ここでしくじるようならば、特捜は解体されるかもしれないよ。
小沢一郎を巡る事件で「失態」、森友事件は「腰砕け」。
最近、「何一つ実績を挙げれていない」だけに、「失敗は許されない」。
さらに、検察はうまくやったと仮定したところで、日産と三菱が「ルノーの軍門に下る」ようなことになれば、日本財界に多大な打撃を与えることになる。はっきり言って、日本のクルマ産業の世界的地位低下は避けられまい。
ルノーは「国策企業」だから、国を挙げて、ゴーンの件を「利用して企む」はず。
11/28(水) 7:40配信 東洋経済オンライン
日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の逮捕は、日本、フランスのみならず世界中を驚かせた。いまさらゴーンの業績については言うまでもないだろうが、「ルノー・日産・三菱」の3社アライアンス(提携)は、世界第1位の自動車グループへと駆け上がる可能性も秘めていただけに、その影響は計り知れない。
■海外と日本の大手メディアの論調
今回の逮捕劇の是非については、まだ結論づけることは到底できないだろうが、日本国内の大手メディアはゴーン個人の犯罪として、特捜部が提供した情報をどんどん流している。一方、海外メディアは日本とはまったく異なる視点での報道が目立つ。
「日本人の陰謀」「クーデター」といった論調が目立つ当事国フランスのメディアは言うまでもないが、第三国である英国のBBCでさえ「逮捕、拘留、解任は冷静に計画された悪意ある攻撃」ではないのか、という声を紹介している。
日本国内でも、「カルロス・ゴーン氏は無実だ」と主張する識者も出始めている。現状のルノー・日産・三菱のアライアンスがこのまま継続していくと考えるのは、楽観的だと予測する専門家も少なくない。
自動車業界は、EV(電気自動車)への転換期に当たるこの時期、単独の企業によるイノベーションで勝ち抜けられる時代ではなくなっている。今後は、国境の壁を乗り越えて先進技術を持った企業と共同開発していくことこそが、自動車会社が生き残れる唯一の道だとさえいわれている。
そんな中で、ルノーが強引に株式の過半数確保を狙って統合を迫ってくる可能性もある。その一方で、経営統合できなくなった場合には日産株を第三者に売却してしまうシナリオも十分に考えられる。
場合によっては、日産の経営陣を全員追い出して、ルノーが全経営陣を入れ替える画策をするかもしれない。あるいは、日産側に重大な裏切り行為として莫大な損害賠償金を請求してくる可能性もある。
問題は、日産だけではない。日本流の「自白」に頼った捜査方法で、国際的な経営者を逮捕、長期拘留している現状に対して、国際的な批判が噴出する可能性もある。ゴーン逮捕がもたらす負の部分があまり報道されていない中で、今後、想定できる日産や特捜部が意図しないシナリオを中心に考えてみたい。
■有価証券報告書虚偽記載は「故意犯」?
そもそもゴーンの容疑は「金融商品取引法=有価証券への虚偽記載」で、最高で懲役10年という重い罪だ。金額が大きいとはいえ容疑者を逮捕、長期勾留が必要だったのか。とりあえず別件逮捕して、そのうえでの「自白」による起訴を日本の特捜部は狙っているように見える。
たとえば、同じ金融商品取引法違反で摘発されることの多いインサイダー取引などは在宅起訴されることが多い。少なくともフランスでは、有名人であろうがこの程度の犯罪では、最長でも4日程度の拘留で釈放される。
にもかかわらず、日本の特捜部は最短でも20日間程度の拘留を目指して、ゴーンを逮捕したといわれており「自白」以外の明白な証拠をきちんと押さえているのか、日産側の主張を鵜呑みにしているのではないかという疑惑も出てくる。
いずれにしても、今回の逮捕劇は日本で働く外国人にとって少なからずショックを与えたことは間違いないだろう。日本人同様に微罪で逮捕されて、数十日間拘留されるのではないか、その間に自白を強要されるとすれば、日本の司法システムに恐怖感を覚えるはずだ。
そもそも今回の逮捕劇によって、今後何がテーマになっていくのかをまず整理する必要がある。大きく分けて3つある。
① ゴーンの容疑は有罪にできるのか?
② ルノーによる日産支配のシナリオはどうなる?
