ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

ドゥテルテ 多数者と人権

2016-10-04 12:57:37 | 日記
フィリピンのドゥテルテ大統領が、己の麻薬犯罪対策に関連し
て、自分をヒトラーになぞらえる発言をした。この発言につい
て、私はきのうの本ブログでこっぴどく批判したが、この暴言王
がその後、この発言について謝罪したというから、なんとも痛快
ではないか。この強気の暴言王は、自分の発言のどの点について
非を認め、謝罪したのだろうか。
まずはネットの記事から。

「フィリピンのドゥテルテ大統領は、自らをナチス・ドイツの独
裁者ヒトラーに例えた発言について「言い過ぎた」と述べ、謝罪
した。
 ドゥテルテ大統領は先月、「ヒトラーは300万人のユダヤ人
を殺害した。300万人の麻薬中毒者を喜んで殺してやる」と述
べていた。この発言についてドゥテルテ大統領は2日、「虐殺さ
れたユダヤ人をおとしめるつもりは全くなかった」と釈明、謝罪
した。
 ドゥテルテ大統領「ユダヤ人に対して心からおわびする。言葉
が強すぎた」。
 発言をめぐっては、アメリカのユダヤ人団体が「麻薬中毒者や
密売人をユダヤ人になぞらえるのは不適切だ」と批判するなど、
波紋が広がっていた」(日テレNEWS24)。
 
この記事を読む限りでは、ドゥテルテ大統領は「ユダヤ人を麻薬
中毒者や密売人になぞらえたこと」を不適切と認め、この部分を
撤回すると言っている。たしかに、自分たちの先祖がナチスに
よって多数虐殺された過去を持つユダヤ人が、今になって(殺さ
れて然るべき)犯罪者扱いされたのでは、堪らないだろう。比の
暴言王にも、この彼らの気持ちは通じたようだ。

それは良いとしよう。見逃せないのは、ドゥテルテ大統領が、比
の麻薬中毒者や密売人の大量殺害を、依然として適切なことと認
め、これを撤回していないことである。
大統領報道官の以下の発言が、今の大統領の心境をよく表してい
る。
「発言がゆがめられている。大統領はヒトラーと呼ばれたいので
はない。麻薬密売人300万人を虐殺したいと言ったのだ。次の
世代やこの国を救うために」
大統領報道官は、フィリピン国民を念頭において、こう釈明した
のである。

大統領が国連機関やアメリカなどからの強い批判にもかかわら
ず、己の麻薬犯罪政策を改めようとしないのは、この強行政策が
多数のフィリピン国民から圧倒的な支持を受けているためである。
80パーセントを越えるフィリピン国民の圧倒的多数は、「治安を
回復するために、麻薬犯罪者の撲滅を!」と望んでおり、大統領
は、自分こそがこうした多数者の意志を体現していると考えてい
るのである。

民主主義が人権思想を凌駕したケースだと言えるが、「だからこ
れで良いのだ!皆で渡れば怖くない」とする民主主義信仰に、私
は与しない。「多数者の専制」という言葉があるが、民主主義が
陥りがちなこの危ない多数者の暴走を食い止める重要な役割を、
人権思想が果たしていることを忘れてはならない。それに、ドゥ
テルテ大統領は民主主義に乗っかっているように見えるが、彼が
乗っかっているのは、デモクラシーというよりは、(衆愚政治と
は言わないまでも)ポピュリズムだと言ったほうが正鵠を得てい
るのではないか。
こう書いたからと言って、誤解しないでいただきたい。べつに私
は、フィリピンの多数者の考え方は愚かだと言おうとしているわ
けではない。人権思想も万能ではなく、いろいろ問題を抱えてい
ると私は考えている。

いずれにしてもドゥテルテ大統領は、そういう重要な諸問題につ
いて考える機会を我々に与えてくれる、格好の話題提供者ではあ
るようだ。
コメント
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