ドゥテルテ大統領の言動は、きわめて分かりにくい。我々からす
れば支離滅裂にも見え、ほとんど理解不能だが、この分かりにく
さが、――支離滅裂ぶりが、破天荒なこの人物の魅力になってい
ることも否定できない。きょうはこの分かりにくさの本質に、少
しでも近づいてみたい。
ネットで公になっている、最近のドゥテルテ大統領の言動を整理
してみよう。以下の記事には、彼の言動の特徴がコンパクトにま
とめられている。
「米国政府はここ数カ月、ドゥテルテ大統領の反米的な言動に目
をつぶってきた。だが同大統領は20日、さらに一歩踏み込んだ。
長年の同盟国である米国と「決別」し、中国と再び協力すると表
明したのだ。さらには、ロシアとの協力強化をも示唆した。中国
とロシアは、米国にとって戦略的な2大ライバルである。」(ロ
イター10月23日)
彼の言動を特徴づけているのは、何よりもまず(1)非常に強い反
米意識である。反米的な言辞だけでなく、彼は最近では、米国と
の軍事同盟から「決別」する姿勢まで示し始めている。
反米意識のなせる業か、(2)彼はまた、他方で中国とロシアに接
近する姿勢を示し始めた。中国とロシアと言えば、記事にもある
ように、アメリカにとっては宿命的なライバルである。アメリカ
が危機感をあらわにするのは当然である。
ここまでは分かりやすい。きわめて分かりやすい。反米と親中・
親露はなんら矛盾することではないからだ。こうした文脈から考
えるとき、分かりにくいのは、――ほとんど理解不可能なのは、
以下の報道である。
「フィリピンのドゥテルテ大統領は24日、来日を前に首都マニラ
で共同通信など日本の一部メディアと会見し、中国を念頭に「米
国と同盟関係にあるので、他のどの国とも軍事同盟は結ばないだ
ろう」と述べた。
ドゥテルテ氏は米国と距離を置く発言を繰り返す一方で、中国
とは先週の首脳会談でも軍事協力を推進することで一致。中国と
急接近しているが、軍事同盟関係までには踏み出すことはないと
言明した形となった。」(共同通信10月25日)
この記事にもあるように、ドゥテルテ大統領は中国に接近して
も、軍事同盟関係までは踏み出さない。自らそう言明したという
のだったら、それなりに筋は通っている。彼は優柔不断で、はっ
きりした決着を避け、どっちつかずの煮え切らない態度を示して
いる、というだけの話だろう。この計算高い男は、米中の両方か
ら、「こっちにおいで」と飴玉をぶら下げられて、迷っているの
だと読み解くことも不可能ではない。
けれども、見逃せないのは、彼が「米国と同盟関係にあるので、
他のどの国とも軍事同盟は結ばないだろう」と述べていることで
ある。彼を中国、ロシアに接近させるほど、それほど彼の反米意
識が強いのだとしたら、彼はなぜ「米国以外には軍事同盟は結ば
ない」と言明したのか。
この疑問に答えるには、彼の反米意識の性格を見きわめる必要が
ありそうだ。読売新聞(10月26日付)によれば、ドゥテルテ氏
はベトナム反戦運動が盛んだった時代に学生生活を送り、フィリ
ピン共産党創設者に師事するなどして、左翼的な思想に影響を受
けたという。また、ダバオ市長時代には、爆発事件に関与した疑
いのある米国人男性が、FBI捜査官の関与の下に国外逃亡した事
件を経験し、以降、対米不信を募らせたという。
ドゥテルテ氏の反米意識は、例えてみれば、沖縄米軍基地で、ア
メリカ軍人が傍若無人にふるまう姿を見聞きし、その中で芽生え
た嫌米感情を核にして培われた根深いものなのである。ドゥテル
テ大統領が、米国との軍事同盟から「決別」すると表明したと
き、彼の脳裏には、たぶん傍若無人にふるまうこうしたアメリカ
軍人たちの記憶があったに違いない。米国との軍事同盟が、フィ
リピン人にとって侮辱ともいえるそういうふるまいを許すのな
ら、自分が大統領になった今後は、そういう歪(いびつ)な同盟
関係はとても認められない、と思ったのだ。
それでもドゥテルテ大統領は、どこまでもリアリストである。中
国に接近しても、彼はこの国に決して信頼を寄せてはいない。
フィリピンと中国との関係は、あくまでも一時的な「取引」上の
結びつきであって、情勢次第では、中国がふたたび自国に牙を剥
くこともあり得ると彼は読んでいる。彼にとって米国との軍事同
盟は、来るべきその時の、いわば保険のようなものなのではない