③ ルノー、ゴーン側の日本への反撃はないのか?
まずは、今回の特捜本部が狙ったシナリオどおりに、ことが進むのかどうかだ。日本では特捜部や日産からの情報提供によって、数多くの疑惑が報道されているが、海外では証拠もなしに軽々しく報道はしない。そう考えると、メディアの報道も鵜呑みにしてはいけないような気がする。
たとえば、ゴーンが得た報酬のうち、メインは80億円余りを有価証券に申告していなかったという疑惑だが、どのメディアも「脱税」という文字を使っていない。ということは、特捜部が当初から「脱税容疑」での立件は考えていないことを意味する。
自白などによって立件できればする、という消極的なものかもしれない。
あと残るのは、特別背任罪や横領ということになるが、これもオランダ子会社を設立して、この子会社の資金でリオデジャネイロやベイルートの物件を購入。ゴーンに無償で提供されたことになっている。ただ、連結にも入っていない子会社を舞台に、10兆円超の売り上げがある企業の代表権を持つゴーンの特別背任罪が問えるのか、という疑問が出る。
同様に、パリやアムステルダムの物件が、ゴーンの自宅として日産の別の子会社が提供していたことが問題視されているが、ゴーンほどの経営者に対する住宅供与としては社会的常識の範疇という解釈もできるかもしれない。
まだ、今後の捜査で何が出てくるのかわからないが、司法取引まで使って内部告発を摘発したという特捜部が考えるシナリオは、そう簡単な事案ではないだろう。
最も大きな問題は、有価証券報告書虚偽記載という犯罪は「故意」であることが、犯罪を成立させる犯罪構成要件のひとつとして求められている。知らないで不記載だった、とゴーンが主張すれば、検察は「知りながら記載しなかった」ことを証明しなければならない。
■仏政府、ルノーの反撃はどう来る?
さて、今回の逮捕劇のベースとなった日産と三菱をルノーに経営統合するというプランだが、ルノーの株式の15%、議決権の30%(フランスの法律で2年以上保有する株式の議決権は2倍になる)を保有するフランス政府が強く要望しているといわれている。
フランス政府は、ゴーンの逮捕によって簡単にあきらめてしまうのだろうか……。日産自動車としては、現在ルノーに握られている43%の議決権を「これ以上増やさない」もしくは「現在の15%の株式保有残高を25%まで増やしてルノーの議決権を無効にする」といった方法が考えられる。
日産はルノーがいなくてもなんとかなるが、ルノーにとっては昨年の収益の4割が日産自動車からの配当であることを考えると、生き残りをかけて日産との経営統合を画策してくることが考えられる。ルノーの筆頭株主はフランス政府であり、そういう意味では資金的には融通が利くはずだ。お互いの株式の購入合戦になると、日産とはいえその資金力に問題が出てくるかもしれない。
今後の展開次第では、TOB(株式公開買い付け)や、LBO(レバレッジド・バイアウト)といった「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」が繰り広げられる可能性もある。また、「ルノーVS.日産・三菱」の戦いだけではなく、今後はそこに第三者が割り込んでくる可能性もある。
ルノーはゴーンの外交手腕によって、さまざまな形での新しいビジネスの目が生まれている。ロシアのプーチン大統領から要請を受けた形でルノーと日産でロシア最大の自動車メーカー「アフトワズ」を完全子会社化しようとしており、さらに中国の国有自動車メーカー「東風汽車集団」との提携も決めている。
ルノーが、簡単にゴーンを会長職から解任しなかったのも頷けるというものだ。
仮に、資本の持ち合い競争になったときに日産側に勝算があるのかどうか。当然、そこまできちんと計算して日産側が反旗を翻したのだろうが、事態はしばしば想定外のところで起こる。日産のような4兆円程度の時価総額しかない企業は、何かことが起こればM&Aの格好のターゲットにされやすい。
これまでは「仏政府対ルノー・日産・三菱」だったのが、今後は「仏政府・ルノー対日産・三菱」という構図になっていく。
現在の日産の持ち株比率は、ルノーの43.4%(2018年9月現在、以下同)を最高にして、自社株が7.33%、チェース・マンハッタン銀行3.42%、そして日本マスタートラスト信託銀行、日本トラスティ・サービス信託銀行、日本生命といった会社が続く。
自社株とルノーの持ち株で50.7%に達しているのだが、ルノーが7%の株式を市場から、あるいはほかの投資会社から手に入れれば、過半数を抑えることになり、現在の役員をすべて解任して、新しいトップを置くことも可能になる。
ちなみに、会社支配に必要な株式数は通常は50%超でいいのだが、拒否権を持つ黄金株などがあれば議決権の3分の2以上を確保しておく必要がある。とはいえ、上場企業のような不特定多数の株主が多い場合は、20~30%の議決権でも会社を実行支配できるといわれる。
日産自動車が日本企業のままでいることのほうが将来性は高いのか、それともフランスのルノー傘下に入ったほうが企業としての成長性は高いのか……。そこはビジネスの理論が優先して、企業の国籍は二の次になるのかもしれない。
大株主であるルノーがこのまま黙っているとも思えない。ある程度の準備をしたうえで、海外メディアで「日産のブルータス」といわれる西川廣人社長やそれ以外の経営陣に対して、何らかの形で報復をしてくる可能性がある。
■日本政府にゴーン逮捕の正当性について説明責任は?
