題名 : 古着屋総兵衛影始末1巻~11巻
著者 : 佐伯泰英
出版年月(11巻) : 2011年9月
出版 : 新潮文庫
定価(11巻) : ¥705(税別)
あらすじ:
徳川家康によって隠れ旗本として徳川幕府を守るという密命をうけた鳶沢一族は、江戸城の近くの富沢町に古着商の権利と拝領地を与えられ、また久能山の東照宮の霊廟衛士として駿河の国鳶沢村に領地を与えられた。表の貌は江戸の古着商の上に君臨する大黒屋、裏の貌は影の旗本として、幕閣の中の一人の「影」からの命令を実行する役目を代々負っていた。
物語は、徳川幕府開闢してから100年ほどたった元禄期である。 6代目鳶沢総兵衛勝頼(大黒屋総兵衛)が、鳶沢一族を潰そうとする陰謀と戦い、掟破りを犯した「影」を処断し、新しい「影」との間に密命を結び直し、妖術使いと戦い、鎖国の禁を破ってベトナムまでいくという夢あふれるスケールの大きい時代劇である。陰謀の中心は5代将軍徳川綱吉の側用人から大老格にまでなった柳沢吉保で、全編通した敵役である。物語は綱吉の死と吉保の失脚、そして総兵衛の江戸からの撤収と大黒屋の国元と江戸との総入替えで終わる。
感想:
この物語では船が重要な役割を果たす。江戸の町が川と運河の町として描かれている。乗り物も運河を行き来する舟である。その猪牙舟(ちょきぶね)は人の足より速く、江戸の人々に現在のタクシーのように利用される。また、甲府で柳沢家の騎馬軍団に追われたときも富士川を船で下って逃げている。大黒屋が江戸で店じまいに追い込まれたときも陸奥、出羽、蝦夷を船商いで回っている。駿河の国元へ行くのも船が活用され、琉球からベトナムへ行くのも船である。常に船が救いの神として現れる。
またいろいろな地方に行くのでその地形や特産物、とくに食べ物が出てくる。江戸時代の旅行をしているような気分になる。
数々の武芸者と戦うが、途中から妖術使いや予知能力のある少年が出てきたりする。荒唐無稽で中国の武侠小説の趣がある。
最初は家康の遺訓を忠実に守るという姿勢だったのが、柳沢吉保の鳶沢一族抹殺の陰謀と戦う中で、「影」の指令が徳川家のためにならないと判断し、その命に背き赤穂浪士を助けてしまう。ここから単なる実行部隊としての鳶沢一族が自らの判断に基づいて行動するという方向に大きく舵を切る。鎖国の禁を破ったのも徳川幕府の安泰のために外国の情報を常に入手する必要があるという鳶沢総兵衛勝頼の判断があったのだ。このように武士でありながら豪商でもあるので自由闊達に動く。虚実入り混じった娯楽小説である。