だろうか。
れば支離滅裂にも見え、ほとんど理解不能だが、この分かりにく
さが、――支離滅裂ぶりが、破天荒なこの人物の魅力になってい
ることも否定できない。きょうはこの分かりにくさの本質に、少
しでも近づいてみたい。
ネットで公になっている、最近のドゥテルテ大統領の言動を整理
してみよう。以下の記事には、彼の言動の特徴がコンパクトにま
とめられている。
「米国政府はここ数カ月、ドゥテルテ大統領の反米的な言動に目
をつぶってきた。だが同大統領は20日、さらに一歩踏み込んだ。
長年の同盟国である米国と「決別」し、中国と再び協力すると表
明したのだ。さらには、ロシアとの協力強化をも示唆した。中国
とロシアは、米国にとって戦略的な2大ライバルである。」(ロ
イター10月23日)
彼の言動を特徴づけているのは、何よりもまず(1)非常に強い反
米意識である。反米的な言辞だけでなく、彼は最近では、米国と
の軍事同盟から「決別」する姿勢まで示し始めている。
反米意識のなせる業か、(2)彼はまた、他方で中国とロシアに接
近する姿勢を示し始めた。中国とロシアと言えば、記事にもある
ように、アメリカにとっては宿命的なライバルである。アメリカ
が危機感をあらわにするのは当然である。
ここまでは分かりやすい。きわめて分かりやすい。反米と親中・
親露はなんら矛盾することではないからだ。こうした文脈から考
えるとき、分かりにくいのは、――ほとんど理解不可能なのは、
以下の報道である。
「フィリピンのドゥテルテ大統領は24日、来日を前に首都マニラ
で共同通信など日本の一部メディアと会見し、中国を念頭に「米
国と同盟関係にあるので、他のどの国とも軍事同盟は結ばないだ
ろう」と述べた。
ドゥテルテ氏は米国と距離を置く発言を繰り返す一方で、中国
とは先週の首脳会談でも軍事協力を推進することで一致。中国と
急接近しているが、軍事同盟関係までには踏み出すことはないと
言明した形となった。」(共同通信10月25日)
この記事にもあるように、ドゥテルテ大統領は中国に接近して
も、軍事同盟関係までは踏み出さない。自らそう言明したという
のだったら、それなりに筋は通っている。彼は優柔不断で、はっ
きりした決着を避け、どっちつかずの煮え切らない態度を示して
いる、というだけの話だろう。この計算高い男は、米中の両方か
ら、「こっちにおいで」と飴玉をぶら下げられて、迷っているの
だと読み解くことも不可能ではない。
けれども、見逃せないのは、彼が「米国と同盟関係にあるので、
他のどの国とも軍事同盟は結ばないだろう」と述べていることで
ある。彼を中国、ロシアに接近させるほど、それほど彼の反米意
識が強いのだとしたら、彼はなぜ「米国以外には軍事同盟は結ば
ない」と言明したのか。
この疑問に答えるには、彼の反米意識の性格を見きわめる必要が
ありそうだ。読売新聞(10月26日付)によれば、ドゥテルテ氏
はベトナム反戦運動が盛んだった時代に学生生活を送り、フィリ
ピン共産党創設者に師事するなどして、左翼的な思想に影響を受
けたという。また、ダバオ市長時代には、爆発事件に関与した疑
いのある米国人男性が、FBI捜査官の関与の下に国外逃亡した事
件を経験し、以降、対米不信を募らせたという。
ドゥテルテ氏の反米意識は、例えてみれば、沖縄米軍基地で、ア
メリカ軍人が傍若無人にふるまう姿を見聞きし、その中で芽生え
た嫌米感情を核にして培われた根深いものなのである。ドゥテル
テ大統領が、米国との軍事同盟から「決別」すると表明したと
き、彼の脳裏には、たぶん傍若無人にふるまうこうしたアメリカ
軍人たちの記憶があったに違いない。米国との軍事同盟が、フィ
リピン人にとって侮辱ともいえるそういうふるまいを許すのな
ら、自分が大統領になった今後は、そういう歪(いびつ)な同盟
関係はとても認められない、と思ったのだ。
それでもドゥテルテ大統領は、どこまでもリアリストである。中
国に接近しても、彼はこの国に決して信頼を寄せてはいない。
フィリピンと中国との関係は、あくまでも一時的な「取引」上の
結びつきであって、情勢次第では、中国がふたたび自国に牙を剥
くこともあり得ると彼は読んでいる。彼にとって米国との軍事同
盟は、来るべきその時の、いわば保険のようなものなのではない
だろうか。