一方、フランス政府の動きにも注目する必要がある。
マクロン仏大統領は、自国第一主義を標榜するトランプ米大統領に面と向かってグローバリズムの重要性を唱える政治家だ。支持率が落ちていることもあって、そう簡単に日産、三菱連合をあきらめるとは思えない。
しかも、今回のゴーン逮捕はフランス大使館の神経を逆なでするようなタイミングで行われている。日仏友好160周年記念行事期間中の逮捕となり、フランス政府はメンツを潰されたと言える。
もう1つ疑問に残るのが特捜部の狙いだ。海外メディアでは、盛んに日産自動車がルノーに経営統合されて不可逆的な形で「フランスの日産」になってしまうことを阻止するために特捜部が動いたのではないか、そんな憶測が広がっている。
もし本当にそうであれば、これは権力による民事介入になる。ゴーン逮捕直後、特捜部が「(逮捕容疑の)ほかに意図して動いたわけではない」 といった声明を発表したが、裏側には何らかの意図があるという見方もできる。
ルノー、日産そして三菱の3社がどうなるのか。今後の成り行きは不透明極まりないが、ここまでは日本の特捜部と日産のルノー出身以外の経営陣にとっては思惑どおりなのかもしれない。とはいえ、日産自動車そのものも法人として「金融商品取引法」で罰せられることになるだろうし、日本人経営者を「司法取引」で救済したことが、はたして裁判で正当化されるのかが問題になる。
また、このままゴーン側が何もせずに反撃しないとはとても考えられない。ゴーンの裁判も、保釈後に帰国して来日を拒否しても、裁判を維持できるだけの証拠をそろえておく必要がある。ゴーン逮捕直後に、フランス大使自らゴーンに接見したことを見ても、彼がフランスにとっても特別な人であることは間違いない。
特捜部がリークする情報を流し続けている日本のマスコミも、ルノーやゴーンからの損害賠償請求に飛び上がるかもしれない。国際問題に発展したときに、特捜部や日産はゴーン逮捕の反撃シナリオに備えておく必要があるだろう。
■TOB(株式公開買い付け)合戦になる
フランス政府やゴーン率いるルノーが、日産・三菱連合に対してどんな報復手段を取ってくるのだろうか。第三者が登場してくる可能性はないのか。今後、考えられるいくつかのシナリオを紹介してみよう。
① TOBを仕掛けられる
TOBは、友好的買収、敵対的買収に際して行われる手法で、詳細は省くが市場外で上場企業の5%を超える株式を取得して、株式市場内で買い集める分と合わせて10%超取得した場合、最終的に議決権の3分の1を超えて株式を買い集める場合は「TOB」が必要になる。
ルノーが日産に対して会社を合併できる3分の2の議決権を目指してTOBを仕掛ける、あるいは日産がルノーに対して議決権を解消できる25%の解消を目指してTOBを仕掛ける、といったことも考えられる。現実的にはなかなか難しいことかもしれないが、株式市場ではよくあることといっていい。場合によっては、互いに自社株買いやTOBを掛け合って、議決権確保に奔走することになる。
そこで、問題になるのが「時価総額」の規模になる。
時価総額の小さな企業がより大きな企業を買収するケースはよくあることで、時価総額約4兆円の日産自動車に対して、約2兆7000億円程度のルノーが買収=完全支配に動く可能性も考える必要がある。しかも、ルノーにはバックに仏政府の存在がある。
日本で最初に行われた敵対的TOBは、1999年5月に行われた英国の「ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)」による「国際デジタル通信(IDC)」買収だったといわれている。NTTによる買収がうわさされていたときに、横からさっとTOBを仕掛けて、伊藤忠商事などの大株主もその買収提案に乗ったケースだ。
C&Wのバックには英国政府の後押しがあったといわれており、しばしば政府によるバックアップがTOBの成否を決める。
