マイケル・サンデル.。アメリカの政治哲学者、倫理学者。ハーバード大学教授。彼の『ハーバード白熱教室』はNHKEテレで放映され、そこそこ人気を博したので、ご存知の読者も少なくないことだろう。
彼は倫理的ディレンマのケースを取り上げ、我々に熟考を促すことを得意とするが、このサンデルが飛びつきそうな格好のニュースに出会った。
「文部科学省が全国の公立・学校図書館向けに出した1通の依頼文が波紋を呼んでいる。『拉致問題の関連本の充実』を求めるもので、内閣官房が文科省に依頼した。特定のテーマで国が図書館にこうした文書を送るのは初めてという。これに対し、公益社団法人・日本図書館協会は10月、『図書館の自由に関する宣言を脅かすものであると懸念する』などとする意見書を文科省に出した。
『北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について』
文科省が8月末、全国の公立・学校図書館あてに送った『事務連絡』だ。文書は、拉致問題の解決には「世論の一層の喚起が不可欠」だと指摘。12月10~16日の啓発週間に向けて関連本を充実させ、テーマ展示をするなどして、『児童生徒や住民が手にとりやすい環境の整備』に協力するよう求めている。」
(朝日新聞DIGITAL11月13日配信)
さて、どうなのだろう。北朝鮮が横田めぐみさん他16名を拉致した忌まわしい事件は、正義にもとり、許しがたいことだとあなたが考えているとしよう。国民の多くが拉致問題の関連本を読んで、この問題に対する関心と理解を深め、北朝鮮に対して日本の国民世論が「この問題を一刻も早く解決せよ!」と強いプレッシャーをかけることが、この問題の早期解決につながるとあなたは考えている。
正義感に燃えるあなたは、全国の公立・学校図書館が拉致問題の関連本を充実させることを望むだろう。あなたが文科省のキャリア官僚だったら、あなたは全国の公立図書館や学校図書館に対して、「拉致関連本を充実するようにお願いしたい」と依頼する通知文書を送らなかっただろうか。
あなたの数少ない友人に、図書館の司書になった同級生がいたとしよう。大学の空手部で同じ釜の飯を食った熱血漢で、合宿の夜などによく世直しの夢を語り合った。彼はそのうち左翼セクトのアジトに出入りするようになり、「国家権力は恐ろしい」とか、「大学の自治と学問の自由は守らなければ」などと、左翼セクトの言葉を口にするようになった。
彼が大学を中退し、図書館の司書になったことを知ったのは、ごく最近のことである。今年の正月に届いた彼からの年賀状には、「図書館は自由であるべきだと考えています。国家権力の手先になってはいけない」と書かれていた。
あなたには彼の言いたいことがよくわかった。彼はあなたが文科省のキャリア官僚になったことを知っており、あなたの名前で勤務先に送りつけた依頼文書を、国家権力からのプレッシャーとして受け止めたのだ。
そんな積りはない、と、あなたは言いたくなるだろう。私は国家権力の手先ではないし、図書館にプレッシャーを掛けようとしたわけでもない。ただ、正義にもとる北朝鮮の卑劣なやり方に対して、この問題を早期に解決するよう迫りたいとの思いから、そのための有効な手立ての一環として、図書館が拉致問題関連本を多く揃えれば良いと考え、その考えを実行に移したまでなのだ。自分の行為が国家権力からのプレッシャーと受けとられないように、私は「依頼」の形をとり、図書館に「お願い」をしたのだが、その真意が彼には解ってもらえなかったようだ。
さてあなたは、この文科省キャリア官僚の思い入れと、図書館司書の思い入れと、そのどちらに共感を覚えるだろうか。熟考の上、このブログのコメント欄にご意見をお寄せいただきたい。
彼は倫理的ディレンマのケースを取り上げ、我々に熟考を促すことを得意とするが、このサンデルが飛びつきそうな格好のニュースに出会った。
「文部科学省が全国の公立・学校図書館向けに出した1通の依頼文が波紋を呼んでいる。『拉致問題の関連本の充実』を求めるもので、内閣官房が文科省に依頼した。特定のテーマで国が図書館にこうした文書を送るのは初めてという。これに対し、公益社団法人・日本図書館協会は10月、『図書館の自由に関する宣言を脅かすものであると懸念する』などとする意見書を文科省に出した。
『北朝鮮当局による拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について』
文科省が8月末、全国の公立・学校図書館あてに送った『事務連絡』だ。文書は、拉致問題の解決には「世論の一層の喚起が不可欠」だと指摘。12月10~16日の啓発週間に向けて関連本を充実させ、テーマ展示をするなどして、『児童生徒や住民が手にとりやすい環境の整備』に協力するよう求めている。」
(朝日新聞DIGITAL11月13日配信)
さて、どうなのだろう。北朝鮮が横田めぐみさん他16名を拉致した忌まわしい事件は、正義にもとり、許しがたいことだとあなたが考えているとしよう。国民の多くが拉致問題の関連本を読んで、この問題に対する関心と理解を深め、北朝鮮に対して日本の国民世論が「この問題を一刻も早く解決せよ!」と強いプレッシャーをかけることが、この問題の早期解決につながるとあなたは考えている。
正義感に燃えるあなたは、全国の公立・学校図書館が拉致問題の関連本を充実させることを望むだろう。あなたが文科省のキャリア官僚だったら、あなたは全国の公立図書館や学校図書館に対して、「拉致関連本を充実するようにお願いしたい」と依頼する通知文書を送らなかっただろうか。
あなたの数少ない友人に、図書館の司書になった同級生がいたとしよう。大学の空手部で同じ釜の飯を食った熱血漢で、合宿の夜などによく世直しの夢を語り合った。彼はそのうち左翼セクトのアジトに出入りするようになり、「国家権力は恐ろしい」とか、「大学の自治と学問の自由は守らなければ」などと、左翼セクトの言葉を口にするようになった。
彼が大学を中退し、図書館の司書になったことを知ったのは、ごく最近のことである。今年の正月に届いた彼からの年賀状には、「図書館は自由であるべきだと考えています。国家権力の手先になってはいけない」と書かれていた。
あなたには彼の言いたいことがよくわかった。彼はあなたが文科省のキャリア官僚になったことを知っており、あなたの名前で勤務先に送りつけた依頼文書を、国家権力からのプレッシャーとして受け止めたのだ。
そんな積りはない、と、あなたは言いたくなるだろう。私は国家権力の手先ではないし、図書館にプレッシャーを掛けようとしたわけでもない。ただ、正義にもとる北朝鮮の卑劣なやり方に対して、この問題を早期に解決するよう迫りたいとの思いから、そのための有効な手立ての一環として、図書館が拉致問題関連本を多く揃えれば良いと考え、その考えを実行に移したまでなのだ。自分の行為が国家権力からのプレッシャーと受けとられないように、私は「依頼」の形をとり、図書館に「お願い」をしたのだが、その真意が彼には解ってもらえなかったようだ。
さてあなたは、この文科省キャリア官僚の思い入れと、図書館司書の思い入れと、そのどちらに共感を覚えるだろうか。熟考の上、このブログのコメント欄にご意見をお寄せいただきたい。