火曜日の午前中・・・所長に言われ、荷物を運んでいる途中のミウは車を赤谷川の近くで停車させ、川沿いに出た。
太陽が輝き、なんとなく、ポカポカした陽気だった。
ミウは、携帯で、サトルにメールを送った。
「今、電話して大丈夫ですか?」
と、書き送ると、少しして、メールが返ってくる。
「大丈夫です」
と書いてあったので、早速ミウはサトルに電話をかける。
「おはよう。サトル、元気にしてた?」
と、ミウが言うと、
「うん、ちょっと今、メールを書いていたんだ」
と、サトルは言う。
「へー、そうなの?」
と、ミウは言う。
「メール書くの、学生の頃から好きで・・・最近思っていることとか、今の自分の状況とか、まとめてメールにして学生時代のテニスサークルの仲間に送ったんだ」
と、サトルは説明する。
「へえ、そうなんだ・・・サトルは文章書くの好きなんだ?」
と、ミウは聞く。
「まあね・・・ま、とるに足らないアホ話だよ・・・それより、今、仕事中じゃなかったの?」
と、サトルが聞く。
「うん。今、荷物の運搬中・・・隣街に運んでいるところなんだけど、太陽がポカポカして、気持ちよかったから、少し川沿いで、休んでいるの」
と、ミウ。
「そうなんだ。気持ち良さそうだね、それ」
と、サトル。
「ねえ、サトル・・・」
と、ミウ。
「なあに、ミウ・・・」
と、サトル。
「サトルは・・・わたしの過去・・・気になる?」
と、ミウは聞く。
「ん・・・うーん、よくわからないな・・・」
と、サトルは答える。
「わからないって、どういうこと?」
と、ミウは聞く。
「うん。聞きたくもあるし・・・でも、嫉妬もしそうだし、でも、知っておくべきかなあとは、思うし・・・いろいろ思っちゃうよね」
とサトルは素直に話す。
「そっか・・・聞かないで済むのなら、それがいいってこと?」
と、ミウが聞く。
「なんて言うのかな。今の僕のココロの状態は、普通じゃないから・・・多分、ミウの人生をすべて受け止めるのは、まだ無理なのかなって、思ってるんだ」
と、サトルは素直に言葉にする。
「今、僕は壊れているし、こころへの負荷が一番、駄目らしいし・・・良くなったら、その話、聞かせて?駄目?それじゃあ」
と、サトルは言う。
「ううん。そうだったね。今、サトルは療養中だもんね。わかった。うん。すごくよくわかった」
と、ミウは言葉にする。
「ごめんね。僕も「鬱病」は初めての経験だから、どうなったら、治るのか・・・まだ、よくわからないんだ」
と、サトルは言葉にする。
「そうだよね・・・そんな状況の時に、変なこと聞いて、ごめんね」
と、ミウは言葉にする。
「ううん、いいんだ・・・でも、今わかったよ・・・僕がミウの・・・過去の話を受け止めようと決意出来た時が・・・僕の「鬱病」の治る時だって」
と、サトルは言葉にする。
「うん・・・そうだね・・・それを聞かせて貰っただけでも、今日は電話した意味があったわ・・・」
と、ミウも言葉にする。
「ねえ、今、「月夜野」は、どんな風景なの?」
と、サトルが聞く。
「うん。太陽がポカポカしていて・・・川の流れはキラキラしていて・・・風は無いかな・・・川の流れの音が気持ちいいの」
と、ミウは答える。
「気持ちよさそうだな・・・そんな場所で、ミウの作ってくれたお弁当でも食べながら、おしゃべり出来たら、楽しいだろうね」
と、サトルは答える。
「そうね。サトルだったら、お弁当のおかずは何がいい?」
と、ミウが質問する。
「そうだな・・・鶏の唐揚げとか、あとタコさんウインナーでしょ、玉子焼きと、ノリを巻いたお握りかな。あとお漬物」
と、サトルが答える。
「うん、なんか、男の子が好きなものばかりって感じね」
と、ミウは目を細めて嬉しそうな笑顔。