ひょっとしたら、EV(電気自動車)時代の到来を見据えて中国のアリババや韓国のサムスン電子あたりが、日産やルノーに対してTOBを仕掛けてくる可能性もあるかもしれない。投資会社などから見ても、今回のようなスキャンダルにまみれた日産やルノーは「M&A(企業買収)」の格好の対象となるかもしれない。
ちなみに、こうした会社の支配権を求めて戦うことを「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」というが、日本企業は概して不慣れで経験も少ない。
② ルノーが日産自動車株を第三者に売却する!
ルノーにとって日産や三菱とのアライアンスは必要不可欠、と読んでのゴーン排除を進めたのだろうが、ルノーにとって3社アライアンスは、あくまでもゴーン会長というカリスマ経営者の存在があってのことだ。ゴーン会長がいないのであれば、また話は変わってくる。
時代の大きな転換期で、日産と組むメリットがないとルノーの経営陣が判断すれば、ルノーが保有する43%の日産株を第三の企業に売却してしまうことも考えられる。あるいは日産がルノーの保有株を全部引き受けるケースも考えられる。
③ 日産自動車がルノーを買収する
日産の現経営陣がトップを検察に突き出すにあたっては、その後のさまざまなシナリオもシミュレーションしたはずだ。たとえば、日産自動車がこれまでゴーンに止められていたルノーの株式を買い占めて、25%の株式を手中に収めようと考えるのは当たり前のことだ。日本の会社法ではルノーの議決権を25%保有すれば、ルノーの日産に対する議決権が相殺されて、両者の支配関係はなくなるからだ。
もっとも、そんな事態をマクロン仏大統領が黙って許すはずもない。そもそもマクロン大統領は、オランド政権時代に経済・産業・デジタル大臣として2年以上保有する株主の議決権を2倍にする「フロランジュ法」を成立させており、ルノーが日産自動車を経営統合させてフランスの会社にしようと画策していた当事者だ。しかも、現在では日産の下に三菱自動車まで付いてくる。
日産がルノー株を手に入れるためには、相当の覚悟を持って挑むしかなさそうだ。
そこで問題になるのは時価総額だが、日本企業はもともと少なく、トップのトヨタ自動車でさえ約22兆円程度しかない。世界のトップ企業は100兆円を超える「アップル」をはじめとして50兆円以上の時価総額を持つ会社が多い。
わずか4兆円程度の日産は、このグローバル社会の中では考えられないことだが、これまでルノーの傘下であったこと、ゴーンというカリスマ経営者がいたことを考えると、無理もないのかもしれない。
とはいえ、ルノーの株式保有比率を現在の15%から25%に増やさなければ、3分の1の株式を保有するルノーは、重大な決定事項を拒否できる。50%を超えれば、役員の選任も可能になる。
■カギを握っているのは日本側なのか
むろん、こうした最悪のシナリオだけでなく、とりあえずゴーンが素直に罪を認めて、経営から足を洗い、お互いにウィン・ウィンの3社アライアンスを形成できる可能性もある。しかし、そのカギを握っているのははたして日本側なのだろうか。
日産自動車がどんなに頑張っても、結局のところは43%もの株を握られているルノー次第と言っても良いのかもしれない。
特捜本部も、自白なしで本当に有罪に持ち込めるのか。日産にとって、本当の正念場はこれからやってくる。
(一部敬称略)
岩崎 博充 :経済ジャーナリスト
小沢一郎を巡る事件で「失態」、森友事件は「腰砕け」。
最近、「何一つ実績を挙げれていない」だけに、「失敗は許されない」。
さらに、検察はうまくやったと仮定したところで、日産と三菱が「ルノーの軍門に下る」ようなことになれば、日本財界に多大な打撃を与えることになる。はっきり言って、日本のクルマ産業の世界的地位低下は避けられまい。
ルノーは「国策企業」だから、国を挙げて、ゴーンの件を「利用して企む」はず。
