ロシアへの派兵認めた北朝鮮 米に対しロシアも後ろ盾と強調か NHK 2025年4月28日 20時32分
北朝鮮がロシアへの派兵を初めて認めたことについて、専門家は北朝鮮としては国内に向けて今回の派兵が正しかったとアピールするとともに、アメリカに対しては中国だけでなくロシアも後ろ盾になったと強調するねらいがあったのではないかと指摘しています。
北朝鮮は28日、国営メディアを通じ、ウクライナ軍が越境攻撃していたロシア西部のクルスク州で北朝鮮軍が参戦していたと発表し、ロシアへの派兵を初めて認めました。
この発表について、北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は、ロシア側がクルスク州を奪還したと発表したことが一つのタイミングだったと指摘したうえで「派兵された人たちは国家的な英雄だという位置づけをして、国内に対して、今回の派兵が正しかったとアピールしようとした」との見方を伝えました。
また北朝鮮が、ロシアとの包括的戦略パートナーシップ条約に基づいて派兵を決定したことについては「自分たちの後ろ盾は、中国だけではなくてロシアもあるということを国際社会に示すねらいがあった」としています。
そのうえで「ロシアとの接近による軍事技術の向上を背景に、アメリカに対し、非核化交渉ではなく自分たちの核保有を前提に交渉を求めていくのではないか」としたほか、今後、派遣した兵士の撤退もアメリカとの交渉のカードにする可能性を指摘しました。
そして「ロシアが北東アジア情勢に積極的に関与することが予想され、日本としては、アメリカや韓国との協力をしっかりとしたものにする必要がある」として、米韓との安全保障協力の強化が必要だと強調しました。
一転して北朝鮮軍の派兵を公に
ロシアに派遣された北朝鮮の兵士たちは、これまでロシア人だと偽る証明書などを所持して、戦闘に参加してきたとみられています。
ウクライナの国防大学はロシア西部クルスク州で戦死した北朝鮮兵が所持していたとする遺品の書類などを保管していて、ことし2月にNHKは国防大学の許可を得てこれらを撮影しました。
この中にはロシアの軍用証明書があり、証明書には生年月日が書かれていますが、顔写真などはありませんでした。
また、出生地の欄にはロシア語でモンゴルと国境を接するロシア国内のトゥバ共和国と記されていて、この地域で使われているとみられる名前が書かれていました。
このほかにメモも2枚あり、1枚には朝鮮語でキム・ビョルソンという名前が書かれていたほか、もう1枚には無線機や防毒マスクなどの装備品のリストが書かれていました。
ウクライナ軍はこれまで、ロシアが北朝鮮の派兵を隠すためにロシア人だと偽る証明書を持たせていると指摘していましたが、ロシア軍がクルスクを完全に奪還したと公表したことで、ロ朝両国は一転して北朝鮮軍の派兵を公にした形です。
プーチン大統領 北朝鮮に謝意
ロシアのプーチン大統領は28日に声明を発表し、クルスク州の奪還作戦に兵士を派遣した北朝鮮に謝意を表しました。
この中でプーチン大統領は、派兵について「去年6月に両国間で締結された包括的戦略パートナーシップ条約にしたがって行われた」としています。
そのうえで「友人たちは、連帯感、正義感、真の同志愛にもとづいて行動した。われわれはキム・ジョンウン(金正恩)同志と指導部、そして国民に対し、心から感謝する」と述べました。
さらに「ロシアの国民は、北朝鮮の特殊部隊兵士たちの功績を決して忘れない」とし「戦場で強化された両国の関係が今後もあらゆる分野で大きく発展していくことを確信している」と結んでいます。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日に「包括的戦略パートナーシップ条約は、必要があれば、互いに援助するとしている。クルスク州の奪還作戦に北朝鮮兵士が加わったことはこれがいかに有効であるかを示した」と述べ、必要があればロシアは北朝鮮に軍事支援を行うとの認識を示しました。
北朝鮮軍 短距離弾道ミサイル148発を供与
北朝鮮軍は、兵士の派遣のほかに、弾道ミサイルなどの兵器の供与を続けてロシアを支援しています。
韓国国会のユ・ヨンウォン※議員はことし2月、ウクライナ情報総局などの高官と面会した際に、北朝鮮がロシアに供与した兵器の数について説明を受けました。
