胸をえぐられるほどに大きな心配をした孫兄ちゃんが、無事、元気に、戻って来た。
短い手術・短い入院生活で、取り敢えず無罪放免。周囲をホッとさせ、明るい笑顔を振りまいている。
一度は覚悟した大学留年などの心配が、杞憂に終わったことを、先ずは心から喜んでいる。「お帰り!兄ちゃん!!」である。
5月半ば、「健康診断の結果で精密検査を求められた」と、看護師である母親に報告があった。
すぐに対応した精密検査では、右胸上部に腫瘍と思われる黒点が見つかったという。
華やかだった高校生活の延長線上を、すこぶる元気に謳歌しているとばかり思っていた私たち周囲の人間にとって、まさしく晴天の霹靂。ただただ驚くばかり。
若くて健康な肉体は、腫瘍までも元気に成長させるらしく、本人から自覚症状の訴えもあり、地元病院からさらに大きな広島の病院での更なる精密検査に至った。
「悪性・良性」の確たる判定のないまま、今以上に進展しないうちに切除手術が決まった。それもすんなりとは行かない様子である。
単なる外科手術なのか、神経内科と合同手術なのか。こうなると素人が口をはさむ余地はない。
そこに、経験を持つ母親の意見も加味され、合同手術となった。
幸いなことに、神経を損傷するまでには至っていないことが確認され、腫瘍除去の外科手術で事なきを得た。
「腹が減った、何か食べさせて」が、術後の最初の言葉だったようで、付き添った両親も本人も大笑いで一件落着。
と言いたいところだが、ことはそれほど甘くないというのが、世の相場である。
生活は元通り普通の大学生活に戻ったが、油断は禁物。しばらくは経過観察。それも間を空けず病院通いとなる。
「病気になったものは仕方がない。闘うだけだから頑張れよ」というジジに「闘うってどういうこと?何を頑張るん?」と正直な質問が来る。
病と闘うということは、「先ずは、病気に負けて落ち込むな」「治ると信じて病気になった今を楽しめ」「ベッド生活ゆえにできることだってあるはず」。
などと理屈をこねると、「そういうことか~」と笑った。
病気も、思いがけない困難も、人生には付き物である。だから生きていくことって面白いんよ。とまでは言わなかった。
若い彼にはそこまでの分別を求めるのは酷だから。
いずれにしても、肝を冷やした。元気な笑顔が戻ってきて、ホッ!安堵の胸を撫で下ろしている。