ゴーン逮捕で想定される最悪の反撃シナリオ(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース https://t.co/3seGO8jHCt @YahooNewsTopics
— Naoya Sano (@109Yoroshiku) 2018年11月28日
11/28(水) 7:40配信 東洋経済オンライン
日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の逮捕は、日本、フランスのみならず世界中を驚かせた。いまさらゴーンの業績については言うまでもないだろうが、「ルノー・日産・三菱」の3社アライアンス(提携)は、世界第1位の自動車グループへと駆け上がる可能性も秘めていただけに、その影響は計り知れない。
■海外と日本の大手メディアの論調
今回の逮捕劇の是非については、まだ結論づけることは到底できないだろうが、日本国内の大手メディアはゴーン個人の犯罪として、特捜部が提供した情報をどんどん流している。一方、海外メディアは日本とはまったく異なる視点での報道が目立つ。
「日本人の陰謀」「クーデター」といった論調が目立つ当事国フランスのメディアは言うまでもないが、第三国である英国のBBCでさえ「逮捕、拘留、解任は冷静に計画された悪意ある攻撃」ではないのか、という声を紹介している。
日本国内でも、「カルロス・ゴーン氏は無実だ」と主張する識者も出始めている。現状のルノー・日産・三菱のアライアンスがこのまま継続していくと考えるのは、楽観的だと予測する専門家も少なくない。
自動車業界は、EV(電気自動車)への転換期に当たるこの時期、単独の企業によるイノベーションで勝ち抜けられる時代ではなくなっている。今後は、国境の壁を乗り越えて先進技術を持った企業と共同開発していくことこそが、自動車会社が生き残れる唯一の道だとさえいわれている。
そんな中で、ルノーが強引に株式の過半数確保を狙って統合を迫ってくる可能性もある。その一方で、経営統合できなくなった場合には日産株を第三者に売却してしまうシナリオも十分に考えられる。
場合によっては、日産の経営陣を全員追い出して、ルノーが全経営陣を入れ替える画策をするかもしれない。あるいは、日産側に重大な裏切り行為として莫大な損害賠償金を請求してくる可能性もある。
問題は、日産だけではない。日本流の「自白」に頼った捜査方法で、国際的な経営者を逮捕、長期拘留している現状に対して、国際的な批判が噴出する可能性もある。ゴーン逮捕がもたらす負の部分があまり報道されていない中で、今後、想定できる日産や特捜部が意図しないシナリオを中心に考えてみたい。
■有価証券報告書虚偽記載は「故意犯」?
そもそもゴーンの容疑は「金融商品取引法=有価証券への虚偽記載」で、最高で懲役10年という重い罪だ。金額が大きいとはいえ容疑者を逮捕、長期勾留が必要だったのか。とりあえず別件逮捕して、そのうえでの「自白」による起訴を日本の特捜部は狙っているように見える。
たとえば、同じ金融商品取引法違反で摘発されることの多いインサイダー取引などは在宅起訴されることが多い。少なくともフランスでは、有名人であろうがこの程度の犯罪では、最長でも4日程度の拘留で釈放される。
にもかかわらず、日本の特捜部は最短でも20日間程度の拘留を目指して、ゴーンを逮捕したといわれており「自白」以外の明白な証拠をきちんと押さえているのか、日産側の主張を鵜呑みにしているのではないかという疑惑も出てくる。
いずれにしても、今回の逮捕劇は日本で働く外国人にとって少なからずショックを与えたことは間違いないだろう。日本人同様に微罪で逮捕されて、数十日間拘留されるのではないか、その間に自白を強要されるとすれば、日本の司法システムに恐怖感を覚えるはずだ。
そもそも今回の逮捕劇によって、今後何がテーマになっていくのかをまず整理する必要がある。大きく分けて3つある。
① ゴーンの容疑は有罪にできるのか?