「最近、外に出られるようには、なったけど・・・正直まだ、ひとが怖い。外に出るのも少し恐怖感があるんだ」
と、サトルは正直に言う。
「絶対的に信頼出来るひとに会う場合は、決断出来るけど・・・まだ、正直怖いんだ。それ以外じゃ、近所のコンビニに行くのも怖いんだ」
と、サトルは言う。
「焦らないで、サトル・・・少しずつ治していけばいいんだから・・・」
と、ミウは言う。
「うん。わかってる・・・ミウにそう言われると元気が出るよ・・・」
と、サトルは言う。
「そろそろ切るよ・・・ミウの仕事の邪魔しちゃいけないし・・・」
と、サトルは言う。
「うん。気を使ってくれて、ありがと・・・わたしも、お仕事がんばるから・・・」
と、ミウが言うと、
「うん。じゃあ、また、電話待ってるから。じゃあね、ミウ」
と、サトルが言って、電話は切れた。
「サトル・・・もしかしたら・・・わたしと話すのも、辛いのかしら・・・」
と、ふと、そのことに気づくミウ。
「そうか、サトルは必死にリハビリしているんだ、あたしで・・・」
と、言葉にするミウ。
「がんばって、サトル・・・わたしで良ければ、全面的に協力するから」
と、言葉にしたミウ。
そこから見える川の流れは、穏やかだった。
その日の夜、
「・・・っていうことがあったの、今日の午前中・・・」
と、ミウはヨウコにサトルの顛末を詳しく話した。
二人は、いつものバー「Mirage」で飲んでいた。
「そっか・・・サトルって、随分がんばり屋なのか?」
と、ヨウコが聞く。
「自分のことを糞がつくくらい馬鹿真面目なところがあるって言ってたわ」
と、ミウが言う。
「多分、ミウの為に、必死でがんばってるんだよ、サトルの奴・・・」
と、ヨウコが言う。
「そうね・・・だから、わたしもサトルを信じて・・・それしか私に出来ることは、ないわ・・・」
と、ミウが言う。
「俺さ・・・実はちょっといろいろ考えてさ・・・ミウは「月夜野」の街が「母の懐」だって言ったろ?」
と、ヨウコが言葉にする。
「うん、言ったわ・・・」
と、ミウは言う。
「俺たち、二人とも目標を持った方がいいんじゃねえかって、思ったんだ」
と、ヨウコは言う。
「目標?」
と、ミウは言う。
「目標を持って・・・それを実現することで、この「月夜野」の街を卒業するんだよ」
と、ヨウコが言う。
「「月夜野」を卒業?」
と、ミウが言う。
「女にとって、夢ってのは、誰か恋しい相手と結婚するか・・・自分なりの仕事をやるかのどっちかだろ?」
と、ヨウコが言う。
「そのどちらかを実現させるんだよ・・・俺たち二人共・・・そこに照準を合わせて、これから生きていこうって、そう考えたのさ」
と、ヨウコが言葉にする。
「ミウはよー・・・サトルとの結婚をターゲットにすればいいじゃんか。サトルが鬱病から治る・・・まず、それが先決だけどな」
と、ヨウコが言葉にする。
「わたし、ずっと考えていたんだけど、サトル・・・鬱病から治っただけじゃ、駄目だと思うの」
と、ミウが言葉にする。
「どういうことだ?」
と、ヨウコ。
「だって、サトル会社に行きたがらないもん・・・元々サトルは脱サラ指向だったし・・・何か彼に・・・彼だけに出来る仕事を探さなきゃいけないと思うの」
と、ミウは言葉にする。
「サトルだけが出来る仕事ねー・・・」
と、ヨウコ。
「ヨウコはどうするの?何をターゲットにする気なの?」
と、ミウが聞く。
「難しいとは思うけどよ・・・やっぱ男かな」
と、ヨウコは言葉にする。
「俺に出来る仕事なんて、たかが知れているしよ・・・ソープには絶対に戻る気はねえし・・・となりゃあ、男でも捕まえる以外、手はねえよ」
と、ヨウコは言葉にする。
「でも、ヨウコには愛する男性がいるんじゃなかったっけ?」
と、ミウが言葉にする。