ユ議員によりますと、このうちKN23とKN24と呼ばれる短距離弾道ミサイルが合わせて148発、北朝鮮からロシアに供与されたということです。
また、北朝鮮が韓国の首都圏を射程に収めている170ミリ口径の自走砲と240ミリ口径のロケット砲をそれぞれ120門ずつ、ロシアに供与していたとの説明も受けたとしています。
ユ議員は「韓国の首都圏を狙う兵器をロシアに供与し、兵士だけでなく武器も実戦を経た状況だ。北の脅威が増大していると見るべきだ」と話しています。
※ユ・ヨンウォン(●龍源)
●=まだれに「臾」
北朝鮮製の弾道ミサイル“命中精度高まってきている”
ロシアはウクライナへの攻撃で、たびたび北朝鮮から供与されたとみられるミサイルを使用していて、大きな被害が出ています。
停戦の行方に世界の関心が集まった4月に入ってからも、ロシアは首都キーウにミサイルなどで大規模な攻撃を行い、12人が死亡、90人近くがけがをしました。
この大規模攻撃に使われたミサイルについて、ウクライナ外務省の報道官は、北朝鮮製のKN23やKN24と呼ばれる弾道ミサイルだと明らかにしています。
北朝鮮から供与された弾道ミサイルの威力について、NHKの取材班は去年8月にKN23の攻撃を受けたとされるキーウ郊外の現場を取材しました。
現場の住宅にはミサイルが直撃したわけではなく、破片が落下したということでしたが、住宅は原形をとどめておらずがれきとなっていて、地面には破片が落下してできたとみられる大きな穴があいていました。
がれきの中からは、この住宅に住む35歳の男性とその4歳の息子が死亡した状態で見つかりました。
また被害は広範囲に及び、隣接する数軒の住宅も屋根や壁が壊れていました。
大きな威力を見せる北朝鮮製の弾道ミサイルについて、ウクライナ当局は命中精度が高まってきていると指摘しています。
ウクライナ国防省で情報収集や分析を行う情報総局のアンドリー・チェルニャク広報官は今月、NHKのインタビューに対して「当初はミサイルの精度が低く、目標との距離が100メートル以上離れていたこともあったが、ロシアの技術者の支援を受けて精度は格段に向上している」と話し、危機感を示していました。
北朝鮮がロシアへの派兵を初めて認めたことについて、専門家は北朝鮮としては国内に向けて今回の派兵が正しかったとアピールするとともに、アメリカに対しては中国だけでなくロシアも後ろ盾になったと強調するねらいがあったのではないかと指摘しています。
北朝鮮は28日、国営メディアを通じ、ウクライナ軍が越境攻撃していたロシア西部のクルスク州で北朝鮮軍が参戦していたと発表し、ロシアへの派兵を初めて認めました。
この発表について、北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は、ロシア側がクルスク州を奪還したと発表したことが一つのタイミングだったと指摘したうえで「派兵された人たちは国家的な英雄だという位置づけをして、国内に対して、今回の派兵が正しかったとアピールしようとした」との見方を伝えました。
また北朝鮮が、ロシアとの包括的戦略パートナーシップ条約に基づいて派兵を決定したことについては「自分たちの後ろ盾は、中国だけではなくてロシアもあるということを国際社会に示すねらいがあった」としています。
そのうえで「ロシアとの接近による軍事技術の向上を背景に、アメリカに対し、非核化交渉ではなく自分たちの核保有を前提に交渉を求めていくのではないか」としたほか、今後、派遣した兵士の撤退もアメリカとの交渉のカードにする可能性を指摘しました。
そして「ロシアが北東アジア情勢に積極的に関与することが予想され、日本としては、アメリカや韓国との協力をしっかりとしたものにする必要がある」として、米韓との安全保障協力の強化が必要だと強調しました。
一転して北朝鮮軍の派兵を公に
ロシアに派遣された北朝鮮の兵士たちは、これまでロシア人だと偽る証明書などを所持して、戦闘に参加してきたとみられています。
ウクライナの国防大学はロシア西部クルスク州で戦死した北朝鮮兵が所持していたとする遺品の書類などを保管していて、ことし2月にNHKは国防大学の許可を得てこれらを撮影しました。
この中にはロシアの軍用証明書があり、証明書には生年月日が書かれていますが、顔写真などはありませんでした。