② ルノーによる日産支配のシナリオはどうなる?
③ ルノー、ゴーン側の日本への反撃はないのか?
まずは、今回の特捜本部が狙ったシナリオどおりに、ことが進むのかどうかだ。日本では特捜部や日産からの情報提供によって、数多くの疑惑が報道されているが、海外では証拠もなしに軽々しく報道はしない。そう考えると、メディアの報道も鵜呑みにしてはいけないような気がする。
たとえば、ゴーンが得た報酬のうち、メインは80億円余りを有価証券に申告していなかったという疑惑だが、どのメディアも「脱税」という文字を使っていない。ということは、特捜部が当初から「脱税容疑」での立件は考えていないことを意味する。
自白などによって立件できればする、という消極的なものかもしれない。
あと残るのは、特別背任罪や横領ということになるが、これもオランダ子会社を設立して、この子会社の資金でリオデジャネイロやベイルートの物件を購入。ゴーンに無償で提供されたことになっている。ただ、連結にも入っていない子会社を舞台に、10兆円超の売り上げがある企業の代表権を持つゴーンの特別背任罪が問えるのか、という疑問が出る。
同様に、パリやアムステルダムの物件が、ゴーンの自宅として日産の別の子会社が提供していたことが問題視されているが、ゴーンほどの経営者に対する住宅供与としては社会的常識の範疇という解釈もできるかもしれない。
まだ、今後の捜査で何が出てくるのかわからないが、司法取引まで使って内部告発を摘発したという特捜部が考えるシナリオは、そう簡単な事案ではないだろう。
最も大きな問題は、有価証券報告書虚偽記載という犯罪は「故意」であることが、犯罪を成立させる犯罪構成要件のひとつとして求められている。知らないで不記載だった、とゴーンが主張すれば、検察は「知りながら記載しなかった」ことを証明しなければならない。
■仏政府、ルノーの反撃はどう来る?
さて、今回の逮捕劇のベースとなった日産と三菱をルノーに経営統合するというプランだが、ルノーの株式の15%、議決権の30%(フランスの法律で2年以上保有する株式の議決権は2倍になる)を保有するフランス政府が強く要望しているといわれている。
フランス政府は、ゴーンの逮捕によって簡単にあきらめてしまうのだろうか……。日産自動車としては、現在ルノーに握られている43%の議決権を「これ以上増やさない」もしくは「現在の15%の株式保有残高を25%まで増やしてルノーの議決権を無効にする」といった方法が考えられる。
日産はルノーがいなくてもなんとかなるが、ルノーにとっては昨年の収益の4割が日産自動車からの配当であることを考えると、生き残りをかけて日産との経営統合を画策してくることが考えられる。ルノーの筆頭株主はフランス政府であり、そういう意味では資金的には融通が利くはずだ。お互いの株式の購入合戦になると、日産とはいえその資金力に問題が出てくるかもしれない。
今後の展開次第では、TOB(株式公開買い付け)や、LBO(レバレッジド・バイアウト)といった「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」が繰り広げられる可能性もある。また、「ルノーVS.日産・三菱」の戦いだけではなく、今後はそこに第三者が割り込んでくる可能性もある。
ルノーはゴーンの外交手腕によって、さまざまな形での新しいビジネスの目が生まれている。ロシアのプーチン大統領から要請を受けた形でルノーと日産でロシア最大の自動車メーカー「アフトワズ」を完全子会社化しようとしており、さらに中国の国有自動車メーカー「東風汽車集団」との提携も決めている。
ルノーが、簡単にゴーンを会長職から解任しなかったのも頷けるというものだ。
仮に、資本の持ち合い競争になったときに日産側に勝算があるのかどうか。当然、そこまできちんと計算して日産側が反旗を翻したのだろうが、事態はしばしば想定外のところで起こる。日産のような4兆円程度の時価総額しかない企業は、何かことが起こればM&Aの格好のターゲットにされやすい。
これまでは「仏政府対ルノー・日産・三菱」だったのが、今後は「仏政府・ルノー対日産・三菱」という構図になっていく。
現在の日産の持ち株比率は、ルノーの43.4%(2018年9月現在、以下同)を最高にして、自社株が7.33%、チェース・マンハッタン銀行3.42%、そして日本マスタートラスト信託銀行、日本トラスティ・サービス信託銀行、日本生命といった会社が続く。
自社株とルノーの持ち株で50.7%に達しているのだが、ルノーが7%の株式を市場から、あるいはほかの投資会社から手に入れれば、過半数を抑えることになり、現在の役員をすべて解任して、新しいトップを置くことも可能になる。
ちなみに、会社支配に必要な株式数は通常は50%超でいいのだが、拒否権を持つ黄金株などがあれば議決権の3分の2以上を確保しておく必要がある。とはいえ、上場企業のような不特定多数の株主が多い場合は、20~30%の議決権でも会社を実行支配できるといわれる。
日産自動車が日本企業のままでいることのほうが将来性は高いのか、それともフランスのルノー傘下に入ったほうが企業としての成長性は高いのか……。そこはビジネスの理論が優先して、企業の国籍は二の次になるのかもしれない。
大株主であるルノーがこのまま黙っているとも思えない。ある程度の準備をしたうえで、海外メディアで「日産のブルータス」といわれる西川廣人社長やそれ以外の経営陣に対して、何らかの形で報復をしてくる可能性がある。
■日本政府にゴーン逮捕の正当性について説明責任は?
