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元気溢れる公営競技にしていきたい、その一心で思ったことを書き綴っていきます。

50m走5秒台続出! → 日本の高校球児は「ウサイン・ボルト並みの速さ」の『からくり』

2020-10-12 21:38:18 | スポーツ


コロナ禍で、スポーツ界が大きな影響を受けている。

 それでも、異例ずくめとはいえ季節というのは過ぎ去るものだ。

 気づけばもう、プロ野球ドラフト会議の日が近づいてきている。今日10月12日はプロ志望届の締め切り日で、今年も200人を超える選手がプロを目指すこととなった。

 今季は新型コロナウイルスの影響もあり、野球界においても試合数が極端に限られている。スカウトたちも足しげく選手たちのプレーを見に赴いているとはいえ、今まで以上に「数字」の持つ力が重要になってくるのではないだろうか。


さて、そんな野球界において、野手の能力を計るモノサシのひとつに50m走のタイムがある。例年ドラフト前には彼らのその記録がメディアを賑わすことになる。

「速すぎる」野球選手の50m走のタイム

「50m5秒7の俊足」「俊足巧打の1番打者で、50mは5秒8――」

 野球ファンなら新聞やテレビのニュースで、度々こんな言葉を目にすることがあるだろう。野球における選手の走力の高さを示すのに、読者が身近にイメージしやすい50mの記録というのはわかりやすい指標なのだ。誰もが学生時代に体力テストで測定経験があり、記録のインパクトも伝わりやすい。

 だが、実はこれらのタイムは現実的にはありえない数字だと言ってよい。

 50m走の日本記録は、100mでも日本歴代6位となる10秒02の記録がある朝原宣治が持つ5秒75。世界記録保持者のウサイン・ボルトでさえ5秒47だ。つまり、毎年野球選手にはプロアマ問わず陸上競技の日本記録を上回る選手が何人もいるということになる。

 ではなぜ、こんな状況が起こってしまうのか。その原因は、簡単に言ってしまえば「測定方法の差が大きすぎる」ことだ。

 手動計測と電動計測の差はもちろん、ストップウォッチを握る人間の技量やスタートとゴールをどこで判断するのか、といった要素が非常に大きな影響を及ぼすからだ。

 一昨年、中京大学の眞鍋芳明准教授らのチームがそんな50m走の計測誤差についての研究論文を発表した(※論文発表時は国際武道大学准教授)。論文の作成理由について、准教授本人はこう語る。

「毎年ドラフトシーズンになると、必ず50m走のタイムの話題がメディアに出てくるんですよね(笑)。私は陸上競技が専門なんですが、他競技を貶めるとかそういうことではなく、単純に他競技の選手って『本当のところ、どのくらいのタイムが出ているのかな』ということが気になったんです」

眞鍋准教授らが発表した「50m走の測定誤差」の結果とは

 眞鍋准教授らが発表したのは『ストップウォッチを用いた50m走タイム手動計測における系統誤差・偶然誤差の定量』と題した研究論文。

 この研究では、8名のアスリートにそれぞれ1日5~6試技、3日間で計 16 試技の 50 m 走を実施し,合計 128 試技を実施。そして、異なる計測機器によって測定されたタイムを検証するために、その全ての試技について8名の計測者が同時にストップウォッチを用いて手動計測を行った。そうして得られた1000を超える数のタイムを、ビデオ計測で行った正確なタイムと比べてどれだけの誤差がでるのかを調査したのが今回の実験概要だ。

 眞鍋准教授が説明する。

「結論から言うと、手動計時と電気計時、測るものの違いだけでみると、誤差は0.27秒という結果だったんですね。これは、昔の陸上界で手動計時と電気計時の両方が公認記録として認められていた時代におけるルールである『手動計時を電気計時に換算する場合は、手動計時の記録に0.24秒を加算する』という値に近い。なので、まぁこんな感じかなという数字でした」

 一方で、驚いたのはその測定方法の違いではなく、測定方式による差のほうだった。

「一番我々がビックリしたのが、『タッチダウン方式』でタイムを取る際の差です」

大きな差を生む『タッチダウン方式』の測定

 眞鍋准教授の言うタッチダウン方式とは何か。

「陸上競技の場合、記録は電気計時による測定ですので、スタートの号砲と同時に電気信号が流れて、計測が始まる。一方で、球技の選手が50mを測定する際には、1歩目が地面についた瞬間を計測者が目視して、そこから測定をスタートする方法で記録を測ることが多い。これを『タッチダウン方式』と呼んでいるんです」

 そしてタッチダウン方式での測定では、スタートの号砲音で計測を開始した記録と比べて“0.6秒”もの差が出ていたという。そこに手動と電気での計測差を合わせると、タッチダウン方式では実に「0.87秒」もの差がでることになるわけだ。

「スタートの瞬間から1歩目がつくまで、0.6秒もかかっていたというのはちょっと衝撃でしたね。遠くからの目視だとほとんど気にならないんですが、実は結構な差がでていた。0.6秒なんていったら100m走競技では取り返しのつかない差ですから」

 一例として眞鍋准教授が挙げてくれたのが、阪神の藤浪晋太郎投手の2016年のキャンプ中の映像だ。テレビのスポーツニュースでは藤浪がキャンプで50mを5秒79という日本記録に近いタイムを出したことを報じ、その俊足ぶりをほめたたえている。

「これは映像を解析すると明らかに1歩目でストップウォッチを押す『タッチダウン方式』の計測なんですよね。実際に映像から解析してみると、記録は6秒6程度でした。そう考えると、“5秒79”という記録は極めて妥当です。ここにタッチダウン方式と電気計測分の差である0.87秒を足せば6秒66ですから。

 でも、『藤浪選手が5秒79で走っている』と聞けば、野球界の皆さんは『100mでもだいたい10秒5とか6とかでは走るだろう』と本気で思ってしまう。私の周りの野球人を見ても『桐生(祥秀)君には勝てないけど、インカレ選手くらいなら勝てるんじゃない?』という風に言われることも多い。でも、やっぱりそれは現実的にはなかなかありえないんです」

測定の差が選手たちに与える不利益とは

 そしてこの結果は、選手たちに大きなマイナスを生んでいる可能性を示唆している。

「例えば50mを測って『5秒8』という記録が出たとしたら、中には本当に電気計時でも5秒8で走れている選手もいれば、実際は電気計時だと6秒5とか6とかかかっている選手もいる。その両選手が同じ記録になってしまっているのが現状なんです」

 それはつまり、仮に陸上競技の日本記録に近いような走りができるアスリートが野球界にいたとしても、彼らの評価はその他の「5秒8」を記録した選手たちと変わらなくなるという事態に繋がる。実際の記録の価値が判然としなければ、選手にとってもそれは決して良いこととは言えないだろう。

 正確な記録が測定できれば、仮に競技に行き詰った時に、それをもとに他競技へとチャレンジしたり、より適切なポジションに挑戦をするといったことができるはずなのだが、そのチャンスを逸する一因にもなっているのではないだろうか。

「例えばゴール地点に記録員が立って映像を撮って、その記録を計測するだけでも正確な数値は出せるんです。そうすることで選手も自分のスピードが持つ価値をより理解しやすくなるのではないでしょうか」

 では、なぜ50mという距離に関して、これほど野球選手が「速い」イメージができてしまったのだろうか? その秘密は、球技と陸上競技の走り方の違いにあるのだという。

(山崎 ダイ)
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