ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

ヒロシマとG7サミット

2023-02-21 14:22:44 | 日記
漫画家の松本零士さんが亡くなった。85歳。「宇宙戦艦ヤマト」「銀河鉄道999」などの作品で知られる。ご冥福を祈りたい。

漫画つながりで、きょうはひとつ「はだしのゲン」の話題を取りあげることにしよう。作者である中沢啓治氏の実体験に基づき、ヒロシマ原爆の悲惨な実態を描いたこの作品が、広島市立の小学校で使われる平和教育の教材から外されることになった。このことが物議を醸している。市教委の言い分は、この作品の一部を使うのでは「被爆の実相に迫りにくい」からだという。

恥ずかしながら、私はこの漫画作品を読んでいない。だからこの作品が「ヒロシマに原爆を落としたのは、アメリカである」という史実にきちんと言及しているかどうかを、私は知らない。知らないが、そのことにはとても興味がある。もしこの作品がアメリカの罪に言及しているとしたら、この作品を教材から外した市教委の判断には「アメリカ隠し」の意図が働いていたと推測できるからである。

そんな事実を忘れたかのように、アメリカの属国に成り下がった觀のある日本。その日本が議長国となって、来る5月にG7広島サミットが開かれる。広島はホスト国の首相・キシダ君のお膝元だから、「原爆を落としたのは、親分のアメリカ様だ」という、人聞きの悪い史実は、消し去りたいのだろう。「隠し通せば、無かったも同然」という浅はかな判断が、キシダ一派の腐った脳ミソの底によどんでいる。ヒロシマの市教委は、そんな官邸の意向を「忖度」したに違いない。

しかし逆に、漫画作品「はだしのゲン」にアメリカへの言及がなかったとしたら、どうなのか。この作品は被爆の酷たらしい様相をひたすら描いていることになる。そこには(広島市教委の指摘に反して)リアルな「被爆の実相」が、目を背けたくなるほど生々しい筆致で描かれているのだろう。

描写が真に迫るほど、そこには「描かれざるもの」の不在の重さが際立ってくる。喧騒が沈黙の重さを際立たせるように、視覚に訴えてくる被爆の陰惨な様相が、「名指されないアメリカ」の罪の重さを際立たせる。そのことを、ヒロシマ市教委の面々は薄々見通していた。G7の首脳たちも、その〈沈黙〉が何を意味するかを、よく知っている。よく知っているから、そのことについてはだれも何も言い出さないのである。

沈黙が続くと、沈黙はなおさら重いものになり、沈黙の中心に位置する「言及されない当事者」は、(ホスト・キシダの意図に反して)その沈黙の重さに堪えきれなくなる恐れがある。バイデン米大統領はそのときのために、アポロジーの声明を用意しているかもしれない。

来る5月のG7サミットで、原爆問題がどう処理されるのか、私はとても興味がある。
コメント
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