一方、フランス政府の動きにも注目する必要がある。
マクロン仏大統領は、自国第一主義を標榜するトランプ米大統領に面と向かってグローバリズムの重要性を唱える政治家だ。支持率が落ちていることもあって、そう簡単に日産、三菱連合をあきらめるとは思えない。
しかも、今回のゴーン逮捕はフランス大使館の神経を逆なでするようなタイミングで行われている。日仏友好160周年記念行事期間中の逮捕となり、フランス政府はメンツを潰されたと言える。
もう1つ疑問に残るのが特捜部の狙いだ。海外メディアでは、盛んに日産自動車がルノーに経営統合されて不可逆的な形で「フランスの日産」になってしまうことを阻止するために特捜部が動いたのではないか、そんな憶測が広がっている。
もし本当にそうであれば、これは権力による民事介入になる。ゴーン逮捕直後、特捜部が「(逮捕容疑の)ほかに意図して動いたわけではない」 といった声明を発表したが、裏側には何らかの意図があるという見方もできる。
ルノー、日産そして三菱の3社がどうなるのか。今後の成り行きは不透明極まりないが、ここまでは日本の特捜部と日産のルノー出身以外の経営陣にとっては思惑どおりなのかもしれない。とはいえ、日産自動車そのものも法人として「金融商品取引法」で罰せられることになるだろうし、日本人経営者を「司法取引」で救済したことが、はたして裁判で正当化されるのかが問題になる。
また、このままゴーン側が何もせずに反撃しないとはとても考えられない。ゴーンの裁判も、保釈後に帰国して来日を拒否しても、裁判を維持できるだけの証拠をそろえておく必要がある。ゴーン逮捕直後に、フランス大使自らゴーンに接見したことを見ても、彼がフランスにとっても特別な人であることは間違いない。
特捜部がリークする情報を流し続けている日本のマスコミも、ルノーやゴーンからの損害賠償請求に飛び上がるかもしれない。国際問題に発展したときに、特捜部や日産はゴーン逮捕の反撃シナリオに備えておく必要があるだろう。
■TOB(株式公開買い付け)合戦になる
フランス政府やゴーン率いるルノーが、日産・三菱連合に対してどんな報復手段を取ってくるのだろうか。第三者が登場してくる可能性はないのか。今後、考えられるいくつかのシナリオを紹介してみよう。
① TOBを仕掛けられる
TOBは、友好的買収、敵対的買収に際して行われる手法で、詳細は省くが市場外で上場企業の5%を超える株式を取得して、株式市場内で買い集める分と合わせて10%超取得した場合、最終的に議決権の3分の1を超えて株式を買い集める場合は「TOB」が必要になる。
ルノーが日産に対して会社を合併できる3分の2の議決権を目指してTOBを仕掛ける、あるいは日産がルノーに対して議決権を解消できる25%の解消を目指してTOBを仕掛ける、といったことも考えられる。現実的にはなかなか難しいことかもしれないが、株式市場ではよくあることといっていい。場合によっては、互いに自社株買いやTOBを掛け合って、議決権確保に奔走することになる。
そこで、問題になるのが「時価総額」の規模になる。
時価総額の小さな企業がより大きな企業を買収するケースはよくあることで、時価総額約4兆円の日産自動車に対して、約2兆7000億円程度のルノーが買収=完全支配に動く可能性も考える必要がある。しかも、ルノーにはバックに仏政府の存在がある。
日本で最初に行われた敵対的TOBは、1999年5月に行われた英国の「ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)」による「国際デジタル通信(IDC)」買収だったといわれている。NTTによる買収がうわさされていたときに、横からさっとTOBを仕掛けて、伊藤忠商事などの大株主もその買収提案に乗ったケースだ。
