているようなきらいがあるのは、話の内容からしてもったいないような気がする。
ただ、ヴィンを飛行場に送った帰りに敵機の機銃掃射に遭い、キャロルが死ぬあたりはワイラー演出のうまさが光っていた。
もっとも、最後のお説教は、今となっては嘘臭い。
それでも時代を反映した作品として見る分には、リラックスして鑑賞できる作品になっていてワイラー作品の小品として楽しめる出来栄えだ。

長男役のリチャード・ネイとグリア・ガーソンがこの共演で結婚したという後日談がある。
もっとも、4年後に離婚している。