今、里山は増えすぎたニホンジカの食害に悩まされています。防衛手段は、鹿柵ネットを張り、食べられないようにしていますが、網を破られたり、飛び越えられたりと、攻防が続いています。
昨朝、犬の散歩を終え帰ろうとしたときのこと、いつもと違った気配を感じ見渡すと、畑の中に木製の置物のようなものが見えました。
目を凝らすと、なんと角をネットに絡ませたニホンジカのようです。全く身じろぎをしないので死んでいるのかと思い、まず、犬のヤマトを離れた木に括り付け、近づいていきました。
畑のサツマイモやジャガイモを食べに、柵を越えて入ったニホンジカのオスでした。美しい斑紋や古い角が落ちて新しく生え変わったこれまでの角とは違う形・色をしていました。
野菜を食い荒らした後に、網を潜って柵から逃げようとして角が絡まり、はずそうと暴れまわった様子で、ジャガイモ畑は地肌がむき出しになり、イモがゴロゴロところがっていました。近づいて行くとニホンジカは暴れだしましたが、ネットが角にガンジガラメになっていて、逃げだせない状況でした。
その様子を見ていたヤマトは興奮し始めました。以前、シカがネットに絡まった時は、果敢にシカの足首に喰らいついており、今回もシカに近づきたがるヤマトの力に抗しながら、まず家に戻り、市の害獣対策課に連絡を入れました。
今年、ネットに絡んで動けなくなったシカは、これで3頭目ですが、角が生え始めたばかりのシカは初めてです。すぐに担当のFさんが来てくれ、手際よくシカを処分してくれました(岩手県は、今年からシカに対する捕獲期間と制限を解除しています)。立派なオスの成獣で、袋角の段階でしたが、角は三段に成ろうとしていて、車に運ぶにもずっしりと重く、二人では持ち上げられませんでした。
たまたま牛の世話に来ていた植木さんが居合わせましたので、三人で何とか車に積むことができました。Fさんは、植木さんに「この時期の袋角は、貴重な漢方薬で、焼酎に付けて飲むと、マムシの焼酎漬けのように精がつくから」と言って、暴れて途中から折れ曲がった角を切り取り植木さんにあげました(袋角=鹿茸(ろくじょう)と言い、鹿茸は全身強壮薬、ノイローゼ、低血圧症の医薬品材料に利用されているそうです)。
その後、植木さんは大事に持ち帰ろうと、沢水できれいに洗って干しておいたそうですが、牛の世話を終えて帰ろうとしたところ、何と!角がありません。どうやらカラスが持ち去ったようです。植木さん曰く、「Fさんがあんまり大きい声で話すもんだからカラスの野郎がFさんの話を聞いて『そんなら、オレも強くなりたい』と思って、盗んでいったようだ。まぁ、カラスが強くなってシカを追っ払ってくれれば、安いもんだ!」と、笑って後日談を話してくれました。
自然豊かな里山ですが、何か少しずつ生態系が崩れてきています。原因の根幹は、人間の身勝手さにあり、それに対する動植物のしっぺ返しの一コマを垣間見たようでした。