ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

「法の支配」とは何か

2016-10-29 11:57:24 | 日記
ドゥテルテ大統領は10月25日に訪日して、翌26日に安倍首相と
首脳会談を行い、あからさまなパフィーマンスで親日の姿勢を強
調した。このとき、日比協調のキーワードとなったのは、「法の
支配」である。

安倍首相が南シナ海問題について、「(この問題は)地域の平和
と安定に直結する国際社会の関心事項だ」と述べたのに対して、
ドゥテルテ大統領は、「法の支配の下、国際法に基づいて(この
問題を)平和裏に解決したい」と語ったという。

南シナ海で領有権を主張する中国に対して、常設仲裁裁判所はこ
れを認めない判決を下した。ドゥテルテ大統領は、この判決を無
視しようとする中国に対して、日本とともにこの判決に従うよう
に迫るフィリピンの立場を、明確に表明したことになる。

中国の膨張主義を牽制するために使われたこの「法の支配」とい
う言葉は、よほど人口に膾炙する美辞麗句なのだろう。正論を正
面にすえたがる新聞の社説でも、最近はこの文句をよく見かける
ようになった。タイトルだけを拾ってみても、以下のとおりであ
る。

朝日新聞《中比首脳会談 「法の支配」を忘れるな》
(2016年10月22日)
毎日新聞《中比と南シナ海 法の支配は脇に置けぬ》
(2016年10月22日)
東京新聞《比大統領来日 法の支配を共通項に》
 (2016年10月25日)
読売新聞《日比首脳会談 「法の支配」で連携を強めたい》
  (2016年10月28日)
産経新聞《日比首脳会談 法の支配貫く関係強化を 》
 (2016年10月28日)

そこできょうは、この「法の支配」という考え方の(タテマエで
はなく)ホンネの部分に照明を当ててみたいのだが、各新聞社が
好むこの「法の支配」という考え方の尤もらしさは、プロレスの
試合をイメージしてもらうと分かりやすいだろう。

ルールなどお構いなしに行われる、あの血みどろの場外乱闘の
シーンを思い起こしていただきたい。これがショーの一環だと分
かってはいても、あの血なまぐさい地獄絵図だけはどうにもいた
だけない、と思う人は多いだろう。爽快さを求めるのであれば、
勝負はルールに則って、つまり反則行為など行わずに、粛々と、
正々堂々と、戦われるべきなのだ。

こう考えて、フェアプレーを要求するのが「法の支配」の原則で
あるが、ここでちょっと立ち止まり、少し考えてみよう。「法の
支配」というとき、この「法」が、つまりルールが、どういうも
のかによって、この「法の支配」の原則の、その内実も変わって
くるのではないか。

こう述べるとき、私は、「法」やルールはどうにでも変えられる
ものだという考え方に立っている。大袈裟な言い方をすれば、ど
の時代にも、どの地域にも適切な規範として通用する、つまり、
普遍妥当性をもって通用する、法やルールなどないのではない
か、と私は疑っているのである。

法には良い法もあれば、悪法もある。それが悪法だった場合、そ
れでも我々はこの法に従わなければならないのだろうか。

法を持ち出すと話がいきなり物騒になるので、ここでは、人の生
き死にには直接関わらない、スポーツ・ルールの話を持ち出すこ
とにしよう。
たとえば五輪競技で、スキージャンプのルールに、見過ごせない
変更がなされたことがある。
長野五輪までは「身長+80cm」のスキー板の使用が許されてい
たのに、長野五輪の翌年、「スキー板の長さは身長の146%以内
」というルールへと変更がなされたのである。このルール変更
は、身長の低い日本人には不利に働くため、日本人を上位入賞か
ら締め出すための、欧米の陰謀ではないかと取沙汰されたもので
ある。

目をスポーツの外へと転じれば、もっときな臭い例もある。良い
例は「核拡散防止条約」である。この条約は「核軍縮」を名目に、
アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国以外の核
兵器の保有を禁止するものであり、核兵器の独占を許すものとし
て、不平等条約の悪評を買っている。これは条約であって法では
ないから、締結しなければそれまでだが、もしこれが国際法と同
等の拘束力をもって通用するようになったとき、「法の支配」が
声高に叫ばれたとしたら、一体どうなるのか、考えただけでも
ぞっとする話ではないか。

敗戦国日本の一国民である私としては、(敗戦後、日本に進駐し
た連合国軍の総司令部GHQが定めた)独占禁止法の、その理念が
国際政治の場に持ち込まれ、核兵器の保有にも適用されるよう、
望みたいところである。

奇しくも昨日28日のことであるが、「核兵器禁止条約」の決議案
が、国連総会の第1委員会で、123か国の賛成多数で採択された。
この条約こそ、5大国による核兵器の独占体制を打破するもので
あり、その決議案の採択は画期的なことと言わなければならない。

ところが、な、なんと、日本はこの条約に反対の票を投じたとい
うのだから、あいた口が塞がらない。日本は唯一の被爆国ではな
いか。いやはや。多くの人が驚き、呆れたらしいが、そんな日本
の(「アメリカのポチ」のような)姿を見て、ドゥテルテ大統領
はどう思っただろうか。
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