「田中か・・・あいつは俺から逃げた男だぜ・・・それに俺がここにいるなんて、わかるわけねーしさ」
と、ヨウコは言葉にする。
「今度はもっといい男を探すよ。全力でな」
と、ヨウコは言葉にする。
「そうね、それがいいかもね・・・」
と、ミウは言葉にする。
「それより、わたし、どうしようかな・・・」
と、ミウはため息と共に言葉にする。
「おまえ・・・フリーの編集者とか、そういうの出来ないのか?」
と、ヨウコが言葉にする。
「実績ゼロよ・・・それに・・・」
と、ミウは言葉に詰まっていた・・・。
「編集者に戻れない理由もあるのよ・・・」
と、ミウは悲しそうな表情で、言葉にしていた。
そんなミウを不思議そうに眺めるヨウコだった。
「へ・・・おまえにも、まだ、俺に言えてないネガティブがあったのか・・・」
と、苦笑するヨウコ。
「・・・おまえにも、ってことはヨウコにも、隠してるネガティブがあるの?」
と、ミウは聞く。
「俺がこの「月夜野」に逃げ込んだ最大の理由はよ・・・その道じゃ、有名な「女衒」の男から逃げたかったってのも、あるんだよ」
と、ヨウコは言葉にする。
「女衒・・・?」
と、ミウはよくわからない。
「人買いの男だよ。一度その男に見出されたら・・・骨までしゃぶりつくされる・・・伝説の男が俺に目えつけやがって、うっとおしいから、逃げてきたってわけよ」
と、ヨウコは言葉にする。
「その男の名前は?」
と、ミウは聞く。
「「女衒のテツ」・・・あいつにはもう一切関わりたくない・・・その名前すら口にしたくねーぜ・・・」
と、ヨウコは不快な表情をする。
「その男に見つかる前に、自分の人生に目鼻つけてえんだよな・・・」
と、ヨウコは言葉にした。
ヨウコは少し遠いところを見るような目つきをしていた。
ミウはそんなヨウコを少しやさしい目で見るのだった。
(つづく)
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太陽が輝き、なんとなく、ポカポカした陽気だった。
ミウは、携帯で、サトルにメールを送った。
「今、電話して大丈夫ですか?」
と、書き送ると、少しして、メールが返ってくる。
「大丈夫です」
と書いてあったので、早速ミウはサトルに電話をかける。
「おはよう。サトル、元気にしてた?」
と、ミウが言うと、
「うん、ちょっと今、メールを書いていたんだ」
と、サトルは言う。
「へー、そうなの?」
と、ミウは言う。
「メール書くの、学生の頃から好きで・・・最近思っていることとか、今の自分の状況とか、まとめてメールにして学生時代のテニスサークルの仲間に送ったんだ」
と、サトルは説明する。
「へえ、そうなんだ・・・サトルは文章書くの好きなんだ?」
と、ミウは聞く。
「まあね・・・ま、とるに足らないアホ話だよ・・・それより、今、仕事中じゃなかったの?」
と、サトルが聞く。
「うん。今、荷物の運搬中・・・隣街に運んでいるところなんだけど、太陽がポカポカして、気持ちよかったから、少し川沿いで、休んでいるの」
と、ミウ。
「そうなんだ。気持ち良さそうだね、それ」
と、サトル。
「ねえ、サトル・・・」
と、ミウ。
「なあに、ミウ・・・」
と、サトル。
「サトルは・・・わたしの過去・・・気になる?」
と、ミウは聞く。
「ん・・・うーん、よくわからないな・・・」
と、サトルは答える。
「わからないって、どういうこと?」
と、ミウは聞く。
「うん。聞きたくもあるし・・・でも、嫉妬もしそうだし、でも、知っておくべきかなあとは、思うし・・・いろいろ思っちゃうよね」
とサトルは素直に話す。
「そっか・・・聞かないで済むのなら、それがいいってこと?」
と、ミウが聞く。
「なんて言うのかな。今の僕のココロの状態は、普通じゃないから・・・多分、ミウの人生をすべて受け止めるのは、まだ無理なのかなって、思ってるんだ」
