おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

深夜の告白

2021-04-12 11:11:22 | 映画
「深夜の告白」 1944年 アメリカ


監督 ビリー・ワイルダー
出演 フレッド・マクマレイ
   バーバラ・スタンウィック
   エドワード・G・ロビンソン
   ポーター・ホール
   ジーン・ヘザー
   トム・パワーズ

ストーリー
深夜のロサンゼルス。フル・スピードで走ってきた車がパシフィック保険会社の前で止まり、肩をピストルで射ぬかれた勧誘員ウォルター・ネフがよろめきながら下りてきた。
彼は会社の自室に入り、テープレコーダーに向かって上役バートン・キースに宛てた口述を始めた――。
数カ月前、ウォルターは会社に自動車保険をかけているディートリチスンを訪ねたが不在で、夫人のフィリスに会った。
翌日フィリスはウォルターのアパートを訪れ、夫を殺してそれを事故死と見せ、倍額保険を取ろうともちかけた。
足を怪我したディートリチスンは、近く開かれるスタンフォード大学の同窓会へ汽車で行く予定だった。
最初は当惑するウォルターも、フィリスの肉体の魅力に負けて、ついに計画を手伝う破目になった。
保険に入ろうとしないディートリチスンからサインを詐取して保険証書を作った2人は、犯行当夜のアリバイを作って実行に入る。
ディートリチスンと同じ服装をしたウォルターは、フィリスの運転する自動車に忍び込み、車に乗った彼を撲殺。
代わって松葉杖をつきながら汽車に乗った。
展望車に乗り合わせた男がいなくなったすきをついて汽車から飛び降り、自動車で先回りしていたフィリスとディートリチスンの死体を線路に運び、松葉杖を置いて立ち去った。
計画は的中し、ディートリチスンは過失死と認められた。
だがただひとり、キースが死因を怪しんで調査を始めた。
そしてディートリチスンの娘ローラの恋人ニノに嫌疑がかかり、ローラも行動を監視され、ウォルターはディートリチスン家に近づけなくなった。
ひそかに連絡をとってフィリスと会っているうちに、ウォルターは次第に不安を感じ、ある夜いらいらした気持ちでフィリスと会ったとき、ついに2人の間に争いが起こりフィリスはウォルターに拳銃を発射した。


寸評
冒頭から犯人の告白という形をとっているために、犯人探しであるとかアリバイの危うさや、犯行が失敗に終わるかもしれないというスリリングさはないが、告白形式によって余計な説明が省かれ犯行の背景が小気味よいぐらいにテンポよく描かれていく。
不倫関係にある者が、相手の夫や妻を殺害しようとする話は時折見かけるものだが、この作品は制作年度を思うとそれらの先駆者的なものだろう。
同類の作品の多くでは、妻が夫から冷たい仕打ちを受けている様子が詳しく描かれたり、犯行シーンを詳しく描写したリ、あるいはアリバイ作りが破たんするかもしれないと思われるハラハラする場面が用意されていたりする。
ここではそのようなことがきわめて簡潔に描かれているのだが、それでもサスペンスとしての緊張感が存在しているというのは、脚本の妙とビリー・ワイルダーによる演出の冴えによるものだろう。
ネフとフィリスは簡単に関係を結んでしまう。
フィリスには殺人の思いがあり、ネフはフィリスの魅力に参ってしまったからなのだが、二人の利害が一致する描き方はダイジェスト的で深くはないのに、全体の中で納得してしまえる描き方をしている。
ディートリチスンは警察により事故死と判断されるが、検死すれば落下による死亡なのか、撲殺による死亡なのかは判るはずだし、現場検証すれば落下に対する疑問も湧くはずだと思うが現場検証のシーンはない。
よくよく考えればそのような疑問も湧くのだが、テンポの良い描き方は考える暇を与えない。
そのあたりがビリー・ワイルダーの非凡なところだろう。

この映画の中ではフィリスが悪人の代表者の役割を負っている。
最初は悪事を諭していたネフを色香によって計画に引きずり込む。
フィリスが夫から無視され関係も冷え込んでいる可愛そうな妻を演じていることも判明する。
いざとなれば、ネフよりも度胸が据わっていて堂々とした態度を撮り続ける事が出来る女である。
フィリスの バーバラ・スタンウィックはなかなかの好演であり、この映画を支えている。
事故死扱いされているが、刑事の役割を担っているのが エドワード・G・ロビンソンのキースだ。
彼は殺人を疑っておらず事故死から自殺説に考えを変える描き方はひねりをきかせている。
保険申請を審査している彼には秘密兵器があり、怪しい案件には胸が痛み出す面白いキャラクターだ。
結婚を決意した相手にもその秘密兵器が働いたことなどが面白おかしく語られて物語を補佐している。
こういう細かい演出が映画の格調を高めていくのだと思う。

告白という結論があらかじめ分かっている描き方ながら、それでも「えっ!」と思うようなエピソードが挿入されて、観客に新鮮な感情を湧きたてる脚本、演出の工夫が見られる。
挿入されるタイミングも心得たものとなっている。
ただよく分からないのがローラが思いを寄せるニノの立場だ。
彼はディートリチスンの殺害にかかわっていたのかどうかの結論は明示されていない。
ネフの助言によりニノがローラの元へ向かうことや、フィリスがいつの間にかネフを愛し始めていたことなどによってフィリスにも救いの手を差し伸べているようなところがあり、少し甘さを感じる終わり方は時代を感じさせた。
告白の録音機にも時代を感じるが、面白い作品は時代を超えてもやはり面白い。