『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

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読書感想264  ツシマ -バルチック艦隊遠征・壊滅―

2019-07-15 16:05:57 | 時事・歴史書

ツシマ(下)バルチック艦隊壊滅 中古書籍

読書感想264  ツシマ -バルチック艦隊遠征服・壊滅―

著者   ノビコフ・プリボイ

生没年  1877年~1944

出身地  ロシア

出版年  1933

受賞   第1回スターリン賞受賞

訳者   上脇進

出版社  (株)原書房

出版年  2004

☆☆感想☆☆☆

日露戦争の日本海海戦を描いたノンフィクション文学やそれに近い作品は日本にもある。有名なものは、司馬遼太郎の「坂の上の雲」と吉村昭の「海の史劇」である。これらは主として日本側から描いたものだ。それに対して本書はロシア側から描いたもので、実際に日本海海戦を体験したバルチック艦隊の乗組員が描いたノンフィクションである。バルチック艦隊は戦艦37隻、商船13隻を引き連れた大部隊だったが、新鋭戦艦は4隻しかなかった。日本の連合艦隊の戦艦12隻の一番古い戦艦ですら、ロシア戦艦で6番目に艦齢が若いものより2年も新しかった。機材も古く、乗組員の訓練成績も不良だった。司令官の能力がないのも周知のことだった。なにしろ北海のドイツの領海で日本艦隊の襲撃と誤認して漁船を砲撃するというのが、バルチック艦隊の初の戦果だったからだ。日本海海戦が始まる前に、戦闘能力は、ロシア1:日本1.8という予測を「新時代」紙に発表した元バルチック艦隊所属の海軍中佐もいた。そしてその情報は、喜望峰を回ってマダガスカル島に停泊していた段階で乗組員が「新時代」紙の音読を通じて知った。艦内には革命派の将校や水兵もいてロシア国内の反政府的な情報を乗組員に流していた。著者のプリボイも主計下士官で革命派。艦内に資本論を持ち込んでいた機械科将校ワシーリエフも確信犯。プリボイやワシーリエフが乗っていたのは新鋭戦艦「アリヨール」。意味は「鷲」。士官と水兵の厳しい上下関係と身分的な待遇差別からくる水兵たちの憎悪が渦巻いていて、それが爆発したのはベトナムのカムラン湾で停泊中だった。水兵たちが、病気で死んだ牛の肉を提供されるのに抗議する事態に発展し、アリヨールの艦長が譲歩して新しい牛肉を提供することで事態を収拾した。ところが、その報告を受けた司令官のロジェストヴェンスキーが自ら乗り込んできて適当に8名の水兵を選び出し「日本からいくら金をもらったんだ」と罵倒して運送船に隔離した。アリヨールが降伏したあとの艦内の無政府状態もすさまじい。艦内の公金や亡くなった艦長のお金まで主計大尉が横領し、それを目撃した水兵にも分け前を与えて口を噤ませる。そして水兵たちは将校たちの高級酒を奪ってあおる。一方、彼らが日本の戦艦に移ったとき、日本人の水兵たちが「ロスケ、ロスケ」と口々に言ってにこにこ笑っている。そして白いパンとアメリカ製のコンビーフを提供される。どんな目に遭わされるかと恐れていたロシア人はほっとして、持ってきた高級酒を日本人の衛兵にもふるまう。そして日本の戦艦と乗組員の効率的な動きを目にして、いまさらながらバルチック艦隊の非効率性に思いを致す。

敗北は必至と司令官も士官も水兵も思っていて、日本海に入っていくのがどんなに絶望的な気持ちだったかと思ってしまう。著者によれば、1時間で勝敗が決したという。バルチック艦隊の壊滅はロシア第1次革命の勃発の引き金にもなっている。捕虜収容所で士官が何人も革命派に鞍替えしている。その理由はこんな政府では戦争に勝てないという怒りからだ。

ワシーリエフは本名ウラジミール・コスチェンコといって「捕らわれた鷲」というバルチック艦隊についてのノンフィクションを発表している。 


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