また、出生地の欄にはロシア語でモンゴルと国境を接するロシア国内のトゥバ共和国と記されていて、この地域で使われているとみられる名前が書かれていました。
このほかにメモも2枚あり、1枚には朝鮮語でキム・ビョルソンという名前が書かれていたほか、もう1枚には無線機や防毒マスクなどの装備品のリストが書かれていました。
ウクライナ軍はこれまで、ロシアが北朝鮮の派兵を隠すためにロシア人だと偽る証明書を持たせていると指摘していましたが、ロシア軍がクルスクを完全に奪還したと公表したことで、ロ朝両国は一転して北朝鮮軍の派兵を公にした形です。
プーチン大統領 北朝鮮に謝意
ロシアのプーチン大統領は28日に声明を発表し、クルスク州の奪還作戦に兵士を派遣した北朝鮮に謝意を表しました。
この中でプーチン大統領は、派兵について「去年6月に両国間で締結された包括的戦略パートナーシップ条約にしたがって行われた」としています。
そのうえで「友人たちは、連帯感、正義感、真の同志愛にもとづいて行動した。われわれはキム・ジョンウン(金正恩)同志と指導部、そして国民に対し、心から感謝する」と述べました。
さらに「ロシアの国民は、北朝鮮の特殊部隊兵士たちの功績を決して忘れない」とし「戦場で強化された両国の関係が今後もあらゆる分野で大きく発展していくことを確信している」と結んでいます。
また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日に「包括的戦略パートナーシップ条約は、必要があれば、互いに援助するとしている。クルスク州の奪還作戦に北朝鮮兵士が加わったことはこれがいかに有効であるかを示した」と述べ、必要があればロシアは北朝鮮に軍事支援を行うとの認識を示しました。
北朝鮮軍 短距離弾道ミサイル148発を供与
北朝鮮軍は、兵士の派遣のほかに、弾道ミサイルなどの兵器の供与を続けてロシアを支援しています。
韓国国会のユ・ヨンウォン※議員はことし2月、ウクライナ情報総局などの高官と面会した際に、北朝鮮がロシアに供与した兵器の数について説明を受けました。
ユ議員によりますと、このうちKN23とKN24と呼ばれる短距離弾道ミサイルが合わせて148発、北朝鮮からロシアに供与されたということです。
また、北朝鮮が韓国の首都圏を射程に収めている170ミリ口径の自走砲と240ミリ口径のロケット砲をそれぞれ120門ずつ、ロシアに供与していたとの説明も受けたとしています。
ユ議員は「韓国の首都圏を狙う兵器をロシアに供与し、兵士だけでなく武器も実戦を経た状況だ。北の脅威が増大していると見るべきだ」と話しています。
※ユ・ヨンウォン(●龍源)
●=まだれに「臾」
北朝鮮製の弾道ミサイル“命中精度高まってきている”
ロシアはウクライナへの攻撃で、たびたび北朝鮮から供与されたとみられるミサイルを使用していて、大きな被害が出ています。
停戦の行方に世界の関心が集まった4月に入ってからも、ロシアは首都キーウにミサイルなどで大規模な攻撃を行い、12人が死亡、90人近くがけがをしました。
この大規模攻撃に使われたミサイルについて、ウクライナ外務省の報道官は、北朝鮮製のKN23やKN24と呼ばれる弾道ミサイルだと明らかにしています。
北朝鮮から供与された弾道ミサイルの威力について、NHKの取材班は去年8月にKN23の攻撃を受けたとされるキーウ郊外の現場を取材しました。
現場の住宅にはミサイルが直撃したわけではなく、破片が落下したということでしたが、住宅は原形をとどめておらずがれきとなっていて、地面には破片が落下してできたとみられる大きな穴があいていました。
がれきの中からは、この住宅に住む35歳の男性とその4歳の息子が死亡した状態で見つかりました。
また被害は広範囲に及び、隣接する数軒の住宅も屋根や壁が壊れていました。
大きな威力を見せる北朝鮮製の弾道ミサイルについて、ウクライナ当局は命中精度が高まってきていると指摘しています。
ウクライナ国防省で情報収集や分析を行う情報総局のアンドリー・チェルニャク広報官は今月、NHKのインタビューに対して「当初はミサイルの精度が低く、目標との距離が100メートル以上離れていたこともあったが、ロシアの技術者の支援を受けて精度は格段に向上している」と話し、危機感を示していました。