と、サトルは素直に言葉にする。
「今、僕は壊れているし、こころへの負荷が一番、駄目らしいし・・・良くなったら、その話、聞かせて?駄目?それじゃあ」
と、サトルは言う。
「ううん。そうだったね。今、サトルは療養中だもんね。わかった。うん。すごくよくわかった」
と、ミウは言葉にする。
「ごめんね。僕も「鬱病」は初めての経験だから、どうなったら、治るのか・・・まだ、よくわからないんだ」
と、サトルは言葉にする。
「そうだよね・・・そんな状況の時に、変なこと聞いて、ごめんね」
と、ミウは言葉にする。
「ううん、いいんだ・・・でも、今わかったよ・・・僕がミウの・・・過去の話を受け止めようと決意出来た時が・・・僕の「鬱病」の治る時だって」
と、サトルは言葉にする。
「うん・・・そうだね・・・それを聞かせて貰っただけでも、今日は電話した意味があったわ・・・」
と、ミウも言葉にする。
「ねえ、今、「月夜野」は、どんな風景なの?」
と、サトルが聞く。
「うん。太陽がポカポカしていて・・・川の流れはキラキラしていて・・・風は無いかな・・・川の流れの音が気持ちいいの」
と、ミウは答える。
「気持ちよさそうだな・・・そんな場所で、ミウの作ってくれたお弁当でも食べながら、おしゃべり出来たら、楽しいだろうね」
と、サトルは答える。
「そうね。サトルだったら、お弁当のおかずは何がいい?」
と、ミウが質問する。
「そうだな・・・鶏の唐揚げとか、あとタコさんウインナーでしょ、玉子焼きと、ノリを巻いたお握りかな。あとお漬物」
と、サトルが答える。
「うん、なんか、男の子が好きなものばかりって感じね」
と、ミウは目を細めて嬉しそうな笑顔。
「最近、外に出られるようには、なったけど・・・正直まだ、ひとが怖い。外に出るのも少し恐怖感があるんだ」
と、サトルは正直に言う。
「絶対的に信頼出来るひとに会う場合は、決断出来るけど・・・まだ、正直怖いんだ。それ以外じゃ、近所のコンビニに行くのも怖いんだ」
と、サトルは言う。
「焦らないで、サトル・・・少しずつ治していけばいいんだから・・・」
と、ミウは言う。
「うん。わかってる・・・ミウにそう言われると元気が出るよ・・・」
と、サトルは言う。
「そろそろ切るよ・・・ミウの仕事の邪魔しちゃいけないし・・・」
と、サトルは言う。
「うん。気を使ってくれて、ありがと・・・わたしも、お仕事がんばるから・・・」
と、ミウが言うと、
「うん。じゃあ、また、電話待ってるから。じゃあね、ミウ」
と、サトルが言って、電話は切れた。
「サトル・・・もしかしたら・・・わたしと話すのも、辛いのかしら・・・」
と、ふと、そのことに気づくミウ。
「そうか、サトルは必死にリハビリしているんだ、あたしで・・・」
と、言葉にするミウ。
「がんばって、サトル・・・わたしで良ければ、全面的に協力するから」
と、言葉にしたミウ。
そこから見える川の流れは、穏やかだった。
その日の夜、
「・・・っていうことがあったの、今日の午前中・・・」
と、ミウはヨウコにサトルの顛末を詳しく話した。
二人は、いつものバー「Mirage」で飲んでいた。
「そっか・・・サトルって、随分がんばり屋なのか?」
と、ヨウコが聞く。
「自分のことを糞がつくくらい馬鹿真面目なところがあるって言ってたわ」
と、ミウが言う。
「多分、ミウの為に、必死でがんばってるんだよ、サトルの奴・・・」
と、ヨウコが言う。
「そうね・・・だから、わたしもサトルを信じて・・・それしか私に出来ることは、ないわ・・・」
と、ミウが言う。
「俺さ・・・実はちょっといろいろ考えてさ・・・ミウは「月夜野」の街が「母の懐」だって言ったろ?」