C&Wのバックには英国政府の後押しがあったといわれており、しばしば政府によるバックアップがTOBの成否を決める。
ひょっとしたら、EV(電気自動車)時代の到来を見据えて中国のアリババや韓国のサムスン電子あたりが、日産やルノーに対してTOBを仕掛けてくる可能性もあるかもしれない。投資会社などから見ても、今回のようなスキャンダルにまみれた日産やルノーは「M&A(企業買収)」の格好の対象となるかもしれない。
ちなみに、こうした会社の支配権を求めて戦うことを「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」というが、日本企業は概して不慣れで経験も少ない。
② ルノーが日産自動車株を第三者に売却する!
ルノーにとって日産や三菱とのアライアンスは必要不可欠、と読んでのゴーン排除を進めたのだろうが、ルノーにとって3社アライアンスは、あくまでもゴーン会長というカリスマ経営者の存在があってのことだ。ゴーン会長がいないのであれば、また話は変わってくる。
時代の大きな転換期で、日産と組むメリットがないとルノーの経営陣が判断すれば、ルノーが保有する43%の日産株を第三の企業に売却してしまうことも考えられる。あるいは日産がルノーの保有株を全部引き受けるケースも考えられる。
③ 日産自動車がルノーを買収する
日産の現経営陣がトップを検察に突き出すにあたっては、その後のさまざまなシナリオもシミュレーションしたはずだ。たとえば、日産自動車がこれまでゴーンに止められていたルノーの株式を買い占めて、25%の株式を手中に収めようと考えるのは当たり前のことだ。日本の会社法ではルノーの議決権を25%保有すれば、ルノーの日産に対する議決権が相殺されて、両者の支配関係はなくなるからだ。
もっとも、そんな事態をマクロン仏大統領が黙って許すはずもない。そもそもマクロン大統領は、オランド政権時代に経済・産業・デジタル大臣として2年以上保有する株主の議決権を2倍にする「フロランジュ法」を成立させており、ルノーが日産自動車を経営統合させてフランスの会社にしようと画策していた当事者だ。しかも、現在では日産の下に三菱自動車まで付いてくる。
日産がルノー株を手に入れるためには、相当の覚悟を持って挑むしかなさそうだ。
そこで問題になるのは時価総額だが、日本企業はもともと少なく、トップのトヨタ自動車でさえ約22兆円程度しかない。世界のトップ企業は100兆円を超える「アップル」をはじめとして50兆円以上の時価総額を持つ会社が多い。
わずか4兆円程度の日産は、このグローバル社会の中では考えられないことだが、これまでルノーの傘下であったこと、ゴーンというカリスマ経営者がいたことを考えると、無理もないのかもしれない。
とはいえ、ルノーの株式保有比率を現在の15%から25%に増やさなければ、3分の1の株式を保有するルノーは、重大な決定事項を拒否できる。50%を超えれば、役員の選任も可能になる。
■カギを握っているのは日本側なのか
むろん、こうした最悪のシナリオだけでなく、とりあえずゴーンが素直に罪を認めて、経営から足を洗い、お互いにウィン・ウィンの3社アライアンスを形成できる可能性もある。しかし、そのカギを握っているのははたして日本側なのだろうか。
日産自動車がどんなに頑張っても、結局のところは43%もの株を握られているルノー次第と言っても良いのかもしれない。
特捜本部も、自白なしで本当に有罪に持ち込めるのか。日産にとって、本当の正念場はこれからやってくる。
(一部敬称略)
岩崎 博充 :経済ジャーナリスト