「立場を変えて」8月20日
読者投稿欄に、大阪府K氏の『徘徊対策 最新技術必要では』と題された投稿が掲載されました。その中でK氏は、『認知症が原因で行方不明になる人が増え続けている』という事実を述べ、さらに『マイクロチップを入れることで迷子の子犬も難なく見つかる』という獣医の話を紹介なさっています。
そして、『最新技術の利用で家族への負担が軽減するなら、これらの策も考えるべきではないか』と提案なさっているのです。K氏は、『「認知症家族の会」でサポーターとして15年余り活動している』そうで、深夜の徘徊への対応の難しさを熟知なさっている方です。それだけに、この提案には重みがあります。
私も、認知症の母の深夜徘徊で、複数回警察のお世話になり、昼間にもたまたま知人が発見し連絡してくれたおかげで大事には至らなかったという経験をしています。認知症家族は、毎晩、今日は何があるかと常に気に掛け、心休まるときがないという実情はよく理解できます。
でも、認知症の方にマイクロチップを埋め込むという行為はどうなのでしょうか。私は学校教育に置き換えてみました。子供に埋め込んだとしたら。修学旅行での班単位の活動、教員の管理は格段に楽になります。でも生徒の立場に立ったらどうでしょう。
さらに、教員に埋め込んだ場合はどうでしょう。ちょっとタバコが吸いたくなって、喫煙室に行く、それは校長に監視されていて、「A教員は今日〇回目の喫煙だ。合計で25分仕事をしていないことになる」などと記録されてしまうとしたら。嫌な気分になるでしょう。職務専念義務を持ち出されれば、抗弁のしようもありませんから。
また、校長に埋め込むとしたら。教員からすると、保護者等からの通報で緊急対応が必要だと思われるがどのように対応したらよいか判断に迷うとき、校長の居場所が分かれば心強いでしょう。でも、校長室にいない。二日酔い気味で応接室で休んでいても、朝食を摂る時間がなくて更衣室で菓子パンを口に押し込んでいても、バツが悪いですね。
もちろん、スマホを持つ人がほとんどとなっている今は、教員も校長も常に連絡可という状態ですが、居場所まで分かったとしたら…です。私も、教委の指導室長であったとき、休日も、深夜も、旅行や出張で東京を離れているときも、常に心が休まるときがありませんでした。実際、教員が警察に捕まった、子供が変質者に襲われた、登山中の教員が滑落死行方不明になった、などなど、突然の連絡があり、私的な予定は何ひとつ立てられないという状況でした。
人間には、誰にも居場所を知られずに彷徨する自由がある、そんなふうに思うのです。管理はする方の利便性ばかり考え、される方の心情への配慮を欠くと過酷なものになってしまいます。心しなければなりません。