ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

新潟 その声が聞こえない耳は

2016-10-19 15:05:26 | 日記
新潟県知事選の投票結果が出た。原発の再稼働に慎重な姿勢を示
す米山氏が当選した。再稼働を進めたい与党にとっては、これは
痛手となる選挙結果だろう。この選挙結果を受けて社説を書くと
なれば、よほどの与党びいきでない限り、次のような論旨になる
はずだ。

この結果は、「東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に対する県民の反
対の強さ」を示すものである。「安倍政権は選挙で示された民意
を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。再稼働を既成事実化して
はならない」云々。

これは東京新聞の社説《「新潟」野党勝利 再稼働反対の意思示
す》(10月17日付)の一節であるが、朝日新聞や毎日新聞のよ
うに政府に批判的、もしくは中立的な新聞の、その社説の論旨も
これと似たり寄ったりである。くどくなるので、これらについて
は特に取り上げない。ごく当たり前の、自然なレスポンスだとい
うこともある。

それに比べて見ものというか、特筆に値するのは、政府べったり
の、あるいは政府寄りの新聞が、この選挙結果を受けてどういう
論旨を示すかである。

たとえば読売新聞《新潟県知事選 柏崎再稼働は冷静に議論せよ
》(10月17日付)は、次のように書いている。
「再稼働問題が知事選の最大の争点となり、人口減対策や地域活
性化などの政策論争が乏しかったのは残念だ。」
つまり読売は、人口減対策や地域活性化などが知事選の争点にな
れば良かった。そうなれば、自公が推薦した候補者が当選したは
ずだ、と言いたいのである。ここには「人口減対策や地域活性化
のためには、原発再稼働が必要だ」という、この新聞なりの主張
が顔をのぞかせている。

読売は、反対の選挙結果が出たあとになって、「人口減対策や地
域活性化が選挙の争点になり、県民の目がこれらの問題のほうを
向けば、選挙結果はおのずと原発再稼働を支持するものになった
はずだ」と、負け惜しみのようなことを言おうとしている。たし
かに人口減対策や地域活性化は、なおざりにできない地方の問題
ではあるだろう。しかし県民からすれば、そのようなことはあく
までも二の次の問題であって、何よりもまず大事なのは、原発が
再稼働された場合の、近隣地域の安全性を確保することなのであ
る。読売には肝心のそこのところが見えていないのだ。
読売はこうも書いている。
「専門的知見を踏まえ、再稼働の是非を判断する権限は原子力規
制委にある。(新潟県知事に当選した)米山氏は、その見解を尊
重すべきだろう。」
こう書くとき、読売は選挙結果に示された民意を(意図的にか)
読み違えている。「原子力規制委の(原発再稼働をめぐる)判断
は信用できない」というのが、あくまでも今回の選挙結果に示さ
れた民意なのだから。

産経新聞《新潟新知事は「脱原発」脱却を》(10月17日付)も、
選挙結果に示された民意を読み違えている、――いや、踏みにじっ
ている。産経はこう書いている。
「県民の選択を尊重するのは当然だが、米山氏には国家や国際レ
ベルの視野に照らしても齟齬(そご)を来すことのない賢明な県
政のかじ取りを期待する。」

これではまるで、「選挙結果など(表向きには尊重するふりをし
つつも、実際には)無視して、原発を再稼働すべし」と言ってい
るようなものではないか。それなら訊くが、この選挙はいったい
何だったのか。何を問う選挙だったのか。産経は自らの言説が民
主主義を踏みにじっていることに、気づいていないのだろうか。
選挙結果を無視し、民意を無視し、民主主義を否定する産経が、
次のように述べるのは、笑止千万だと言わなければならない。
「投票の相当数が対立候補の森氏に投じられたことも忘れないで
ほしい。
地球環境や国の将来、県の財政基盤の強化に、原子力発電が必要
だと考える多くの人がいる。」

いやいや、産経はむしろこう書くべきなのだ。
「投票の相当数が森氏以上に、対立候補の米山氏に投じられたこ
とも忘れないでほしい。
地球環境や将来世代のために、原子力発電が不要だと考える多く
の人がいる。」


それにしても、自社の社説がこんないい加減な論説をかかげるこ
とに、「これではマズい」と危機感をいだく読売や産経の記者は
いないのだろうか。「王様の耳はロバの耳だ」と気づき、このこ
とに心を痛める(床屋のような)記者はいないのだろうか。そう
いう記者がいたとすれば、彼は地面に穴を掘って「王様の耳はロ
バの耳だ」と叫びたくなるだろう。しがないサラリーマンの彼は、
地面に穴を掘る代わりに、どこか場末の居酒屋で飲んだくれ、悪
態をつきながら、酔いつぶれていることだろう。
「このロバの耳め!なんで聞こえないんだ!」
コメント
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