と、ヨウコが言葉にする。
「うん、言ったわ・・・」
と、ミウは言う。
「俺たち、二人とも目標を持った方がいいんじゃねえかって、思ったんだ」
と、ヨウコは言う。
「目標?」
と、ミウは言う。
「目標を持って・・・それを実現することで、この「月夜野」の街を卒業するんだよ」
と、ヨウコが言う。
「「月夜野」を卒業?」
と、ミウが言う。
「女にとって、夢ってのは、誰か恋しい相手と結婚するか・・・自分なりの仕事をやるかのどっちかだろ?」
と、ヨウコが言う。
「そのどちらかを実現させるんだよ・・・俺たち二人共・・・そこに照準を合わせて、これから生きていこうって、そう考えたのさ」
と、ヨウコが言葉にする。
「ミウはよー・・・サトルとの結婚をターゲットにすればいいじゃんか。サトルが鬱病から治る・・・まず、それが先決だけどな」
と、ヨウコが言葉にする。
「わたし、ずっと考えていたんだけど、サトル・・・鬱病から治っただけじゃ、駄目だと思うの」
と、ミウが言葉にする。
「どういうことだ?」
と、ヨウコ。
「だって、サトル会社に行きたがらないもん・・・元々サトルは脱サラ指向だったし・・・何か彼に・・・彼だけに出来る仕事を探さなきゃいけないと思うの」
と、ミウは言葉にする。
「サトルだけが出来る仕事ねー・・・」
と、ヨウコ。
「ヨウコはどうするの?何をターゲットにする気なの?」
と、ミウが聞く。
「難しいとは思うけどよ・・・やっぱ男かな」
と、ヨウコは言葉にする。
「俺に出来る仕事なんて、たかが知れているしよ・・・ソープには絶対に戻る気はねえし・・・となりゃあ、男でも捕まえる以外、手はねえよ」
と、ヨウコは言葉にする。
「でも、ヨウコには愛する男性がいるんじゃなかったっけ?」
と、ミウが言葉にする。
「田中か・・・あいつは俺から逃げた男だぜ・・・それに俺がここにいるなんて、わかるわけねーしさ」
と、ヨウコは言葉にする。
「今度はもっといい男を探すよ。全力でな」
と、ヨウコは言葉にする。
「そうね、それがいいかもね・・・」
と、ミウは言葉にする。
「それより、わたし、どうしようかな・・・」
と、ミウはため息と共に言葉にする。
「おまえ・・・フリーの編集者とか、そういうの出来ないのか?」
と、ヨウコが言葉にする。
「実績ゼロよ・・・それに・・・」
と、ミウは言葉に詰まっていた・・・。
「編集者に戻れない理由もあるのよ・・・」
と、ミウは悲しそうな表情で、言葉にしていた。
そんなミウを不思議そうに眺めるヨウコだった。
「へ・・・おまえにも、まだ、俺に言えてないネガティブがあったのか・・・」
と、苦笑するヨウコ。
「・・・おまえにも、ってことはヨウコにも、隠してるネガティブがあるの?」
と、ミウは聞く。
「俺がこの「月夜野」に逃げ込んだ最大の理由はよ・・・その道じゃ、有名な「女衒」の男から逃げたかったってのも、あるんだよ」
と、ヨウコは言葉にする。
「女衒・・・?」
と、ミウはよくわからない。
「人買いの男だよ。一度その男に見出されたら・・・骨までしゃぶりつくされる・・・伝説の男が俺に目えつけやがって、うっとおしいから、逃げてきたってわけよ」
と、ヨウコは言葉にする。
「その男の名前は?」
と、ミウは聞く。
「「女衒のテツ」・・・あいつにはもう一切関わりたくない・・・その名前すら口にしたくねーぜ・・・」
と、ヨウコは不快な表情をする。
「その男に見つかる前に、自分の人生に目鼻つけてえんだよな・・・」
と、ヨウコは言葉にした。
ヨウコは少し遠いところを見るような目つきをしていた。
ミウはそんなヨウコを少しやさしい目で見るのだった。
(つづく)
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