ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

抵抗力

2024-06-07 08:26:04 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「軽視」6月2日
  心療内科医海原純子氏が、『変化の波を乗り切る』という表題でコラムを書かれていました。その中で海原氏は、『居心地の悪い環境でストレスが生じた時、適応できず体調が悪くなるのが適応障害(略)生きている限り逃れようがない「変化」の中に私たちは身を置いている、ということに気づき、日ごろからストレス状況を乗り切る抵抗力をつけておくことが必要』と書かれています。
 自分ができるかどうかはともかく、多くの方が頷かれる指摘だと思います。私はこの記述を目にして、30年近く前に、学校でのいじめが問題化していった頃のことを思い出しました。いじめは被害者の気持ちの寄り添って解決するべきであり、いじめられた側にも問題や原因があるというのは間違った考え方、という認識がようやく広がり始めた時期でもあります。
 しかし、文部省(当時)や教委がそうした認識を強調する一方で、学校現場には、いじめられる側にも問題があるのは事実だ、その問題を放置していじめた側を指導していじめをなくしても、被害者側に適切な指導をせず放置しておけば、また別の加害者に寄っていじめが行われる、という認識をもつ教員や校長が少なからず存在したのも事実でした。
 当時指導主事をしていた私は、「被害者を放置すると言っているのではない、今現に苦しんでいる被害者に寄り添って苦痛を取り除くために、傷つき弱っている被害者への指導はさておき、加害者や傍観者への指導をきちんと行い、いじめが解決し被害者が一定の精神的安定を取り戻した段階を見極めて、被害者にも指導をするという考え方をとるべきだ、ただし、その際も「君のこういうところが悪い」ではなく、「こんなふうな考え方、捉え方をしてみたらどうだろう」と、欠点指摘型ではなくよりよい在り方を示唆するような態度が望ましい」という趣旨の話をしてきました。
 これにも多くの方が頷かれると思います。このよりよい在り方の示唆が、海原氏の言う「ストレス状況を乗り切る抵抗力をつけておく」という発想と重なるのです。ところが、いじめ対応では、被害者に寄り添うという考え方への理解が浅く、いじめ解決後の被害者への指導・助言・示唆・訓練といった面がいつしか忘れられていったのです。
 大人の適応障害では、危機的状況を乗り切った後の抵抗力育成ということが視野に入れられているのに対し、子供のいじめ問題では、ストレスフルな状況への抵抗力を身につけるという視点が欠けているのが現状です。
 もちろんこの「抵抗力育成」を重視しすぎると、やはり抵抗力のない被害者が悪い、という方向に傾きやすいので注意が必要ですし、本当に傷が癒えているのかを見抜く教員の目も重要になってきます。それでもなお、この心理的抵抗力を高めることを学校の指導内容から除いてしまってはいけないのではないでしょうか。
 抵抗力を高めるからと言って、圧を加えて我慢させようというのではありません。海原氏は、『抵抗力を弱めてしまう要因に「抱え込み」や「ものの見方」がある。自分の弱みを見せられなくて気持ちを抑えてしまうこと、地位や収入、他者の評価だけを人生の最大の価値とするものの見方なども大きな変化を柔軟に乗り切ることを難しくする』とおっしゃっています。ヒントになるのではないでしょうか。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 私ならどう評価しただろう | トップ | 金言の宝庫 »

コメントを投稿

我が国の教育行政と学校の抱える問題」カテゴリの最新記事